5-10.1年次夏季の計画
春季の第十一週に続き、第十二週でも第二層チャレンジを行った。
命の危機を感じる相当数のヒヤリハットを経験したが、幸いにも後遺症が残るようなケガなく終えることができた。
反省し、再発防止ないし再発しても大丈夫なように対策を考える。
転生三人組も含めた全員、霊格レベルが4に上がった。
ただし、ヨッシーの【個人倉庫】が霊格レベルに連動せず、三人を悩ませている。
ともあれ、現段階でも第二層で戦え、第一層よりも経験値的な意味で稼げることは証明された。
金銭も、2回の2泊3日狩りで各自クオルタ銀貨3枚超を獲得。
魔石を除くドロップ品の買取値はよくて小銅貨1枚だが、品目の増加とドロップ率の組み合わせで積みあげ。
【通信販売】用のポイント変換は、草原部で手に入った品は多くても数百ポイント。
転生三人組は燦然と輝くキノコ様のポイント変換効率に脳を焼かれているため、現金化を優先。
革の胸当てはまだ遠く、小楯の修繕費や破れたズボン、ボロボロに裂かれたマントの買い替えなど、出費も大なり。
「かねがねカネがねぇ」
ただし、稼ぐあてがあり、変な借金もない。
自転車操業だろうと資産プラスサイクルで回っているならヨシである。
☆
ジュスティーヌの確保したカフェテラスの個室にて、チャレンジで取得したデータも踏まえた反省会。
「レベルアップに必要な霊格量が倍々ゲームだとすると、3から4はコウモリ2000匹。自分たちはその倍の4000匹」
「あたらめて数字にすると、なんかその、きっついわね」
ヴィオラたちは顔をしかめた。
「このコウモリ4000匹相当の大部分を、第二層チャレンジでゲットできちゃったんだよなあ」
「ほっほぇ~」
前提となる必要霊格量が正しければ、これまでの狩りの4季分を、たった2回の2泊3日狩りで得てしまったことになる。
しかも、手探り段階の様子見にもかかわらず。
2回の狩りで、一人頭のカウントは約280匹。
第二層の魔物1匹から、コウモリ12匹分以上の霊格量が得られている計算になる。
「『こんにちは、死ね』で済むコウモリよりはるかに手間どるが」
「それはそう」
各自で清書したうえで突き合わせた地図に、魔物との交戦点・遭遇数をプロットしていく。
第一層側に近いところと第三層側に近いところとでは、やはり狩猟圧の差か、第三層側が遭遇回数・魔物数ともに多いようだ。
連絡路からの距離でも同様の傾向を示している。
「第一層側に近いところでやっても、第一層の5倍くらいは見込める?」
「なるほど。レベル2でも行けるなら行けとなるわけだ」
「実際に俺たちがレベル2で突っ込んだら、どうなったかわかんねえけどな」
ホーンラビットに突き刺され、グラスウルフに噛みつかれ引き裂かれ、重症を負って最悪死亡。
レベルというよりかは装備の質の問題で。
レベル上げつつお金を貯めて装備を整えた今だったからこそ、ぎりぎり戦闘が成立し生きて帰ってこれた。
「本当にすいません。数字に気を取られ、騎士科が比較的裕福な家の出が多いことを失念していました」
「まあ、『レベル2から』は『最速理論』の話だし」
騎士科ロードマップでも標準ケースなら第二層はレベル3から。
この段階での1レベルの差は非常に、そして非情に大きい。
「まだ手探りなため、伸びる可能性はある。森林部もあるしな」
「金銭面でも第一層の倍は見込める感じよね」
総じてうまい。マリエルの笑顔は輝いていた。
☆
今後、身内では第二層をメインとすることを決定し、夏季の履修計画の作成に入る。
むろん学院パーティ編成がある以上、時間割を大きくいじることはない。
転生三人組は実戦で経験を積める棒杖術を外し、必要性を痛感中の盾術を入れた。
「1年次も、もう最後の季なんですねえ」
「そうねえ、激動よねえ」
感慨にふけるジュスティーヌとヴィオラ主従。
「ああ。あたし多分4週・8週が生理なの。学パは不参加にさせて」
「あ、わたしもー」
14号パーティの人数調整は、ヴィオラとマリエルが女の子の日を理由に通期で不参加を表明。
「現金な話で悪いけど、十分にレベル上げられそうだし、女の子の日もどこかで絡むから、ならもういっそ学パ休みでいいかなって」
「僕も、休業中の本気狩りに参加できれば十分すぎるからなあ」
マリエルとクリスはそもそものターゲットレベルが他のメンバーより低い。
さらに薬剤科と家政科は、制度として学院パーティ編成を組み込んでいないので、不参加なら光と闇の曜日を単位取得に回せる。
「3人ぬけて参加5人なら編成で配される1人を入れて6人でちょうどいいか」
クリスも学科単位を優先でいいだろうと、不参加で確定した。
「夏季で30+30の60単位を取れれば、これまでの分と合わせて必要単位の約半分だからね」
「まー、それだけしゃかりきになって勉強してるって自負もあるけどね」
4年で卒院すればいいやで必要単位数だけを集めるならば、週の講座30コマの半分も出れば十分だ。
レベルや収入のためにダンジョンに潜る必要がなければ、趣味以外で武術訓練に時間を割く必要もない。
じゃあ楽かというとそうでもないのだが。
15歳成人の社会で、10歳の【祝福の儀】を経た子は半人前の大人として扱われれる。
儀からの数年間で進路を決め、必要になる知識と技能を身に付けることになる。
学院職工部の諸科は、いわゆる弟子入り・丁稚奉公で技能を修得する職種は扱っていない。
これはもちろん職業組合の影響もある。
徒弟職人の育成はそっちでどうぞ、な住み分けだ。
前世の中世欧州でいえば、『戦う人・働く人・祈る人』の祈る人が『知』的方面の人材を担当した。
しかし、人材供給が間に合わなくなり、近世にかけて各地に大学が設置されたような事情が今世にもある。
職工部に設置されている4科。
為政者の召使を育てる官吏科と、貴族・富裕層の召使を育てる家政科。
品質と供給の安定をはかるための薬剤科と機工科。
いずれも、体系だった専門知識を効率よく伝授しなければ一定品質の人材が枯渇するという危機感が設置の根元にある。
学院で教授する内容には、転生三人組の前世日本における中学・高校レベルどころか、大学レベルの講義もちらほらある。
これは戦術部の諸科も同様。
特に騎士科なんて士官候補を育てる場だし。
口頭伝授が基本の授業のみで理解・修得できるものではない。
予習・復習・講師に質問は当たり前。
クリスもマリエルも、なんならユイたちも、十分以上に努力を重ねている天才秀才の類だ。
前世ブーストのおかげでなんとかなっている転生三人組より、よほど優秀と言い切ってしまおう。
☆
第二層アタックは休業週、身内のみでのチャレンジとなる。
「授業のない第一週を狩りにあてる?」
学院パーティ編成へ通期不参加決定済みのヴィオラがなんとなしに呟いた。
「がっつきすぎだ。俺だって偉い人のおはなしに大した興味は持てないが、全体での整列行進、入退場なんかはソコでしかできないだろ。あと補習」
「「うっ」」
補習という単語に反応して、マリエル方面やジュスティーヌ方面から小さな呻きが聞こえた。
4週の節内で合格とはいかなかったが、講師に惜しいと思ってもらえた場合、都合がつけば補習という形で再試験・再試問の時間を設定してもらえる。
補習が行われるのは講師たちにとっても自由度の高い第一週が多い。
仮にがっつりいくなら、と。
第六週中休みで3泊4日を試し、うまくいくようなら第十一週・第十二週で4泊5日かなとセバス。
「移動時間の関係で、滞在日数を伸ばす方が得なのは、第一層よりも顕著でしょうから」
ただし総日数を増やすと、持ち込むべき荷物も増えるのがネックではある。
☆
春季の末、転生三人組はファンガス農園を訪れていた。
今後は第二層がメインとなると、パーティ活動のついででファンガス農園への寄り道ができなくなる。
そう伝えられた見張り番のおいちゃんは非常に残念そうだった。
だがしかし、季に2回の訪問で50万ポイント近いキノコ錬金を捨てることはできない。
『交換』には、直接訪問するしかない。
その手間をかけているからこそ、見えない場所でやっていることだからこそ、組合は関知しないと黙認されるものでもある。
秋季、2年次になれば学院パーティ編成で拘束されていた時間が開放されるので、季に2回、どこかの週末を使えばいい。
だが夏季が問題。
学院パーティのお客様連れ状態でご訪問するなんて論外だ。
そして、もし新たな後輩志願者が追加になったならば、隔週で無の曜日に指導をしないといけない。
休業期間中だってアタック日程次第だ。
「休業前の第五週・第十週の無の曜日、後輩指導の後に三人でここまで走るか?」
確実に数時間を空けられるのはソコくらいしかないのだ。
徒歩で片道2時間弱、往復4時間見込み。突っ走れば2時間で往復も可能かもしれない。
「そういうことなら、うちの組……俺の使ってるルートの地図をやろう」
転生三人組は見張り番のおいちゃんと固い握手をかわしあった。
キノコと手羽先が結んだ熱い友情……かもしれない。
そんなこんなで春季は終わり、夏至祭週に入る。
三人がこの世界で再会してから1周年である。




