5-07.1年次の春季のこと④準備・支援・突撃
春季・第六週の中休み。
ファンガス農園の見張り番に手羽先をわたし、キノコを受け取る。
そこには笑顔の応酬、幸せの連鎖がある。
もはやメンバー何も言わない。
定例狩りの結果、ラッド、ヨッシー、セバスはレベル3になった。
「これでデバフ率5割もほぼ確定だな」
「推計で、俺ら以外のレベルアップにかかった数がコウモリ500、1000の倍々ゲーム」
「レベル3から4が2000なら、確かに『レベル3以上は、第一層ではレベルが上がらなくなる』」
2000匹だろうと4000匹だろうと、時間をかければ達成できるが、学院生にはその時間が惜しい。
倍率ドンな転生三人組はなおさらだ。
ここでジュスティーヌ、再び第二層アタックを主張。
「第二層チャレンジは考慮するが、学院パーティ編成のお客様相手にはやれんぞ」
「それは、そうですね」
装備、情報の準備は進んでいる。
「じゃあ、季末休業で挑戦ですね」
ユイちゃんの一声で、チャレンジ実行は季末休業の第十一週・第十二週と決まる。
クリスやマリエルも反対はしなかった。
現時点でレベル2なのがジュスティーヌとヴィオラだけで、パーティの要の三人がレベル3に到達したならまあいいかの心持である。
「ジュスティーヌさんたちも、今季の終わりころにはレベル3になる計算上なのよね」
「……つくづく、願いの対価とは非常なものだね」
後の者が先になり。
怠けて後れを取るのなら自業自得だ。しかし、三人は人一倍努力をしている……ように見える。
クリスの嘆息に、ジュスティーヌとヴィオラも微妙な表情になった。
☆
第八週と第十週の闇の曜日。
学院パーティ編成の反省会の後、普段は各自の自由時間にメンバーがグラウンドに集まった。
「第一層では連携もなにもなかったが、第二層ではそうもいかん」
「役割にしたがって、まずは隊列と陣形から練習な」
「ほぇ~」
なお、魔物相手には、通常の動物を狩る時の気配を殺した待ち伏せのような技能は価値が薄い。
役に立たないわけではないが、探索者には、索敵戦や遭遇戦を前提にした技能や訓練が重視される。
なぜなら、魔物は攻撃性が高く、向こうから襲ってくる傾向があるからだ。
第一層では順繰りで先頭に立ったユイにも、第二層では後衛という役割が与えられた。
しかもヒーラー様だ。
勢い、ユイをいかに護るかを軸に移動隊形と戦闘陣形を組むことになる。
「わたし、前衛・後衛にわけるなら前衛だけど、ガチで前衛はちょっと無理かも」
「同じく。僕とマリエルはいわゆる中衛として、後衛の側面・後背を固めるということでどうでしょう」
ガチムチ肉体派とは真逆なボディのクリスが、自信なさげにマリエルに賛同する。
「それを言い出すと、自分やヨッシーも中衛なんだがなあ」
「はっ、前衛が私しかいない!?」
「ティナぁ、いまさらよぉ」
このパーティ、加護で純粋な戦闘スキルもらったのがジュスティーヌしかいないからね。
とはいえ加護がないから探索者できませんなんて言えないし、むしろ多くの探索者に失礼になる。
とりあえず、前衛・中衛・後衛をわけた。
・前衛 : ラッド(棒杖術)、ヨッシー(棒杖術)、ジュスティーヌ(両手剣使い)
・中衛 : クリス(短剣使い)、マリエル(棒杖術)
・後衛 : セバス(生活魔法使い)、ユイ(光魔術士)、ヴィオラ(風闇“ダブル”魔術士)
もっと言えば回避盾のラッドと、耐久盾のヨッシー、護剣のジュスティーヌなど、個々人のスタイルや役割の違いはある。
けれど、そこまで細かい分類が必要かというとそうでもない。
「自分、前列で交戦入ると全体見るの無理だから、戦闘指示はセバスな」
「あーい」
空想の敵を相手に何度か展開してみて、各自の立ち位置、間合いの取り方などを調整していく。
まあこんなもんかとなったところで次の段階。
「後衛といったところで、魔法・魔術を放てる回数が心もとないですから」
ジュスティーヌの補助にヴィオラ、ラッドの補助にクリス、ヨッシーの補助にセバスが入る、ペア3組での連携合わせも練習。
マリエルはユイの護衛。ユイはセバスに代わり全体の指揮を担う。
「ほ、ほぇぇええ」
「難しく考えずに、出すぎている組には戻れ、苦戦しているようなら助力、どうしようもなさそうなら逃げろ。これだけで十分です」
第一層でコウモリ相手にブイブイいわせていたユイが、技量において特別劣るということはない。
ただ、このパーティで物理的に一番弱いのは誰かというと、ユイかマリエルかとなる。
ましてユイはヒーラー様。
前線に立つことではなく、万が一の際の要となる役割をこそ期待されている。
「ペア同士でも互いに見ているし、周りも見ないわけじゃないからな」
「ただ、どうしても見落としはでるだろう」
「そういうところを、全体見てるユイとマリエルで埋めればいいってことで」
ユイとマリエルの二人を予備戦力、できれば交戦させない方向性は了承された。
☆
探索者を志願する後輩たちの面倒をみる件で、転生三人組は第六週の終わりにマルク工房と養護院を訪問した。
その際の話し合いで、三人はダンジョン体験や狩り方などを教えることになった。
学院に入るまでの教養教育や手続き的なものは大人たちが対応する。
さっそく、第八週と第十週の無の曜日に志願者が集まった。
両日とも、三人にとって本来は休養にあてていた日であり、体力的には万全とはいいがたい。
良い意味で力を抜いていこうと声を掛け合い、探索者組合で登録をすませ、ダンジョン体験ツアーへGO。
養護院からはオルレアとジャルマリスという女の子。
マルク工房コミュニティからアドルフという男の子。
全員、【祝福の儀】で得た加護が戦闘スキルないし戦闘よりのスキルであったため、探索者を志したという。
養護院組は両者とも獣耳の人であり、公的な差別こそないものの、将来的な勤め先に悩んでいたことも大きいのだろう。
なお戦闘スキルなら騎士科も狙えなくもないが、そっちは学費がね。
入ってくるメンツの毛並みもね。
探索科は学費・寮費の負担が軽く、ついでに卒院要件も比較的緩く、幅広い層から若人を受け入れている。
三人で固まって動くこと。
明かりは絶やさないこと。
松明の予備を持つこと。
ケチって変な店で買わないこと。
「オルガたちが、2本で小銅貨1枚だって買ってきて、20分くらいで消えて慌てたこともある」
「オルガたちならやりそう」
あいつらは、探索者登録直後に松明を持たずに突撃かましたボーイズだ。実績からくる説得力が違う。
養護院の面々には非常にわかりやすい失敗紹介になったようだ。
「ポーターやってると、先輩方がありがたいお話を聞かせてやるって酒代を巻き上げる」
「1回くらいは引っかかってやるのも手だと思う」
「えー」
そこらへんはね。
人情の機微みたいなものもあるから。
対人では、すこしでも怪しいと判断したら、対話の前に逃げること。
対魔物は、それぞれの特徴と倒し方、スライムは諦めろと。
地図作りの重要性と近場の遠出狩り実演、無理だけは絶対にダメと言い含めて初回ツアー終了。
「さて、あの辺にたむろってた連中には、僕たち学院生の関係者だとは伝わったと思いますが」
「最低限の義理は果たしたってとこだなあ」
「俺、休業ごとの帰省、やめるかな」
養護院には育ててもらった恩はある。
しかし、なんでもかんでも押し付けられてはたまらない。
ヨッシーはそうこぼした。
「手羽先の対価で親方を悩ませてるようだし、自分も帰省回数を減らすのは賛成だ」
マルク工房コミュニティには、今年10歳になった春季生まれはいないので夏季に志願者が増えることはない。
養護院はどうだろう。
「人材の囲い込みとみれば継続すべきなんですが」
セバスとて、休日を確保することの大切さは前世で身に染みている。
自分たちが潰れるようでは本末転倒。どこかで線を引かなければならない。
☆
そして第十一週の季末休業の開始。
学院での活動がきつくなってきており云々という理由で、中休みでの帰省はやめると通告。
ラッドの両親兄弟やご近所様はともかく、マルク親方はどこかほっとしたように頷いた。
養護院では手羽先の供給が断たれることに嘆きの声が満ちた。
お土産が本体扱いのヨッシーは泣いてもいいし、泣かなくてもいい。
セバスも、実家には長男夫婦がいるため、ベンジャミン兄さんともども帰省・訪問頻度を抑制していくべきかと考えている。
「こうして男の子は巣だって行くのね」
「いや、季末休業か祭週には顔出すよ?」
火の曜日に寮に戻り、翌水の曜日から土の曜日まで、スケジュール的には以前と同じ2泊3日の狩りに出る。
ただし、ターゲットは第二層。
「今回は様子見だからな」
「わかっています。私とヴィオラはまだレベル2、無理をお願いしているんですから」
通いなれた幹線を小走りに、2時間弱で第二層側の拠点キャンプに到着し、一服を入れながら最終確認。
第二層チャレンジを始める。




