5-03.秘密の共有者
冬季の終わりに、14号パーティの面々は一般寮の相談室に集っていた。
その場においてラッド、ヨッシー、セバスの三人は、【祝福の儀】において『神託みたいなもの』を受け、望んだ加護を得たと主張。
望みがかなえられた対価として、霊格が徴収されている。
だからレベルアップが遅いのだと。
さらに言えば、三人の加護は世間一般で言われるようなハズレではない。
英雄級探索者を、レベル100を目指すに足るのだと。
レベル100とは、世間的にはおとぎ話で語るのにキリのいい数字でしかない。
生臭く言えば、建国王だの戦乱期の英雄王だのの、伝説の王たちの功績を宣伝する『盛られた数字』と捉えられている。
実際、アクヤの街の現役探索者の最高峰がレベル60台だと言われているので、現実味のない数字ではある。
現在開示可能な情報を伝えられたメンバーは、ユイを除き混乱していた。
「いや、そんなの、ちょっと、信じがたいというか」
「うん、実に常識的な反応ですね」
『神託みたいなもの』という、宗教的・政治的衝撃で理性と常識をぶっ叩かれたうえ、【光魔法かっこいいポーズ】で神聖味さえ感じられるかもしれない光を浴びせられて。
マリエルが、常識云々以前に、理解を拒む思考停止状態に陥ってしまうのも無理はない。
しかも、これでまだ『現在開示可能な情報』にすぎない。
三人組には、さらなる衝撃が埋もれている可能性が高い。
早々に理解戦線から脱落したマリエルはともかく、クリスとジュスティーヌは青ざめ、ヴィオラは溶けながらやさぐれ、ユイちゃんは……まあユイちゃんしていた。
なお転生三人組は、セバスの【生活魔法】に注目が集まったことで、現状で一番危険なラッドの【通信販売】に深く立ち入らずに済んでほっとしている。
☆
クリスが挙手をしたうえで発言する。
「セブたちの件はここだけの話、ということでいいですよね!」
「言えるわけないじゃない!」
「頭がおかしいと思われるだけならまだマシよぉ」
秘密は守られそうな雰囲気である。
「だいたい『神託みたいなもの』ってなんだよ、ヤヴァイだろ」
「ヤヴァイから、誰にも言わずに黙ってたわけですが、何か?」
「それは、そうなんでしょうが……」
女神様は天にありて世は事もなし。
加護や祝福はくださられるけれど、俗世に口を出してこないからこそ、人々は安心して政争や戦争や陰謀や策略を楽しめるのだ。
それが本物の【神託】など下された日には、である。
信徒総本山の神殿的にも世俗権力者的にも、さまざまな思惑がうごめくこと、思いに留まらずに実働すること請け合いである。
「ま、あくまで『神託みたいなもの』だし、俺たち個人にしか関係ないから、その点でも吹聴するようなモンじゃない」
「それは、そうなんでしょうが……」
「これまで通りで、よくないんですか?」
ユイは不思議そうに首を傾げ、やがてジュスティーヌたちも大きく息を吐いて顔を上げた。
一般に、世間に公開できない秘密を共有する者同士には、いわば共犯関係めいた紐帯が発生する。
まして、秘密を漏らすこと、裏切りが自分の利益にならず、むしろ身の破滅を招くだろうと予想できてしまう。
彼ら彼女らは、ユイちゃんを含め、かなり頭の良い者たちなのだ。
「ええ、ええ。これまで通りで。では、来季の履修計画を詰めましょうか」
「さんせー」
現在、冬季第十二週の風の曜日。
計画を提出して履修登録をする期日までの余裕はあるが、メンバー全員でのすり合わせが可能な機会をつくるのはそれなりに手間だしね。
☆
「じゃああたしから提案だけど、三人がレベル上がりにくいのを前提に、あたしたちメンバーのレベルを均一化したいわ」
「ヴィオラ、ずっこい」
ヴィオラの提案にマリエルがかみつく。
遅れてきたパーティ参加者で、マリエルたちよりもレベルの低いヴィオラとジュスティーヌの利になる提案だからだ。
「大切なことでしょうが。メンバーのレベルが開きすぎるとロクなことにならないわよ。鎖ってのは一番もろいところが全体の強度を決めるのよ」
「言っていることは理解できるんだけど」
いわば既得権益を冒される形になるクリスも眉根を寄せる。
でも、ユイが賛成に回る。
「いいんじゃないかなあ。わたしはまだきてませんが、女の子の日問題があるから不参加というケースもありますし」
「あたしはそうでもないけど、重い子は大変らしいからねえ」
「きつい」
マリエルはテーブルに突っ伏した。
「私もまだですが、遅かれ早かれですしね。クリスさん、ここはお譲りいただけませんか」
人数調整をレベル基準で行うという本提案に関し、調整外の転生三人組は傍観というか蚊帳の外。
分が悪いとクリスは諦めた。
「うんと、わたしが春の前節を不参加にしてもらい、その分を学科単位に集中かな」
「僕とマリエルは、例の日の分で僕が若干優位。だと、同じく僕が不参加か」
固定メンバー最古参のユイがすすんで譲ると言い出せば、クリスも意地は張らない。
転生三人組に、ジュスティーヌ、ヴィオラ、マリエル。
これに学園パーティ編成で配される1人で最大7人パーティとなる。
「それだと、ヴィオラとマリエルの女の子の日が重なったときに5人になるな」
「けど、多いから1人抜けろになるよりはマシじゃない?」
周期が安定すれば、もうちょっと計画立てやすいんだけどとヴィオラが愚痴り、マリエルものっかる。
ともあれメンバーのレベル均衡を目的とするパーティ人数の調整は承認された。
☆
そのまま各自の履修計画を作成する。
大枠の時間割は前季をベースに流用できるのだが、講座の時間の中身を埋めていく作業がある。
何度もやっているので、各自、事前に事務棟の開講予定講座掲示板から関係しそうなところを写してある。
「『素描』の講座、次の節は人物か」
各季の開催講座、前半・後半の期間をそれぞれ節と呼ぶこともある。
今やっているのは春季・前節の履修計画立案。
「俺、ピカソも顔負けのキュビズム風に崩れちまうんだよなあ」
「18禁ゲームの一枚絵がキュビズムの極地論を思いだしますね」
探索科は転生三人組のみなので、固まってバカ話に脱線中。
ひとつのものを複数の視点で見た形で、平面上の一枚の絵に収めるのがピカソたちのキュビズム。
キュビスムを応用してエロCGの技法が生まれたというよりかは、一枚絵での情報量を増やす手法がキュビスムに通じてしまっただけらしい。
ちなみに探索科の講座となっている『素描』だが、騎士科からの受講も多い。
拙かろうと、絵を描けるかどうかは情報伝達において重要な役割を果たすので、騎士心得として必須なんだとか。
中には不思議な講座もある。
「探索者組合関係の講座で『窓口業務』とか『事業1(D品卸業務)』とか、誰が受けるんだろな」
「あ、『組合の仕事』系は組合に就職したい人や就職した人向けみたいですよ」
ラッドのつぶやきにユイが答える。
ユイは、本科である魔術科の講座は選びようがないという理由で簡単に埋まるので、選択単位に探索科で何を取ればいいのか相談にきた。
「利用する側の僕たちが知っていても損にはならないでしょうが、就職した人って?」
「たまに微妙にデザイン違いの学章つけた年上、大人の人たちがいますよね。なんて言ったかな、審査通って学費納めれば受講できるんですって?」
8歳前後からの幼年科に、10ないし11歳からの各本科。
そんな生徒たちの中に、講師や事務員でもない大人が混じれば目立つ。
「なぜに疑問形?」
「わたしも又聞きなもので。えへへ」
なるほどなあと三人組。
「『組合の仕事』系……『事業』モノや『クラン査察』、他にも興味を惹かれるのがあるなあ」
「兼ね合いで優先順位は決めなきゃだけど、取れるモンは取れるだけ取っちゃおうぜ」
「『学びて思わざれば~』だって、まずは学ばなきゃどうしようもないですしね」
バランスなのよ、何事も。
単位の欲しい講座が取りたいときに開講しているとは限らない。
生徒側は、1週6日・各5コマ、節ごとに最大でも30講座までしか受けられない。
さらに、探索科等の1年次は、学院パーティ編成の都合で週4日に制限されている。
講師は、系統毎に2人くらい。
講師と教室の事情が許す限り講座は開かれるが、講師だって人間。毎日5コマ週6日なんて受け持てない。
取りたい講座がごそっと固まるコマもあれば、すっかすかなコマもできてしまう。
いずれのコマも、受講できるのは1講座のみ。悩ましい。
また、前節・後節で別のもの、例えば前節『応急手当1・打撲』、後節『応急手当2・裂傷』のような開講配分もある。
例にあげた『応急手当』は取得順の制限がないのが救いだが、1を修めてないと2を受けられない、座学をやっていないと実習させないなどのように、取得順がある講座も多い。
ゆえに履修計画の作成は、パズルゲームの時間となる。
『子曰、学而不思則罔、思而不学則殆。』(孔子、論語・為政篇)




