5-01.レベルアップ考察
『願い事をするときは気をつけろ』
ヨッシー、ラッド、セバス。
悪友道連れ異世界転生などの対価として、経験値デバフがのしかかる。
必達のレベル100を目指した探索者稼業。そのための知識や技術、ツテやコネを求めた学院探索科。
季節一つを経て、パーティ・メンバーも集まってきた。
だが、メンバーに自分たちの事情を話して、理解は、協力は得られるのか。
わが身の安全、行動の自由は保てるのか。
実に悩ましい。
☆
冬季の後半、学院パーティ編成は第7回と第8回が行われた。
あくまで半固定扱いで1人を配するのは、14号パーティからノウハウを拡散させようという目論見もあるのだろう。
もちろん、学院パーティ編成は出会いと相互理解のきっかけであることも確かだ。
なので配されたお客様とは円満な関係を心掛ける。
ただし、半ば固定されたメンバー8人にお客様1人を加えた合計9人は多すぎる。
「ラッド、ヨッシー、セブは、1人でも抜けられると危険だ。ここはいじれない」
「まあ、そうね」
家政科のクリスが言い、薬剤科のマリエルが応える。
転生三人組とお客様で4枠確定。
残る2ないし3枠を、ユイ、クリス、マリエル、ジュスティーヌ、ヴィオラの5人で争うことになる。
女の子の日で脱落した者を抜いて、前世日本人転生者の影がちらつく『じゃんけん』バトルリーグ(冬季・後節)の開幕だ。
結果は以下の通り。
・第7回 : ユイ、マリエル、ジュスティーヌ
・第8回 : ユイ、クリス、ヴィオラ
ユイちゃん、じゃんけん強かった。
☆
冬季末休業の帰省・顔出しでは、ヨッシーは手羽先の人扱い。
セバスはパーティの半分が女の子って大変だなと兄たちに慰められた。
聞けばセバスの兄たちは、パーティメンバー女子にいろいろ苦労したらしい。
それが4人もだと!?
強く生きろと送り出され、寮に帰ってきた。
そしてラッドは、マルク親方から直接、今回はコレで勘弁してくれと先行量産型の『魔石回収セット』を12個渡された。
やはりウッドデッキは張り込みすぎたのだろう。
勘弁もなにもないっすよ、ありがたいっす。ていうかモノは足りてます大丈夫っすと、これ以上のご厚意を謝絶してきたという。
微妙にかさばる『魔石回収セット』12個は、ラッドの兄が荷車に載せて運んでくれた。
そう、マルク工房の印を荷台側面版に大きく刻んだ荷車で。
「親方、宣伝効果に目覚めちゃってません?」
「前世の『皇室献上品』ほどじゃないにしても、『学院へ納品するマルク工房』ってブランド化してるよな」
トングとビク巾着の『魔石回収セット』。
使っていた試作品はお客様貸出も兼ねた予備とし、おすそわけで各メンバーに配布するが4個余る。
「マックスとオルガたちでちょうどだが……」
一般寮にマックスを訪ね、4個まとめて差し出した。
「マックスが買ってオルガたちに貸したってカタチにしてくれないか」
「もちろんカネはいらない。マックスからの貸しってのがキモで、タダでやると、あいつら大切にしないんだ」
モノを手に入れるために自分の払った労力・費用が、そのモノの価値。
タダで手に入ったモノを大切にしないのはその裏返し。
「了解したが、私とてタダでいただくわけにはいかない。売り値で買わせてもらおう」
4個で大銅貨4枚は、モノの値段としては順当でも、ラッドたちにすれば決して安くはない。
だがイケメンに、私にも見栄はあるからねとウインクされれば、しゃーないなぁもうと納得してしまう。イケメンだし。
なお、ウチのカシラが貸してくれたモンだぜと見せびらかしに来たオルガたちに、三人が渋い顔で対応したのは言うまでもない。
☆
第十一週には、【自己認識】で【錬気術Lv.1】が表示されるようになった。
「寝起きの瞑想も半年以上か」
「おかげなのか身体の調子はいいんだが、気(魔力)をどうしても身体の外に出すことができない」
余剰とはいえ魔力の本質は生命力。
だから、体外に魔力を出せる『異常』な人は少ない。
その『異常』が才能と呼ばれるのが魔術士界隈なのだが、魔法使いTaiプロジェクトの先行きに暗雲が立ち込めた。
体内でいくら気/魔力を練ろうが、体外に出せなければ魔法使い/魔術士にはなれない。
「害にゃならんし、継続でいいだろ?」
「発勁の練習でもしてみるか」
「○めはめ波ですね、わかります」
気と勁は別物などと言い出すと魔力ってなんやねんになる。
漫画やアニメ、ライトノベル由来のなんちゃって武術体系であっても、明確にイメージできるなら魔法として発現するし。
さて、第十一週の狩りを終えた段階で、ジュスティーヌとヴィオラはレベル2、ユイはレベル3となっていた。
一人頭の狩り数を、1泊2日狩りで100匹、2泊3日狩りで200匹として計算すると、1季節で1000匹となる。
これは収入からも推計可能で、ざっとクオルタ銀貨6枚くらいになっている。
名実ともに半人前相当の収入だ。
「数字がマークできてるユイから、レベル2から3までが1000匹で確定してよさそう」
「てーと、クリスとマリエルは来週の狩りでレベル3に届くかどうか」
基準がわかれば、その倍が自分たちの必要数と推測できる。
「俺たちは2000匹。春季の中休みから季末までのどこかになるな」
「そして直後にはジュスティーヌとヴィオラがレベル3になる。思った以上にキツイですね」
単純にレベル上がんなくてキツイし、その理由をごまかしきれるものでもないのもキツイ。
「いよいよ腹割る必要があるか……」
「みんな、こんな差を見逃すようなおバカじゃないもんなあ」
「何を、どこまで明かせるか。悩ましいです」
まず、自分たちの身の安全が第一。
明かした内容、漏れた内容次第で、拉致監禁使い潰しコース確定が見えているラッドの危機感は強い。
☆
翌第十二週の狩りに向けた打ち合わせでは、第二層への挑戦が議題としてあげられた。
一般的にレベル3は第二層への挑戦を開始する目安となる。
第一層ではレベルが上がらなくなる目安と言ってもいい。
ユイがレベル3になったこと。自分たちがレベル2になったこと。
騎士科ではレベル2から第二層への挑戦を開始する研究も蓄積されているため、ジュスティーヌは第二層への進出を推した。
しかし、第二層の浅いところを連携練習しつつ探りながらの狩りと、現状の第一層奥地を駆ける狩りと、どちらの効率がいいのか。
これが転生三人組の主張であり、現在まだレベル2のクリスとマリエルも時期尚早と譲らない。
「うーん。レベル3ってわたしだけなんですよね。ならやっぱりまだ早いのでは」
「だな。自分たちも第二層への不安が強い」
「え?」
ラッドの言葉に驚きの声を発するジュスティーヌだけでなく、クリスとマリエルも一気に顔をこわばらせる。
「まあ、第一層での狩りは、頭打ちではあるが手堅いだろ」
「不慣れな第二層でやるよりも安全でしょうしね」
ジュスティーヌが、せっかく潜り込んだ高効率環境でライバルたちへのリードを広げたい気持ちはわかる。
だが、無理をして大けがしては元も子もない。
「それは、そうなんですが」
「第一、まだ半年なんです。おそらく次の春季には、うちと同様の第一層奥地狩りをするパーティが現れるでしょうが、それでもまだ早いんです」
マックス&オルガ組連合を想定。
オルガたちは十分な経験を積んでいるはずだし、マックスも慎重に見極め、大胆に行動するだろう。
14号パーティは、効率優先で考え実行するゲーマー気質の変態どもが、既存ロードマップをスキップしてしまっているだけなのだ。
「第二層進出は、奥地に人が増えて狩場効率が落ちるあたりを目途でどうでしょう」
セバスの妥協案にヴィオラが唸り声をあげる。
ヴィオラは必ずしもジュスティーヌに盲目的に与するわけではない。
安全を確保したうえでの狩りがヴィオラの好みであり、その点、転生三人組の運営方針は信頼している。
「もちろん、自分たちの戦力で第二層でも問題ないと確信できれば別だが」
どーもなあ、経験談やデータ読む限り、スタイルから何から手を入れないとなんないんだよなあと続く。
「第二層は、連携大事なんだっけ?」
クリスも、知識は集めつつも実体験がないのでピンとこない。
洞窟な第一層だと基本的には先頭のみが戦うが、第二層では360度全方位から魔物が襲撃してくる。
個人技でどうにかできるならどうぞ。
一般人は連携を磨きましょう。
「わたしたちは、第二層の知識そのものから足りていないのね」
「僕も含め、今はまだパーティ全体の底上げ期間か?」
マリエルが指先を合わせた両手の上に顎を乗せ、腕組みクリスが天井を仰ぐ。
「……はい。私はまだ焦りが残っているようです」
「え? なんで焦る必要が?」
ユイちゃんは、ユイちゃんなのでした。
『Be careful what you wish for.』
R.L.スタイン著、アメリカ発のホラー小説シリーズのうちの一つのタイトルらしい。
内容的にはイギリス発のホラー小説『猿の手』(W・W・ジェイコブズ)の類型のようなもの?
願いはかなえられるが、それは願い手に都合の良い経緯・結果とは限らないぞ、くらいの理解。




