4-11.ジュスティーヌの決断
転生三人組の寮の自室にウッドデッキが出現する時から少しだけ時間を戻して。
第五週の闇の曜日の午後、ヴィオラを連れたジュスティーヌが転生三人組のもとを訪れた。
三人の主導する14号パーティに入りたいという。
14号パーティには女の子の日問題を抱えるマリエルと到来待ちのユイがいる。
また、将来的に目標レベルに達したマリエル、クリスが離脱する可能性を考慮すれば、二人を入れることは前向きに検討できる。
「でも、二人を受け入れることが自分たちにとってなんのメリットになりますか?」
ラッドが、エア眼鏡をクイッする面接仕種を繰り出す。
「メリットって、あたしたちはそれなりに戦力になると思うけど」
「俺たち、単なる戦力なら足りてるぞ」
役割分担上、ラッドは『観察者』が主成分なので、ヨッシーが『質問者』としてストレッサー的立ち位置に入る。
将来の懸念はさておき、現状で6人フルメンバーではある。
そこにねじ込むだけの利点、既存メンバーを説得できるだけのなにかはありますか、と。
「逆に、ジュスティーヌ様が3年卒を狙うための戦力として俺たちを使いたいだけだろ?」
「それは……」
言い淀んだ時点で心胆の底が見えたようなものである。
「だいたい自分たちは3年卒なんて狙ってないからな」
マックスに粉をかけられたときに返した、自分たちの事情とそっちの目的が一致していないよを、ジュスティーヌ相手にも返す。
メンバーの目的が一致しないパーティなど、いずれ分解するのは目に見えている。
「むしろマックスも3年卒狙いのようですし、目的の一致している彼と組めば早いのでは」
「マクシミリアンさんは、悪い人ではないですが……」
がむしゃらにレベル上げする気はないけど、狩れるときに狩れるだけ狩るは基底方針。
結果が付いてきちゃっている今現在の状況が、ジュスティーヌたちを惑わせているのだと転生三人組も自覚し、責任の一端を感じなくもない。
なので、相手にとっての最善を考えて提案してみたのだが、返答は後ろ向き。
「地元の騎士家の子でしょ。それで貴族科じゃなくて騎士科ってことで察せるわよね」
貴族科に入れるのは嫡男。
マックスは愛人の子、庶子だと言っていた。
ジュスティーヌ側の事情は、転生三人組は礼儀としてわざわざ聞き出してはいないが、噂情報は耳に入っている。
王都方面の結構な高位貴族の愛人の子、もしかしたら王家に連なるお方の子。
当人は平民落ち確定と言ってはいるが、ヴィオラが付き人ポジでいることから、完全に放置・放逐されているわけではなく監視下にいると推定できる。
ま、高位貴族の系譜なら、庶子にだって利用価値を見いだす者もいるだろう。
最低限の行動管理と虫よけはむしろ当然だろうなと、転生三人組は理解している。
「うちのジュスティーヌ様とは似たような境遇なんでしょうが、それだけに傷のなめ合いみたいになるのはイヤでしょう」
「私はそこまで思いませんよ」
「周りがどう思うかよ」
「あう」
ヴィオラにぴしゃりとたしなめられて、ジュスティーヌは首をすくめた。
自称監視役に友人呼びなだけあって、単純な主従関係ではない。
「それにジュスティーヌ様自身が騎士爵を狙うなら、同じパーティでライバルと一緒にやれるわけないじゃない!」
「そういうもんか?」
「そういうもんよ!」
少々ヒートアップしているため、お茶を淹れ直してクールタイムを設ける。
中休みの予定の打ち合わせに来たクリスが、これはどういう状況かと戸惑った。
マリエルとユイは諸事情で遅れる。最悪、不参加と事前に連絡が入っている。
☆
仕切り直して、今度は転生三人組から。
「こっちの事情を言うとだ、自分たちは誰かの下に付く気はない」
「俺たちは俺たちのクランで英雄級探索者を目指す」
「仮にジュスティーヌ様、あるいはマックスが一代騎士爵を得たとしても、僕たちが傘下に入ることはないです」
誰かの手下になって余計な仕事をしている余裕はないのだ。
レベル100必達なんだから。
できなかったらペナルティ確約なんだから。
ねえ知ってる?
現役の探索者の最高峰って、レベル60台なんですってよ。
「名誉が欲しければ探索科からだって衛視を狙うし、セブは家政科で執事を目指してもよかったんだものな」
英雄級になるなんてバカを言い出したけど、とクリスが呟けば、コイツらに頼るのは間違いではとヴィオラも眉根を寄せる。
「英雄級、掲げる目標としては気宇壮大ですね」
「ていうか、誇大妄想、絵空事の類でしょ」
しかしジュスティーヌは、覚悟を決めたのか不敵にほほ笑んだ。
「いえ、よい目標です。私は、たとえ一代騎士爵を得たとしても、あなたがたを部下として召そうとはしません。お約束します」
「えー、ジュスティーヌ様こういうの好きなノリだったっけ?」
「むしろ騎士爵持ちも参加しているクラン、いいと思いませんか?」
「平民が上に立ち騎士爵持ちに命令するって、社会制度上どえりゃーヤヴァイことなんですけど?」
身分制度のある階級社会で、身分を無視して社会秩序を乱すのは、革命思想にかぶれた犯罪者。処分の対象だよね?
「でも、探索者ですから。探索者は、強い人が偉い。そういう世界ではありませんか」
「う、うーん?」
「それに、私が爵位を欲したのは、騎士科3年卒のエリートの評判が欲しいのは、家に頼らなくてもやっていけると、父に、亡き母に示すためです」
「箔付けですか」
女性騎士や衛視は、貴人女性の護衛として常に一定数ほしいので、就職先に困ることはないだろう。
加護スキル的に、そういう道もありかな程度の将来設計だったと言う。
「箔、一代騎士爵への未練はありますが、英雄級を目指す探索者クランもなかなかの目標かと」
「あー、あたしとしてはねー、……ま、あんたの好きに生きれば? しがらみってのは、なかなか断ち切れないものだけど」
ヴィオラ、ついに様付けも放棄。
「それに、皆さんが『普通』にやっていれば、レベルは勝手に上がりそうですし」
「僕もそう思う」
なぜかクリスが後方理解者面で腕組みをして頷いている。
「あ、そうだ。ありましたよメリット」
すっかりやさぐれたヴィオラを気にせずに、ジュスティーヌは嬉しそうに手を合わせた。
「たとえ建前でも私のパーティだと思われれば、皆さんにスカウトがくることはまずなくなるかと。
誰の傘下に入る気もないというのでしたら、これは大きなメリットだと思いませんか?」
貴族科所属の貴族様は、原則として学院パーティ編成には参加しない。
取り巻きは自力で編成するのが基本であり当然とされる。
また、『使える』一般生徒に貴族の側仕えに抜擢される名誉を与えるため、目や耳を配するのも彼らの嗜みである。
「なるほど」
「あー、たしかにセブたちは『非常に魅力的な提案』を迫られる可能性があるな」
断られることを許可していない提案です。
怖いですね。
「ジュスティーヌ様を建前として立てればいい、建前の立場で納得すると?」
「はい!」
交渉、妥結。
☆
善は急げというわけではないが、固定メンバーへの手続きをジュスティーヌにせっつかれる。
心変わりするスキを与えないという意図もあるのだろう。
「まあ待てって。確かにリーダーは自分だが、独断専行していいのは非常時だけだ」
ヴィオラにひとっ走りしてもらい、ユイとマリエルの同意を取ってこさせる。
同意だけでなく、ユイも連れて帰ってきた。
「これから、よろしくお願いしますねユイさん」
「あ、はい。マリエルは女の子の日のため動きたくないそうです。反対はしないと言っていました」
事務棟の編成室に出向き、メンバー固定化の報告と学院パーティ編成からの離脱を申請したところ、問題を指摘された。
「8人中の4人が女子。プールメンバーとして人数超過は認めるにしても、生理が複数人同時に起こることもあり得る」
マリエルとヴィオラには生理が来ており動けないタイミングが存在する。
ジュスティーヌとユイもそのうち同様となる。
いわゆる「生理のシンクロ現象」は都市伝説らしいけど。
「それに、1年次は学院パーティ関連にあてている時間に講座授業はない」
浮いてしまう時間をどう使う?
顔合わせしかり反省会しかり、生徒間の交流機会を捨てるのはよろしくないと、じんわり説教される。
「当面はあくまで半固定のパーティとして扱い、編成期間ごとに1人を配する」
人数調整はパーティ内で行うように指導された。
さすがにフルメンバーで9人が一緒くたに動くのには不安があるそうだ。
「リーダーの目の届く範囲というものがあるからな」
前世ビジネスマン経験者として統制範囲の原則は知っているし、ポーター経験から洞窟内で隊列がむやみに伸びることの弊害も理解できる。
「誰を休ませるかは都度の話し合いだが、最悪くじ引きで決めるか」
「古参・新参の序列という手もあるんだけどなあ」
「ほぇ~」
クリスは唇を尖らせるが、自分には女の子の日というハンデがないため強くは主張しなかった。
ユイちゃんはユイちゃんしている。




