4-10.嫌な事件だったね
冬至祭週特有の祭事が太陽の復活祭だ。
アクヤの街の属する地方だと、豚肉を食しながらエールを飲み、神殿前広場では運んできた針葉樹をど派手にファイヤーする風習がある。
また、女神さまの化身あるいは使者を表すという仮面の者が山羊を連れ歩き、見かけた子どもに吠えかかる。
逃げなかった子には、手にした靴下の中に小物をプレゼント。
「宴会とファイヤーは祭りの定番」
「なまはげかな?」
「ていうかクリスマス?」
転生三人組は文化の収斂的類似性、あるいは転生方面諸先輩の影を感じずにはいられない。
☆
さて、探索科は他科と違い、定員に余裕があり希望者がいれば毎季受け入れを行っている。
秋季で死者・行方不明者、あと若干名の退学者を出した探索科1年次では、冬季から新たに6人が加わることになった。
1季遅れはハンディキャップだが、来年まで待つのももったいない。
冬季に入ってくるのはそういう者たちだ。
秋季同様に探索科寮長ヴィルハイム主催で歓迎会が開かれ、在籍生との面通しが行われる。
6人中の4人が女子。
うち2人は秋季で読み書き計算の入学基準を満たせず今季に。
もう2人は夏季生まれのため、【祝福の儀】を経て学院に入れる最短時季なので。
それぞれどこぞの商家の専属探索者の子であり、親の後を継ぐつもりだそうだ。
セバスたちとはあまり縁がないが、幼年科上がりのリンツ君も商家関係の出身。
今回の女子の中に知り合いがいるようで、歓迎会の席だが早速つるんでいる。
「いちゃいちゃしやがってよぉ」
「優男め」
「だがケツアゴだぜ」
特に悪意もなく全方位に絡む特技を持つ元・養護院三人衆を見てもわかる通り、出身や関係性でグループ化はするものだ。
残る男子2人は遠方の農村領主家に連なる者の次男三男。
加護で戦闘スキルを得られなかったために探索科に。
戦いに向かない性格であれば、より上位の貴族に仕えるために家政科、あるいは内政官目指して官吏科という道もなくはない。
「俺たちは、害獣駆除も家業のうちなんでな」
アクヤの街までの旅程の都合で今季の入学。
転生三人組はアクヤの街を出たことはないが、今世の旅の厳しさは聞き及んでいる。
大規模な隊商などに便乗しないと、盗賊・山賊・野盗に獣にケガに病気にと、道中の危険度が跳ね上がる。
彼らは秋季半ばにはアクヤの街に到着しており、探索者として日銭を稼いでやりくりしていたという。
なお、定員の都合で今季で学院に入れずとも、そのまま次季を待つ予定であったとか。
どのみち実家に戻っても席がない。貴族・準貴族と言えど小さな家なんてそんなもんだよと。
「10歳児に厳しい社会すぎね?」
否応なしに独り立ち、大人にならざるを得ない世相ではあるね。
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冬季の前半では、学院パーティ編成の第5回と第6回が行われた。
前季末の休業中に学院生パーティの一般的な成長ロードマップを調べた転生三人組は、自分たちが爆走・暴走しているらしいと自覚した。
ただし止まる気は一切ない。
14号パーティでは編成で配された人に対し、お客様であることをご理解賜るよう誠心誠意にご説得し、ダメならお試し3時間だけ付き合う方針を継続。
前季の死亡事案もあってか奥地まで行く1泊狩りに反対する者には、じゃあナシとあっさり撤回。
相互理解のためのお試し期間という趣旨上、水の曜日の3時間アタックでノルマをこなしたとして円満に関係終了。
1泊狩りはいつものメンバーのみで実行し、報告義務もないので気分的には楽だ。
第五週には、マリエルがなんだかダルい、お腹が痛いと言い出し、後に女の子の日が到来した。
「女の子の日の交代要員として売り込んだのに、わたし自身が先に女の子の日になるなんて」
「個人差が大きいそうですから。わたしもそのうち来るんでしょうし」
マリエルとユイが真剣に情報交換をしていた。
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この時期のラッド、ヨッシー、セバスの転生三人組には、棒杖術の鍛錬成果があらわれた。
セバスは探索科に入る前に、【自己認識】で【棒杖術Lv.1】が表示されるように訓練を受けていたが、ラッド、ヨッシーにも表示されるようになった。
「武術の【Lv.1/初心者】修得は、訓練で100時間目安と言われていますし、実際に僕もそうだったんですが」
「自分、実践つうか実戦で振り回しているわけで」
「訓練より密度の濃い実戦経験で磨かれなかったらウソだべさ」
加護こそポン付けだが、なにかしらの技能を身につけるには、訓練と経験を積み上げるしかない。
【自己認識】で結果が見えるだけ、前世よりマシともいえる。
「今季後半から訓練時間を減らす? いっそやめる?」
武術の訓練は単位にはならないのでサボることもできる。
しかし、履修登録をすませている前節では、その時間に学科単位のための講座を入れることはできない。
単位を取るために履修計画を提出して登録しろというのは、事務手続きと修得確認が絡むので曲げられない原則なのだ。
登録を受けて事務局で各講座ごとの名簿を作成し各講師にわたし、講師が授業と修得状況をチェックした名簿を戻し、それを各個人の原簿に転記して、間違いがないか別の人が……。
授業は休業でも学院は休めない。
むしろ、諸々の事務仕事の時間が欲しいために休業にしている説もある。
「訓練やめても、卒院までに【Lv.2/未熟者】になっているとは思いますが、切り捨てることもない?」
「訓練は、安全な場所での動きの確認でもあるからな」
「どうせ午後3の枠は講座入れられないし」
次節では、現状、枠を2つ使っているところを1つに減らして、講座を増やす方向に舵を切る。
その判断に、寒い中グラウンドで数時間過ごすのが辛くて面倒という事情が、どのような影響を与えたかは定かではない。
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冬季前半の転生三人組にまつわるトピックはもうひとつある。
寮の共用水場は男女別に用意されており、身体や衣類の洗い場であり、干し場でもある。
「下着だぞ? 他人の下着を盗るか普通?」
「そういうご趣味の……」
「やめて!」
ラッドが怒り嘆くのも無理はない。
よりにもよって下着泥棒の被害にあうなど、単純な怒りをこえた不快感に身を震わせる。
趣味なのか、普通に使用するのか。
「犯人、悪い方に小賢しいのかも。上着はバレやすいですが、下着を見せろとは言えないですもんね」
「そういうご趣味はないからな!」
一応、盗まれたと男子寮1階担当の寮長補には届け出たが、「ああ、あるよなあ」で終わり。
学院生といえどその程度の民度なのだと再認識させられた。
防犯対策として、洗濯ものは自室内にロープを張って干すことにしたが、やはり天日干しにはかなわない。
同じく防犯上、窓を開けられるのが在室時に限られることから、湿気がこもる悪循環。
ただでさえ探索科寮の他の住民に比べて着替えの頻度が高い、つまり洗濯回数の多い三人なのでストレスのたまることとなった。
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とまあ、そういう事件と事情があったうえで冬季の第六週、中休み休業中の火の曜日。
マルク親方を筆頭にラッドの親父ほかマルク工房の面々が、探索科寮の前に荷車を並べ、大木槌などの仕事道具も持ち込んだ。
「物干し場がどうこう言ってただろ。ここの責任者に聞いたら、壁抜き扉とベランダ作ってもいいって話」
「ふあゅ」
この場合の責任者は学生自治の寮長ではなく、施設管理者の方。
普段は食堂などのある中央棟入り口付近の管理人室にいる。
荷物を運んできたラッドの父親などが出入りするさいに、一言ご挨拶する相手だ。
なんということでしょう。
三人が呆けている間に職人たちの手により出来上がったのは、部屋外につながるひさしと囲い付きのウッドデッキ。
太陽の恵みを存分に味わえる素敵な環境には、シンプルながら機能性の高いデッキチェアとサイドテーブルを備え、優雅なひと時を演出します。
部屋の窓部分を1枚、天地方向に拡大し扉に改造、室内とのスムーズな出入りを実現しました。
1階部屋なので囲いに設けられた出入り扉のカギを外せばそのまま外にも出られる機動性は、アウトドア男子の冒険心をくすぐる職人たちの心遣い。
ひさしの柱に刻まれたマルク工房の印は決して目立たず、されど誇らしげに三人の生活を見守っています。
「お、いい感じですねえ」
「や、どうも。やらせていただきました」
外から回り込んできた管理人さんを、マルク親方が囲いの扉を開けて迎え入れる。
「学院としてお代を払えないのが申し訳ないくらいですよ」
「いやー、ウチの職人のセガレが世話になってるトコですけん。それに、アタシら大工じゃないんで、こういうの大っぴらにはできへんのですわ」
マルク親方は家具や家庭小物の木工職人。
生業仕事として大工の領分に手を出したなら、なんのための同業者組合だとなる。
ちなみに、施設管理者の許可の範囲内での改造は一切問題ない。
当家の子女が暮らす場所に支援して何が悪い理論は、貴族や富豪なら当たり前のことだもの。




