3-12.転生三人組のスタンス
秋季第五週の締めくくりに、第2回学院パーティの結果報告と反省会が戦術部各科で行われた。
探索科では、寮の食堂で晒しものとなった7号パーティのおかげで、すべてのクラスで活発な議論が交わされた。
パーティ運営の段取りやルール設定の不備なら是々非々ですむ。
だが、問題と思っていなかった認識できていなかったは話が違う。
7号パーティの清算騒動に多くの人間が野次馬として関わったことで、各自の知識や認識に大きな差異があることが発覚。
探索科では、魔物と戦って稼いで強くなればいいと、漠然と、かつ自分のことだけ考えていた過半数に衝撃が走っていた。
といって責めるのも違う。
探索科のメンバーのほとんどは素人の10歳児でしかない。
親が探索者だったなどの理由で、探索者やパーティ活動の予備知識を持っている方が少数派なのだ。
ゆえに、自分たちは何を知らないのか、知らなければならないのか、時間いっぱい真剣な情報交換が行われ、各クラスの担当講師たちもニッコリであった。
魔術科では、低レベル魔術士の実態があまり知られていないことに危機感が広がった。
しかし、これまた一部を除き自分たちだって魔術士の実態を学習中の魔術素人かつ探索者素人である。
自分の状況、状態を、しっかり自分から伝えるしかないというところに落ち着いた。
騎士科では7号パーティのジャークスが野次馬の介入に苦言を呈し、介入側の14号パーティとしてマックスが事情説明。
他パーティの口出しは歓迎できないとしつつ、さりとて7号パーティの運営が正しかったか妥当かとなると、ジャークスの擁護はされない。
人間関係にじんわりとしこりの残ることになったマックスは、諦め半分であった。
「嫌われる、関わりがなくなるというのであれば、それまでの話かと」
「然り、ですな。時に、時間切れで聞けませんでしたが、当のマクシミリアン殿のパーティでの問題や成果はいかに?」
科の反省会の後に、数人で連れだってのティータイム。
お昼ご飯の習慣がなく、適宜の間食で補う文化のため、学院内にもカフェテラスが開かれている。
「ふふ。さすがに目ざとい。ですが、この情報は少々値が張りますよ」
貴族家の系譜にとっては、失敗・成功事例をタダで提供し合う反省会などなじみがない。
いや、意義や価値はわかる。
だがそれはそれとして。
「ほほう。借り、ということにしておいていただけますかな」
「もちろんです。では、借り一つに相応しいと思っていただけるとよいのですが……」
知識、経験も手札の一つ。
たとえ跡継ぎではなくとも、駆け引き交渉事は貴族に連なる者の嗜みであろう。
☆
反省会の後、探索科寮の自室でお昼の補食中だったラッドたち三人は、食堂に呼び出された。
呼び出し人は、思いつめた表情のユイ。
先日の7号パーティの件で、助けを求められつつも純粋に味方できなかったことにいささかの罪悪感を感じないでもない三人は、無下にもできない。
とりあえずいつものテーブルに案内し、ハーブティーと適当に砕いたシリアルバー(チョコ味)をそっと差し出した。
「苦……でも甘い?」
「口にあうようなら、全部食べていいからな」
むしろ証拠隠滅的に、ユイが食べないのなら自分たちで処理という考えは、考えのままで終わる。
「ふう」
満足そうに吐息を漏らすユイのカップに、セバスがハーブティーを注いだ。
「あ、ありがとうございます。ごちそうさまでした」
「うん。それで、今日はどういう用件かな」
ユイは居住まいをただし、頭を下げた。
「2度目のパーティで実感しました。初めての、14号パーティがどれだけ恵まれていたか。お願いです、わたしを14号パーティに入れてください」
反省会で再配布された名前札を、テーブルの上にのせて差し出してくる。
「あー、えーと、固定メンバーになりたいってこと?」
「はい!」
☆
ラッド、ヨッシー、セバスは三人で円陣を組んで短い相談を行った。
「えー、ではまず、自分たちのスタンスの説明をさせていただきます」
「はい?」
架空の眼鏡をクイッするラッドの面接仕種に、これはなんのサインかと身構えるユイ。
「パーティメンバーには、目的・目標の一致、あるいは妥協が必要です。でないと、早々に分解しますので」
「俺たちの目的を聞いたうえで、ユイはそれでもいいのかって話だな」
英雄級、具体的にはレベル100への到達が目標。
そのための方針として、迷宮探索者としての自立と深部への攻略。
「といっても、やることには順番がある。今は身体を作ること、少なくとも15歳くらいまで無理はしない」
「もちろん、パーティメンバーの勧誘なんかも目的のうちだ」
「学院に来たのも、コネやツテの獲得が目的です」
「ほ、ほへぇ」
おおもとの目的部分のように話せないこと、話さないことのほうが多い。
自分たちには成長デバフがかかっており、同じ量の魔物を狩ってもレベル差が生じるだろう。
加護スキル的にも、わかりやすい戦力、パーティの主力をやるのは無理だろう。
自分より弱いヤツをリーダーと認めろというのは難しいところだと思う。
しかし、主導権は手放せない。
「将来的にはクラン化して、事業として迷宮攻略しつつレベル100を目指す、そういう目論見です」
「ほへぇ」
戦力的な主力メンバーを育成しつつ、サポーターとして参加が現状の想定。
ただ、サポートの意味や価値を理解・納得できず、サポーターを寄生やタカリと思うようであればどうしようもない。
霊格や功績を吸い取られている。
(比較的)安全な位置にいるくせに偉そうに。
こういった思いは、客観的事実よりも当人の感情、納得の問題だから。
爆弾を抱えたまま続けられるほど探索者パーティ、ダンジョンは甘くない。
こじらせる前にきちんと放流して、「わしが育てた」と強がるくらいしか対策が思いつかないのも現状だった。
「それでな、自分たちはタカリや寄生虫と組む気はないんだ」
「うー。わたしはタカリじゃ、ないです」
「なら相応の行動で示さないとな」
「うー。でも、レベル100は無理でしょう?」
建国王ですよ英雄王ですよ。どこに国を建てるんです。王国乗っ取っちゃうんですか?
そんな夢を掲げるなんて、男の子だったんですねえと語るその目は、生温かかった。
「まあ、先の話としてならクラン運営の後方人材も必要です。ただ、ユイがそこまで付き合う気になるかどうかもねえ」
今現在でのお互いのメリット・デメリットを説明する。
「現状でのユイが悪いわけではないんです。それに、成長したヒーラーは引く手あまたになるでしょう」
「だからこそ、俺たちが腰掛けで利用されるのは困る、不快だってことでもあるんだ」
「あー、うー……そうですねえ。わたしでもそう思います」
ユイちゃんはおバカの子ではないのです。
キャパシティ内に収まっているうちは。
「これはユイのデメリットでもあるけれど、ツテコネつくるためのパーティで、出会いを減らすことになる」
ただでさえ転生三人組は6人パーティ枠の半分を埋めている。
1回の編成で最大3人との出会いしかない。
「俺たちにとっては、言うほどデメではないかな。噂レベルでなら結構、耳に入るだろ」
今年度開始から5週間。
探索科新入生で、直接かかわった印象や悪い噂の裏取りをした人物、すでに16人が暫定ブラックリストに入っている。
他科も含めた今年次の学院パーティ参加者のおおよそ10分の1が、現時点で既にお断りしたい人材という。
もちろん、現状の、無知ゆえの、探索者業界の常識に合わない言動で判断しているものなので、将来的に評価が変わる可能性はある。
そう、可能性だけはいつだって。
「今回のユイさんのように、実際にクソと組んでクソみたいな思いするのもクソ面倒なんですよね」
「はい。あれはない。たとえ反省したとしても、あの人たちとはもうイヤです」
生きるとは、どこかで何かを妥協するしかないもの。
「今今で、それこそ人生決めろっても無理だよなあ」
「お互いにお試しの延長として、秋季の後半2回を固定してみるあたりが妥協点?」
「お試しなら、この中休み中に学費稼ぐための本気狩りやるけど、参加します?」
第六週がまるっと休業になる中休み。
今回は、なんと2泊3日の狩りを予定。
1泊狩りを2回の延べ4日より1日空くじゃんのテストを兼ねている。
学費負担が気になるユイにとって、これが天使の誘惑だったのか悪魔の罠だったのか。
どっちにしても同じ結果だということは知らぬが花なのである。




