3-11.本気の一泊狩り
風の曜日の昼過ぎ、事務棟前の楡の木を目印に集合。
服装に武器と松明をチェックし、予定通りに3時間ほどの近場の遠出狩りに出発。
戦力的な問題はマリエル、クリスの慣れだけで、順番に先頭と戦闘を問題なくこなした。
キノコの傘を叩いて臭い胞子にまみれたのは単に事故。
細かい話だが、マックスたち三人側の松明の引継ぎで、順番を決めておらずもたついたことが反省点となる。
「自分の指示漏れだったな」
「いや。こんな些事まで指示が……必要だった者が言っても恥ずかしいだけか」
「6人で最低2系統の明かりというのも納得したよ」
真っ暗闇の中で再点火の手間、考えたくないとクリスが身を震わせた。
「本当に、3時間で44匹も狩れてる。狩り方ひとつでここまで変わるなんて……フヒヒ」
清算は各自に小銅貨3枚と粒銅2枚を分配し、粒銅1枚が残った。
「端数はリーダー取りでよくない?」
マリエルの提案がそのまま可決。
オルガたちと組んでいた時は持ち越してきっちり等分だったが、カネに困っていないメンバーにとって小銅貨数枚程度は狩りの成果としての意味しかない。
☆
闇の曜日、集合後に荷物チェック。
最低4食分に予備、水は多めに4リットル、松明やランタンを各自で12時間分は確保、マントかできれば毛布、シモのためのヘラかスポンジ等々、準備を確認した。
自分の荷物を担いで走るマリエルから泣き言がもれたが、無視する。
「10kgもないし、幹線で道もいいのに」
「お望みの本気の狩りの時間が減るぞ」
途中で同業者とすれ違うために立ち止まったり、会敵して戦闘したり、大断崖の吊り橋をわたるのに手間取ったり。
「ずいぶん深いな」
「底は第四層だそうですが、生きてたどり着けないなら意味がないですよね」
「そ、そうだね」
第一層と第二層をつなぐゲートのある大広間まで約10kmを、ざっと2時間で走破……一部小走りで踏破した。
「こっち側は寝ている人も多いから、第二層側でちょっと休憩だ」
拠点キャンプ場でセバスの【保温】を使ってお湯を沸かし、ハーブティで一服。
偽物とはいえ空のある、開けた空間でのティータイムに、マックスたちはあからさまにほっとした表情を見せた。
「この後は拠点を軸に2~3時間狩り。見張り交代で仮眠6時間、4時間くらい狩り、行けそうならもう1セットだが、随時、体力考えつつ判断。で、帰る」
「き、きつい」
数を狩りたいと言ったのは誰なのか。
人は、己の発言に責任を持たないとならないのだ。
☆
人通りがある拠点付近はそれなりに掃除されているが、一本、二本と枝道に踏み込んでいけば、数匹まとめて襲い掛かってくることもざらにある。
「マックス、目の前のを1匹ずつやればいい。無理に抱えず後ろに流せ」
「おうよ、バッチこい」
「ヨッシーも、二匹目からはマリエルに流してやれ」
「ふええええええ、こいやああああ」
コウモリは空を飛ぶ。
広くない洞窟通路で横に並んで連携はできないけれど、あえて後ろに流すことで、隊列のまま個別に戦うことはできる。
武器を振り回す空間をあけないと危険だし、照明を持つ者がきちんと照らしてやる必要もある。
「これもノウハウか」
「移動時と会敵時の列間の空け方は数回やってれば慣れるだろうが、先頭の動きと判断は地図を頭に入れないとなあ」
仮眠時の見張り、一番きつい真ん中担当も転生三人組とマックスたちとで分け合い、立候補したマックスが心情をラッドにこぼす。
「すまない。本気の狩りというものを甘く見ていたようだ」
「初めてはな、しょうがない。といってもしょせん第一層で1泊ってだけなんだ」
「ははは……」
疲れが抜けない寝起きの身体をよくほぐし、昨日と別エリアで4時間狩りし、休憩。
もはや口をきく元気もなくなったマリエルの疲労度を見て第二セットは行わず、代わりに幹線から外れ、迂回気味に狩りをしながらのんびり歩いて帰る。
結果、一人頭小銅貨約40枚の収入。
三人の時より落ち込んだのは頭数が増えた分の目減り。
パーティで倒した魔物の数は三人時代の1.5倍以上。群れの処理スピードの差が出た。
「単純計算で、この両日で500匹近く。フヒッ、ヒヒヒ」
疲労困憊ながらも、マリエルの目は輝いていた。
☆
秋季第五週の風の曜日は、14号パーティの反省会で探索科寮の食堂に集合。
「身体が、痛いの」
数日の間をあけてなお筋肉痛を訴えるマリエルは脇において、クリスが問う。
「朝から夕までの狩りを2回やるよりも、拠点キャンプ場で1泊狩りの方がワリがいいの?」
「俺たちの知る限りではそう。奥に行くほど、魔物との会敵率が上がる」
『効率』。
前世で各種ゲームを嗜んだ者にとっては、考えずにはいられない魔性のワードである。
「幹線や拠点周辺を見る限り、結局は狩猟圧の差なんだろうと考えています」
「なるほど」
エリアによる湧きの違いはあるようだが、ファンガス農園くらいやらないと誤差だろうとセバスたちは判断している。
「数を狩れておいしいの。2週に1度きりでも納得できる」
「だがまず、信頼できる仲間が必要だ」
マックスのまとめに全員が頷く。
きつい狩りであるほど、目的と目標とが一致する者同士でないと、遅かれ早かれパーティとして破綻する。
☆
同じ時に同じ探索科寮の食堂で、7号パーティも狩り後の清算を行っていた。
もめている気配は伝わっていたが、関わる気はなかった14号パーティの面々にヘルプコールがかかる。
「ひどいんです、助けてください」
「ユイ嬢でしたかあ」
前回のパーティで一緒だったユイが、おろおろと見渡した食堂の中で知った顔を見いだし、駆け寄ってきた。
「まだ騎士じゃない騎士様やん、ちょっとアタマかしてくれっすよ」
「えーと、グラム君だっけ」
特徴のないのが特徴な養護院出身のグラムも、マックスの腕をつかんで引っ張り出す。
結局、ぞろぞろと14号パーティ全員で清算会議中の卓を囲むようになり、当然、7号パーティのリーダーは不機嫌になった。
「ウチのパーティの清算に口を出すのか」
「ジャークス君、仲裁を願われて無視するようでは家名に響くのだ」
「チッ」
問題自体は単純だった。
魔物のドロップは、狩った者に権利がある。戦っていない者に分配する必要はないという主張。
「わたしの前回のパーティもそうでしたね」
「それ、パーティが分裂したっていう?」
「ええ、もう二度と、あの人たちの顔は見たくない」
一瞬で闇があふれたマリエルに、7号パーティの面々もすこし気圧された。
「分配ルールは、事前に周知していたんだろうな?」
「は?」
「していないのか……」
「戦う機会も与えなかったようだし、取り分ないとわかれば参加する意味ないなあ」
ルールの是非ではなく、手続き論と当該ルールを敷衍した結果どうなるかを示す。
今回は極端な例だが、功績に応じた傾斜配分にはそれなりの正当性があるからだ。
「ただし、消耗品の扱いにしろ分配にしろ、事前に決められていないのであれば、それはメンバー側の責任でもあります」
「だな。最低でも指摘して、何が問題か伝えておかないと」
こちらも手続き論。
「今回は、ユイやグラムにも落ち度があるぞって話」
「反省して次に生かそうねでコレは終わりです」
ユイとグラムは目を見開いたが、今後のために、自衛のために、どうすべきかが大切だと説明する。
「責任の第一を問うのであればリーダーなのだろうが、この手のすれ違いを自分たちで解決させるのが学院パーティの趣旨だろうしね」
14号パーティはあくまで第三者。
仲裁名目を掲げたマックスも、過度の介入は避け、原因の指摘にとどめるつもりであった。
「いやいやいや。だいたいその女は魔術士のくせに攻撃魔術なしとか役立たずすぎるんだよ」
レベルの低いうちの魔術士はそういうもの。
いつの間にか集まっていた観衆の中から呆れた冷たい目線とヤジが飛び、7号パーティでは、リーダーと両翼の表情筋が複雑怪奇に動き出す。
ユイとグラムともう一人は冷めた表情のままで、コントラストが際立っていた。
「だ、だが。そもそも6人なんて多すぎるんだ」
「そうだ。第一層程度、一人でも狩れる」
「え? 人数いればこそ手を出してこないのに、一人で?」
「学院生なんて金持ちのクソガキだからな。苦労している一般探索者からすれば」
野次馬の中にも温度差はある。
7号パーティのリーダーはブツブツとつぶやいていたが、今日で事実上のパーティ解散。
なんなれば、分配しない側にいた誰かが、後ろから肩をたたかれながら「ツラァ覚えたぞ」と耳元でささやかれたりもしていた。
だが、失敗が前提のお試しのパーティだ。
いろいろな意見があることを知り、知識をすり合わせ、何が問題なのかを理解し修正すればいい。
今回の事例で各人の知識・経験、実感の差があらわになり、三々五々で雑談ディスカッションに移った食堂で、14号パーティも元の卓に戻り、ラッドが締めた。
「ともあれ、14号パーティはこれで解散だ。あんたらと組めて楽しかったぜ」
「誰にもケガなく、無事済んだもんな」
「マックス、クリス、マリエルさんの益々のご活躍をお祈り申し上げます」




