3-10.学院パーティ編成・2回目
秋季も第四週に入り、2回目の学院パーティが編成された。
転生三人組はまたしても14号パーティ。
「三人固まってるから動かさなかったのか?」
前回同様に担当講師たちから注意・説明と、初回のデータ的な補足をされる。
「ダンジョンに行けなかったのが6パーティ、ダンジョン内での事故は7件を確認している」
「ただし、失敗が必ずしも悪いことではない。繰り返しになるが、当面は相互理解を深め、経験をつむことが目的だ」
近隣教室から届く素敵な環境音を避けて、新たな14号パーティはグラウンドに移動した。
☆
「私はマクシミリアン、騎士科だ。できれば親しみを込めてマックスと呼んでほしい」
前髪の情報量が多い金髪・青目のイケメンが、さわやかな笑顔で切り出した。
かつてはセバス同様の後方ひっつめ髪だったが、馬にかじられバッサリ切ったという。
「自分は探索科のラドクリフ。ラッドと呼んでくれ」
「同じく探索科のヨルグ。呼び名はヨッシーだ」
マックスのような小粋なトークではなく、怪しいポージングでアイスブレイク。
「幼年科あがりの探索科、セバスチャンです。セブなりセバスなり」
「家政科クリスティアン。セブと同じ幼年科あがりで、通称はクリス」
「マリエルです。薬剤科から来ました」
車座順に自己紹介が進み、今回の紅一点、マリエルのお辞儀で一巡。
「みんなよろしく。えーと……ラッド君がリーダーなのかな」
「異論がないならな。だが、学院パーティって、騎士科がリーダーやりたがるんじゃないのか」
これにはマックスだけでなく、クリスやマリエルも苦笑した。
「騎士科には、そういう人も多いようですね」
「セブたちは以前からダンジョンに潜っていただろ。経験者に噛みつくようなマネ、僕はしたくないよ」
とりあえず、話が通じるようだと転生三人組は胸をなでおろした。
マックスたち三人もまた、それぞれに人物観察を続けている。
「私では君たち三人に反抗されたら御しきれない。ここにいるみなは、家の臣でも部下でもないからね」
「パーティのメンバーは、仲間であって手下じゃないぞ」
「勘違いしちゃってる人もいるのよ。貴族科でもないのに」
容赦なく切り捨てるマリエルに、マックスの苦笑いが濃くなった。
王国の制度上の貴族は男爵以上だが、慣例として、騎士爵等の準貴族家であっても、嫡男・跡継ぎは貴族科に入ることができる。
嫡男以外で加護で戦闘スキルを得た場合は騎士科。
そうでなければ家政科、官吏科、そして探索科といった塩梅。
生徒同士が明確な上下関係の中ですごすのと、公的には対等な関係の中で暮らすのと、どちらがマシかは知らない。
さておき、対等な友人がいなかったという経験が色濃く出ると、学院パーティでのメンバーの扱いもそれに準じてしまう。
学院は、立場に応じた人間関係は、自ら経験を通して学び補正すべきものとしている。
これは、パーティ全員に適用される教育方針だ。
☆
ラッドをリーダーに、厚手の服装やスライムは無理、松明の負担に頭割り清算といった事項がすんなり決まっていく。
「前回は僕含めてほとんどが素人。成り行きで音頭を取ったけど、何を決めればいいのかもわからずに苦労したよ」
「私も。お荷物扱いはいいわよ。でも、何をすればいいのか・してはいけないのか、わからないままダンジョン突入って、恐怖でしかないわ」
前回、16号パーティとして転生三人組とニアミスしていたクリスが愚痴を吐けばマリエルも応じる。
家政科や薬剤科には事後の報告会がないため、いわばガス抜きされずにたまっていたようだ。
マリエルのパーティは機能せず、果ては個々人で分裂だとか。
ほかにも転生三人組が探索科クラスの反省会では聞かなかった話がポロポロこぼれてくる。
「聞く限り、どれも事前の情報収集と準備をメンバー内で共有すれば、まず起こらない問題だろ」
「初回ならではのトラブルでもあるのだろうね」
クリスとマリエルが落ち着いたところでマックスが提案した。
「2週とも風の曜日に、朝から夕までのアタックができないだろうか」
「風の曜日だと、午後の武術はともかく、午前に『薬草学・序』と『魔術概論』、『魔物学』があるんです」
「え? セブって探索科だったよね」
転生三人組は、履修計画を無理目に詰め込んである。
必須ではない薬剤科や魔術科の講座も、興味を引かれれば押さえとくか感覚で。
「昼以降じゃだめか?」
「時間が足りない。ほとんど狩れないだろう」
時間をかけて数を狩りたいのはマリエルも同じらしい。
前回パーティのユイの例から体力は大丈夫なのかと心配になる。
「ちょっと奥まで行ってから戻りながらの狩りで3~4時間。一人頭の収支が小銅貨3~4枚だから、狩った数としては全部で50匹くらいなんだが」
「50匹……前回のパーティで3回がかりが1回で!?」
入り口付近の遭遇率は壊滅的だからなあとヨッシーが呟けば、そも地図持ってったのかとラッドも追撃。
「……そういえば、ジュスティーヌ様が『近場の遠出狩り』という謎の言葉をおっしゃっていたな」
「『近場』なのに『遠出』。ノウハウを隠す暗号かしら」
転生三人組にとって元にした遠出狩りが6時間ベースのところ、そこまで奥に行かない3~4時間に縮小したがゆえの『近場』。
身内でのみ通じる言葉は、暗号ではある。
経験の有無とはこういうことかと、クリスは脇からセバスをどついた。
「最初っから教えろください」
「聞かれないと応えようもないってば」
問題だと認識できなければ問題があってもわからない。
「なるほど。知識・経験が足りていないと気付くことすらできないとは。学ぶことばかりだ」
☆
近場の遠出狩りは否定はされなかったが、じゃあ時間をかければもっと狩れるんだよねという圧もかかった。
「そこまで狩りたいって、レベル上げか?」
「マックスってもしかして4年チャレンジ、あるいは3年での卒院を狙っている?」
騎士科の卒院要件はレベル12。
達成できないようでは、騎士科にふさわしい人材ではなかったとされてしまう。
反対に、3年で達成できればエリートで、4年なら優秀との評価が得られる。
「あー、騎士科ということで察せるかもしれないが、私はいわゆる庶子、飾らずに言えば愛人の子なんだ」
イケメンに、周囲に有無を言わせぬ実績が欲しいと吐露されれば、絆されちゃうものである。イケメンは無罪だけど罪なもの。
「だとしても、今の段階での無理なんか、2年次ですぐに取り返せます」
セバスの兄のベンジャミンの経験談。
固定パーティを率いての本気狩りならば、丸2年あればレベルは何とかなったかもという。
それだけのメンバーと時間を確保できれば。
さらに3年で学科単位も修めるなど、エリートと認めざるを得ないと。
「例えば、君たちのようなメンバーで固めれば?」
「買ってくれるのは嬉しいが、自分たちはむしろ年限一杯、6年くらいかける方向だからなあ」
学科単位については僕らも悩ましいねと、クリスがマリエルを見やる。
「ですねえ。薬剤科には探索者活動へのサポートがないので3年卒はあきらめてますけど」
「学院パーティの編成に混ざれるのも1年次だけだしね」
レベルをあげたい理由は単純。
「魔法の水薬作るのにも魔力使うんですよ! レベル上げとけって、親からも言われてますから!」
「ただの使用人ならともかく、近侍、執事を目指すのだから、最低限のレベルは必須」
貴族ないし社会的富裕層なご主人様の側近って、いざという時の護衛だからね。
とにかくレベルを上げたい。
だが、騎士科や探索科ほどは要らない。
「当座の目的は一致するが、各自の最終目標が違うのか」
「マックス様のパーティに参加できるのであれば光栄ですが、いずれ活動時間がなくなるかと」
三人の目的・目標を確認したラッドは、ヨッシー、セバスにも確認をとり、妥協案を提示した。
「数を狩りたいという理由はわかる」
マックスたちの目的はレベルを上げるためだが、数を狩れば金銭もリンクする。
ヨッシーは学費等を自弁しなければならず、かつ、転生三人組にとっても狩れるときに狩れるだけ狩るのは基底方針である。
「まず、今週の風の曜日は午後の3時間くらいで互いの動きや理解のチェック」
「初顔のメンバーでいきなり朝から夕までって、どんだけ他人を信頼してるんだ。まだあわてるような時間じゃないだろ」
「むう」
焦りの自覚はあったのかマックスは反論を飲み込んだ。
風の曜日の結果を踏まえての判断になるがと留保を残し、闇の曜日の午後からダンジョンに入り、翌無の曜日の午後に帰ってくる、本気の1泊狩りをご提案。
「この場合、来週はパーティとしての反省会を行いたい」
「週に一度の休日を潰すことになりますから、疲れもたまると思います」
「なるほど。僕は納得した」
ダンジョン素人を自覚し経験者に逆らう意思のないクリスが頷くと、マリエルも数を狩れるのならばと了解し、マックスも両手を上げた。
「意見は述べた。それを踏まえてもらったうえでのリーダーの提案だ。従う……いや、同意する」




