3-03.秋分祭週
転生三人組は、夏から秋へと移り行く涼しい夜空を部屋の窓から見上げていた。
「物理・化学の法則も同じみたいですし、テンプレめいた『世界の素』でもあるのかな」
「次死んだときにでも聞いてみるか」
「すげぇこと言い出したぞ、コイツ」
今世でも、自分たちの生きる大地のはるか上空には月が浮かぶ。
呼び名は『月』ではないけれど、だいたい30日弱で満ち欠けを繰り返す、前世の月とほぼ同じ。
でも、一年を区切る単位としての『月』はない。
月の満ち欠けで周期をとると、いわゆる太陽年とズレるし、そも自然科学分野は共通でも、人文・社会科学分野は、その世界の住人がどういう歴史を積み重ねてきたかによるからね。
春分・夏至・秋分・冬至を節目として、それぞれの間を『春季』『夏季』のように一年を4季節で表す。
創世神話に由来する『光 → 火 → 水 → 風 → 土 → 闇 →無』の7曜日で1週。1季節が12週。
太陽年とのズレ、残りの日は4つの祭週で割り振り、暦上の一年となる。
☆
秋分祭週ならではのイベントに収穫祭がある。
アクヤは街なのでそうでもないが、農村部では盛大に騒ぐ。
祭週の定番イベントとして【祝福の儀】も行われる。
近隣の農村からもアクヤの街の神殿に集い、そのまま探索者になる子もいるはずだ。
ほかに祭週の定番といえば結婚式もあげられる。
結婚する両者が神殿や礼拝所に出向き、女神の名の下に祝福を受ける。
これは【祝福の儀】とは異なり、アクセスポイントでさえあれば回線の太さ・速さは問題にならないので、各地で行われる。
神殿に限られず、村の礼拝所や、はては道端の小さな祠であっても大丈夫。
街の大神殿だと何組もまとめて一斉に行われるため、ごくまれに相手を見失う悲劇が発生するが、それもまた風物詩のようなもの。
祝福は受けられるので、当事者たちのお気持ち以外に問題はない。
セバスの1番上の兄、ヴェルム家の跡取りアルバート(19歳)も、この度めでたくお相手とともに神殿で祝福を受けてきた。
あとは両家の親類縁者で集まって、顔合わせと飲み食い親睦となるのは、多分、どんな世界でも変わらない人間社会の風景だろう。
前々からわかっていた話でもあるので、セバスも、次男のベンジャミンも実家に顔を出している。
「僕たち二人からの品ということで、お願いします」
結婚祝いの手土産として、入寮報告の際に好評だった手羽先を、盛りに盛って50本持ち込んだついでに、情報や護衛等、探索者活動を支援してくれたベンジャミンも巻き込んでおく。
「ありがたいが、それなら半分出すぞ」
「いえ、ベン兄さんには、探索者やるのにだいぶ援けていただいてますし」
「兄弟で水臭いこといってんじゃねーよ。弟なんだから甘えてろ」
頭をガシガシされる。
髪の毛が細いセバスは、それだけでくしゃくしゃになってしまう。
祝いの品を兄弟の連名ということにして、金銭に換算できない貸し借りを一度消化しておこうと思うんですと言えば、いっちょ前になりやがってと、またもや頭をガシガシ。
お祝いのあいさつに行ったアルバートにもガシガシ。
父親に、寮生活にも慣れてきましたの報告でガシガシ。
頭上の惨状に、みかねた母に櫛を通される。
「おいおいセブ、うまいなこれ。売りものじゃないの? 本当?」
「ベン兄さんもご存じのラッドに特別に用意してもらったもので、お店で売っているものじゃないんですよ」
嘘ではない。
【真偽看破】的なギフトの存在を警戒し、なるべく嘘はつかない方針だ。
だがベンジャミンはじめ親類縁者は、ラッドとは食肉卸か、あるいは養鶏をやっている家の子なのかなと誤解した。
でもないと、50本もの手羽先という部位を用意できないだろうという常識的な判断だ。
「毎日まとまった数を用意できるものでもないだろうし」
「特別だからこその贅沢な味付けなんだろうが、店先で売れるものではないな」
調味料をふんだんに使った味付けは、お高くつくことが容易に想像できる。
そして平民階級では中間より上に位置するセバスの家であっても、まずは量こそ正義だ。
今回のセバスは兄の結婚式イベントだったが、ラッドも実家に、ヨッシーは養護院に、それぞれ差し入れなどと称して手羽先を50本ずつ持って行っている。
寮に入っても同じ街にいるのだし、数週間に1度くらいは顔見せておくのも子の努め。
手羽先は、手土産効果はもちろんだが、ラッドの【通信販売】の累積稼ぎのためでもある。
合計150本で3万ポイント。
三人はキノコ1本分にもなってねぇと笑いあったが、学院も始まる物入りな時期に無理をしてと、周囲からは孝行息子的評価が上がっていた。
☆
ちまちまと住人の入れ替えの進んでいた寮も、祭週の間にラストスパート。
アクヤの街内から入寮する人はともかく、よそからやってくる人たちは、たとえアクヤ領内の村からであっても、祭りにかこつけての集団移動に便乗しないと危ないからね。
他科、例えば官吏科などと違い、探索科はほぼ全員が寮生活を送る。
寮費を考えれば妥当オブ妥当としか言えないし、他にも事務棟の売店だとか、学院の門を出て数分でダンジョンに到達する立地だとか、利便性でも軍配が上がる。
騎士科のベンジャミン兄さんも、2年次からは実家通いをやめ一般寮に入ったくらいのアドバンテージだ。
祭週最後の日、探索科寮では寮長主催の新寮生歓迎会が開かれた。
新入りだけではなく気の向いた在籍者も参加し、顔合わせにとどまらず、学院や探索科の制度などの説明も行われた。
「すでに知っているかもしれないし、明日も説明あると思うが、初耳の者もいるかもしれないので復習がてら聞いてくれ」
探索科の在籍者は、探索者活動で学費他の支払いを行うことが想定されていること。
学業と探索者活動との両立のため、課業は単位制で自由度が高いが、卒院要件となる単位数があること。
「霊格レベルも卒院要件だ。レベル10だ。ま、4~5年かけるつもりでやればいい」
最低年限は3年だが、探索者活動に軸足を置くと単位不足に陥りがち。
実際にそれを体現している者が寮長をやっているのだから説得力が半端ない。
武術系は訓練・修練中に講師が指導。
「物足りなければ街の道場行ってもいいんだが、学院以上の指導が得られるかは、よくよく調べることだ」
探索科全体の定員は300人くらい。
新規受け入れは毎年100人くらい。
学院としての年度開始は秋季だが、探索科だけは空き次第で毎季でも受け入れる。
「ただし、毎季受け入れはあまり知られていないようだし、定員の空きも……察してくれ」
今日は歓迎会、明日から新学期と、どこか浮かれ気分のあった新入りたちも表情を引き締める。
探索者という稼業は、決して甘くない。
が、リスクに見合うリターンは得られる。
「絶対に一人でダンジョンに潜るな。特に戦闘系の加護持ちが勘違いしがちだが、怖いのは魔物じゃねえ。同業者のツラした追いはぎだ」
「学院の御威光が通用しない相手もいるしね。むしろ学院の看板を背負っていること、一挙手一投足が監視されてるくらいの覚悟を持ってほしいな」
「組む相手がいない? 周りを見ろ。探索科の新入りだらけだぞ」
「学院で行うパーティ編成は騎士科や魔術科なんかもコミだからよ、思わぬ出会いもあるんだが……このへんも経験よ」
「『ダンジョンの歩き方』と『探索者のための薬草採取』は必須」
先輩方は、歓迎会に顔を出すくらいのお節介焼きだけに、アドバイスはどれもタメになりそうだった。
転生三人組はこの機にツテ・コネを広げようと、会場のあちこちで挨拶を繰り返した。




