2-10.取引に笑顔を添えて
特段の理由がない限り、探索者たちはパーティを組み、ダンジョンに挑む。
メンバーそれぞれに役割を分担できるのもパーティの利点だ。
さらに、より稼げる奥深くに潜るためには、必要な役割をパーティ単位で分担してこなす組織化も行われる。
主力にサポートやバックアップといった複数のパーティ運用を取りまとめる組織集団が発生するのは自明のことであろう。
しかるに為政者にすれば、管理下・制御下にない組織化された武装集団の存在は頭痛の種。
そこで、いわゆるクラン設立には探索者組合の認可を必要とした。
その際には貴族がケツ持ちになるのが通例。
いわば貴族の後ろ盾をもってクランを認めろという話であり、私兵・軍閥化でもあるのだが、封建社会においては当たり前の話なので特に問題はない。
むしろ、後ろ盾したクランが「しでかした」時に監督責任を問える点で、組合、ひいては国・王家側の札にもなりうる。
少し踏み込んで言えば、軍事的な意味での少数精鋭部隊は、地頭・教育の関係上、探索者上がりにはキツイものがある。
軍事的な規模の集団戦闘ができない探索者など、抗争レベルのヤクザ的鉄砲玉運用が基本。
まっとうな軍事的組織を保有・運用する者にとっての探索者クランは、仮想敵としての評価はさほど高くないのが実情である。
市井のチンピラ・ゴロツキ集団を野放しはあかんから首輪付けときましょね、くらいの理解なのだ。
ケツ持ち貴族にしてみれば、ダンジョン産品を掘ってくる鉱山夫集団に名義貸して上納うまうま感覚。
美味しくないなら、相手にしない。
☆
「認可を受けていない『闇クラン』もあります」
また、『複数パーティによる同盟』を名目に、実質のクランもどきな運営をできなくもない。
なお、闇と裏。探索者組合では用語として明確に区別している。
ここでいう『闇クラン』とは、探索者組合の認可を受けていない探索者集団のことを指す用語。
いわば、単に正規の手続きを踏んでいないだけで、必ずしも反社会的勢力を意味しない。
対して『裏クラン』は、人殺しが流れ着く先と認識している。
反社会的・犯罪者集団な、いわゆる各種『裏』ギルドのなかでも、特に探索者の堕ちる先として組合と絡みやすい、要警戒対象だ。
アクヤ・ダンジョン第一層の奥地でファンガス農園を営む集団は、分類上は闇クランということになる。
公には見て見ぬふりをされているその領域に近づく者あらば、当然のように威嚇される。
「迷うたかガキども。ここらはマッシュ組のシマやぞ。はよ去れや」
「どうもどうも。兄に聞いて探してきたんです。こちらで『例のキノコ』を『交換』してもらえるって」
が、しかし。
威嚇に臆することなく笑顔をはりつけたセバスがスススっと見張り番に近寄る。
「ダンジョン品の買取は組合の利権だって知ってんだろなあ?」
「やだなあ、『交換』ですよ『交換』。香りがいいって親が食べたがるんですよ、これが」
ダンジョン産出品を買い取り、各種業者に卸す。
その差額がすなわち探索者組合の収益だ。
とはいえ探索者同士での常識的な範囲での『交換』『融通』『消費』なら見逃される。というか把握しきれるものではない。
他業者の参入を許さないという意味での利権。
そのための同業者組合。
なお一見グレーゾーンな、どこぞの商家・商会の専属探索者という存在は、実のところ商家・商会自身が組合費を収める組合員という意味での身内、同業者だったりする。
「キノコ1本小銅貨2枚な。魔石2個でもいいぞ」
稀によくあることなのだろう。
見張り番の対応も慣れたもの、さっさと条件を提示し、手のひらを上にかるく指を揺らして見せた。
組合買取値の倍?
組合から卸された店舗で購入するよりは安いんです。
差し出された手のひらに数えながら貨幣を落としていく。
「おっと、小銅貨12枚も落としてしまった。困ったなあ」
「実は俺も貴重なキノコを6本も落としてしまった。実に困った困った」
「「ハッハッハ」」
松明に照らし出されたのは、実にあくどい笑顔でありました。
「あとな、ウチでも週に10本も出りゃ上等なんだ。組合の買取に出さんわけにもいかんから、『交換』にも限度はあるからな」
「あ、はい」
気ぃつけて帰れやの言葉を背に、セバスたちはファンガス農園を離れた。
☆
「実にあやしくて楽しんでしまいました」
「気持ちはわかる」
ヨッシーは、なんなら自分がやりたかったと言う。ラッドも頷いている。
あやしい取引とは、男の子の心をくすぐるものなのだ。
「真面目な話、そう頻繁にはできないな」
『香りのよいキノコ』、ラッドの【通信販売】で1本4万2000ポイントにもなる超新星である。
しかし、頻繁にちょっと値の張るキノコを食うなんておかしいし、今回は学費・寮費が親持ちで余裕のあるセバスが出したとはいえ、購入費の問題もある。
現状の転生三人組にとって、1本小銅貨2枚はキツイ額だ。
ポイントのワリがいいのはともかくも、手元現金も、とてもとても大事なのだ。
「諸々勘案して、こちらに御厄介になるのは2~3週に1回くらいでしょうね」
「まあ、キノコ1本でシリアルバー210個だからなあ」
水や手羽先も含めダンジョン内で間食しているが、キノコ1本で1週間以上はもつ。
もちろん、ポイントはあって困るものではないので、今後も現金との兼ね合いを見つつ農園に通うことは確定であった。
☆
夏季の第九週・第十週は、三人そろった一泊狩りでファンガス農園を訪問するという特殊イベントを起こした。
一泊狩りは、第二層につながる拠点キャンプまで行ってから周辺で3~4時間狩り、一泊し、再び奥地で3~4時間狩りしてから地上に戻るという行程。
比較的治安のよい拠点キャンプ場で、見張り番ローテも三人でなんとか回す。
最奥エリアでの狩りということで魔物との遭遇率も高く、1回で小銅貨50枚近くになった。
セバス不在の二人の時の遠出狩りもあわせ、2週間で小銅貨128枚のプラスから寮費を引き、貯蓄が84枚に増加。
続く第十一週・第十二週で60枚分を稼げば、当初の目標であった一人頭288枚をクリアできる。
学院は季末であり年度的な期末でもある休業になるのだが、それはそれとして狩りに全振りともいかないとセバス。
なお幼年科での目標であった棒杖術は、【自己認識】で無事『Lv.1/初心者』として表示された。
「自分的にはもうちょい余裕を積みたいところなんだが」
「寮への引っ越しや学院でやることの予習時間を取りたいです」
セバスの提案にヨッシー、ラッドも納得する。
前世に比べれば文字通り身一つでの引っ越しとはいえ、新生活には思わぬ手間がかかるもの。
学院で何をするのか、学科や制度の予習も必要。
「とはいえ俺は身寄り無し。学院で学びながらの探索者活動、収入に不安が残るアルよ」
「学業よりも学費優先でいいのが探索科。先のことは気にしすぎてもしょうがないです」
現に、支出を無かったことにすれば、7週間で小銅貨300枚以上を稼げたのだ。
仮に1季節12週の半分をダンジョンアタックに割り振れば、学費・寮費を納めても釣りが出ることになる。
オルガたちのように、慣れや強くなることでの加算を見込めばさらに余裕が生じる、はずだ。
「先を見すぎるが故の取り越し苦労か」
ちなみに分離独立後のオルガたちは週6で狩りを行っている。
ただし、地図がこれまでの分しかなく、日帰り狩りの限界もあり伸び悩み、週当たりの収入は小銅貨40枚強。
むろん、ニュービーな10歳児探索者としては十分な実入りであり、寮費も無事に引き落とされている。




