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道連れ転生  作者: 凡鳥工房
2章.ニュービー探索者編

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2-04.ダンジョン案内



 探索者組合の発するダンジョン内拠点までの荷物運搬は、いわばニュービーへの救済事業としての側面も持つ。


 想定している対象は、まともに戦えない【祝福の儀】を済ませたばかりの10~11歳児。

 半人前に日当小銅貨6枚は高くもないが、搾取めいた低賃金でもない。


 ニュービーといえど自前で魔物を狩れるのであれば、第一層で1日小銅貨6枚は十分にクリアできる。


 である以上、依頼を請けたニュービーたちが裕福とは程遠い連中であることは自明のこと。


 同行する木札級の子たちの中には、自前で松明を用意してきた者はいなかった。

 隊列の中で明かりを持つのは、先導と殿しんがりを務める案内のベテラン勢以外ではセバスだけとなっている。


「冬季には主要通路の拡幅工事や足場ならしが行われてね、木札級でも『ガラ運び』を出来高で請け負うことができるんだ」

「魔物倒すだけが稼ぎの手じゃねえってことか」


 隊列の中央部ではセバスの兄、学院騎士科のベンジャミンが、特段声を押さえることもなく雑談にお得情報を伝授する。


「春季・秋季は、近隣農村への出稼ぎ依頼もあったなあ」

「探索者なのに?」


 言っちゃえば何でも屋扱い。

 頭数になりさえすればいい案件の引受先ということ。


 日焼け肌のオルガがもっぱら対話に絡むが、身内以外の参加者も聞き耳を立てているようだった。



   ☆



 しかしまあ、自分のペースで歩けない、見失わないように前に詰めようとするとつっかえる。

 明かりが足りない。荷が重い。


 わりとストレスのたまる道中だが、ベンジャミンの先輩トークのおかげで気鬱に陥らずに済んでいる。


 また、枝道から飛び出してきたケイブバットを一刀で切り捨てたあたりから、特徴のないグラムは警戒感をなくすくらいにすっかりリラックスしていた。


 気を抜きすぎだとオルガが怒れば、張りつめてても疲れるだけだぜと、一応は正論で返す。

 これにはベンジャミンも苦笑い。


「案外、大物なのかな」

「ああはなれません」

「ま、セブはそうだろう」


 セバスチャンの愛称はセブ。セバス呼びはヨッシーたちのみ。


 一時間ほど過ぎ、荷の重さがいよいよきつくなってくる。


「小さい荷車なら通せそうな気がするんすが?」

「この先にすごい断崖絶壁があってね。あそこに荷車を通せる橋をかけられるか次第かな」


 その言葉のとおり、広めの空間に出たはいいものの、進んだ先は闇に沈んでいた。

 先導の持つ松明が、不安定な吊り橋の一部を照らしながらゆっくり移動している。


「ここを迂回すると結構な遠回りになる。あの吊り橋も先達の努力の結晶なんだよ」


 そんな吊り橋を切り落としたり火をかけたりしたらどうなるか。


 探索者組合総出でやったヤツを処理だよね。

 たとえ事故であってもね。気を付けるんだよと脅した後でちなみに、とお茶目にウインク。


「ここなー、崖下りすると第四層につくらしいんだ」


 きっかけになったのは第四層で見つかった墜落死体。


「当時のトップパーティで、【飛行】が使える風魔術士が確認したそうだよ。

 俺のパーティでも30mくらいのロープを命綱に試してみたんだが、まったく底が知れない」


あにさんがロープ下りを?」

「斥候役にやってもらった。俺は崖下りも崖登りも嫌だよ」

「そっすね。イヤっすね」


 前世でスカイウォークを試みたヨッシーの目は虚ろだった。


 小休止も兼ねた吊り橋を渡る順番待ちの間に、ラッドが小石を蹴り落として耳をすます。


「……10秒くらい?」

「ざっくりだし、重力加速度も10m/sで音が返ってくる分をとりあえず無視すると……」


 『距離=速度×時間』で速さが一定で増加するグラフを描けばいい。


 縦軸に速度、横軸に時間。

 傾きが加速度の右肩上がりの直線が引けて、時間か速度に垂線をおろした三角形の面積が距離。


 (10m/s×10秒×10秒÷2)で500m。


「音速を340m/sで音の返り分引いても、400mくらいはあるのかな」

「絶望的だな」


 落ちたら死ぬ。

 奈落直通の断崖絶壁に、そろって腰が引けた。



   ☆



 第二層手前の大空洞、拠点キャンプに到着。


「せっかくだ、第二層も見てきてごらん」


 荷物を下ろし、開放感に包まれた少年たちは、言われるがまま壁面の黒い穴、第二層へのゲートをくぐった。

 途端に視界が開け、まぶしさに目を細める。


 アクヤ・ダンジョン第二層は、業界用語でいうところの一枚マップとなっている。


 森林が点在する草原には偽物の空があり、地上の昼夜と連動。


 第一層とのゲート周辺には空堀と土塁からなる陣地が構築され、第一層終端のキャンプ場と合わせての拠点運用となる。

 なお、第一層側は暗いことを活かして寝ている人も多いのでお静かに。


「視界は悪い通路も狭いで気が滅入る洞窟からの開放空間、第二層だ。

 俺のような長物使いや弓手が活躍するのは第二層。第一層との相性が悪すぎるともいうな」


 ベンジャミン自身のメインウェポンは槍、今日は小剣だけ。


 ここの魔物をケガしないで倒せるのなら、稼ぎ的にも第二層なんだが、と続け。


「第一層と違って魔物の種類で強さにわりと極端な差がある。広く展開して戦えるようになるのは、魔物も同じ。安易な気持ちでは通用しない」

「うっす」


 第一層・第二層をつなぐ拠点キャンプ場には運んできた荷物を売る店舗も設営されており、物価は地上の1~2割増しくらい。

 運搬の手間暇考えれば良心的かもしれない。


 支払いは通貨の他に魔石でも可能となっている。

 ただしドロップの買取はやっていない。


 これは店舗事業者である商会として、欲しいドロップ品が限られていることもその理由。

 買取品を地上に運ぶのも手間だし。


 なにより、ダンジョン品の買取と卸売りの差額が組合の利権なわけで、そこにケンカを売って無事でいられたら大したものですよ。

 小銭欲しさに迷宮内拠点での店舗運営利権を失ったら本末転倒なのだ。


「ここで買い足すってことはあんまりないけどな。組合としても、もっと先の拠点への中継点だよ」

「ほへ~」


 ダンジョン第一層の奥地といっても、数時間で地上に出られるポイントだ。

 第二層、あるいは第三層あたりまで潜る探索者なら、自前の荷物で十分に賄える範囲である。



   ☆



 帰路は荷物がないだけマシだが、ただもう、疲れた。

 だって往復20km。中・近世レベルで常識的な1日の移動距離の限界に近い。


 探索者組合の中庭に帰りついたとたん、皆して座り込んでしまったのもさもありなん。


「お疲れさんっ。コイツ持って受付行きゃあ、今日のお駄賃貰えるぞ」


 先導を務めたヒゲ面のおっさんが、印のついた木札を配る。


 現金なもので、報酬が手に入るとなると立ち上がる元気が湧いてくる。


 真っ先に飛び起きたオルガが木札を握りしめ受付に走った。

 身内の中ではヨッシー、グラムと続き、出遅れたセバスはその元気に感心することしきり。


「ッシャー!」


 現金を握りしめた彼らの誰からともかく、いろいろな感情の混じった叫びがあがった。


「ベン兄さん、今日はありがとう。おかげで助かったよ」

「ほんと、お世話になりました」

「おう」


 ロハの護衛ってだけじゃなく、兄さんが出してくれた往復の松明6本の代金で一人分の報酬消えるからね。


 さらにベンジャミン兄貴の効用で、ベテラン・タカリに絡まれることもない。

 6人の10歳児は知ってか知らずか、超強力な(タカリ)よけ効果に守られている。




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