2-03.ポーター
『初めに光あれと宣われり。
火を以って暖とし、水を集め海となし、風を起こして世界を巡り、土に降り立ち命を育む。
やがて闇がおり、御業を休まれる』
世界の卵テンプレートを流用した創世神話の7属性が、魔力の属性分類になり曜日名になっている。
『光 → 火 → 水 → 風 → 土 → 闇 → 無』の順で7日を1週期。
神話にならい、週末・無の曜日はなるべく休日・安息日とする。
☆
探索者組合の掲示板で依頼を見つけ申し込んだのが第三週の無の曜日。
オルガたちにも知らせ、第四週の始まり光の曜日に準備をし、翌火の曜日。
ヨッシー、オルガ、アズクル、グラムの養護院組にラッド、そしてセバスも学院を休んで集結。
ついでに騎士科の兄もついてきた。
セバスと同じ光の当たり具合で色味が変わる灰銀色の髪の持ち主で、簡素ながら革の胸当てにロングブーツ、学章がピン止めされた大きなスカーフで首から肩まで覆っている。
腰には幅広の小剣も佩いていた。
「やあ、俺はベンジャミン。このセバスチャンの兄で学院騎士科に在籍中の14歳だ」
「あ、はい」
10歳児と14歳少年の体格差、ついでに霊格レベルの差もあって、養護院のワルガキで鳴らしたオルガたちも圧されていた。
霊格レベルによる差は、特に低いうちほど大きく出ることが経験則として知られている。
単純な筋力等の身体能力だとそこまでではないのだが、打たれ強さのHPあるいはLPなり魔力ことMPなりは顕著に差が出る。
ひっくるめた総合力として、レベル2はレベル1の倍強く、レベル6は10倍近くになるというのが一般的な目安だ。
騎士科の卒院要件レベルは他科より厳しい12。
これを最低年限である3年で満たせばエリート、4年で優秀、5年は普通、6年以上となるとうーんちょっと。
秋季生まれの関係で実質11歳から騎士科に在籍のベンジャミンは、夏季の現在、4年卒院チャレンジが見通し立たずとなり停滞中。
仕官するなら無理してでも4年卒狙ったが、『無理のない範囲でやってく探索者』が俺と俺のパーティのスタイルだったしとは本人の談。
騎士科に比べればレベル要件の緩い他科在籍のパーティメンバーは卒院が確定するなど、学院の年度末が近づくこの時期、悲喜こもごもの人間模様がある。
卒院者にはこの先の身の振りが。
在留確定者にはメンバーが抜けた穴をどう埋めるかが。
いっそ解散して新たなパーティを編成するか。推奨はされないが院外メンバーという手も。
学院内の人材市場はさまざまな思惑が渦巻く夏の嵐真っ只中だが、セバスたちニュービー探索者には関係のない話。
「あーまー、その、なんだ。弟は【生活魔法】なんてハズレ引いたわけだが、できれば支えてやってほしい。
パーティメンバーってのはさ、戦力の大小・強い弱いよりも人柄、良い悪いじゃなくて合う合わないってのが大事なんだ」
転生三人組はともかく、オルガたちのいまいちピンときていない様子に苦笑いするベンジャミン。
「これでも先輩探索者の言うことだからな、そういうもんかと思ってほしい」
「うっす」
☆
さて、ラッドが組合内の掲示板で見いだした依頼は第二層手前の拠点キャンプまでの物資運搬クルー、いわゆるポーターの募集であった。
片道約10km、休憩挟んで往復6時間目安、火・風・闇の曜日の週3回実施、報酬は1回小銅貨6枚。
集合場所の探索者組合中庭の一画には、袋、木箱、樽といった荷物が用意されている。
「ダンジョン内にも水場はあるんじゃなかったか?」
「第一層だと地上から運んだ方が楽なのか、そもそも中身は水なのか」
飲み水は、ダンジョン内に何カ所か確保できる場所があるのは事実。
それはそれとして、お酒等の嗜好品って気分転換にもなりますし、士気を保つうえでも大切だと思います。
探索者がダンジョンに持ち込む荷物の量はほぼイコールで滞在時間と置き換えられる。
水と食糧を消費し、ドロップを詰め込んで帰ってくるというサイクルだ。
ついでに、ダンジョン内の敵、魔物は倒せば消えるが、ドロップこと残留物や探索者の投棄物、あるいは死体などがダンジョンに飲み込まれるということはない。
それらはゴミあさりと呼ばれる者たちや、ダンジョン内の掃除屋スカベンジスライムによって処理される。
「確かに『ゲームっぽい』」
「死体を解体・剥ぎ取り路線でなくてよかった」
数をこなせば慣れるかもとはいえ、生き物の解体は血と脂にまみれ、時間もかかる。
セバスはほっとしているが、ラッドは悩まし顔だ。
「『ダ〇ジョンマスター』や『ダ〇ジョン飯』みたいに食糧を現地調達できないってことだろ?」
「全量持ち込みだからこそ、こうして中継拠点への物資運搬が必要なんじゃね?」
三人がそんな考察をささやき合う間に、探索者なりたてと見た目でわかる子たちがざっくり20人くらい、なんとなく集まってきた。
「セバスの兄さんもポーター依頼請けたのかい?」
「俺が木札級の仕事請けるわけにはいかないよ」
オルガの問いに笑って首を振るベンジャミン。
拠点キャンプへの荷運びは、なりたて木札級へのある種の救済事業でもあるし、とは言わなかった。
おおむねレベル6か7が鉄札級への昇格のラインになる。
正確には、組合の買取に出す品からの逆引きで、レベル6越えたっぽいなとなると昇格のご案内。
「今日の俺は、なぜかたまたま同行するロハの護衛、かな。さて、今日の先導はだーれだ」
単純な荷運びとは別口の依頼を受けているのだろう。
10歳どころか10代とは思えないひげ面のオッサン二人が、ベンジャミンに手を振った。
「俺たちが今日の案内役だが、わかってる。そいつらから飲み代を巻き上げるようなマネはしねぇよ」
案内役を務めるくらいなので、わざわざ身内がいるぞ、ロハで護衛してやると示されれば、察するくらいのベテランだ。
仕事終わりに「これも縁だ、探索者って生き方教えてやるぜ」と声をかけ、飯代・酒代を払わせるのは実によくある手口。
ひげ面の二人も、ほぼほぼ毎回誰かにたかっていた。
それを自主的に先回りしてやりませんと宣言したが、懐の痛まない護衛が付くと思えば差し引きで損はない。
道中で魔物の襲撃があれば案内二人で手が回るはずもなく、隊列内のニュービーにも自衛が求められる。
しかし、ニュービーである。
救済事業を受注するようなニュービーである。
グダグダになるのがオチなのだが、一人でも護衛がつけば仕事がかなりラクになる。
ならばビジネス・ライクに対応すればいい、そういう話なのだ。
☆
「さてガキども。わかってると思うが、第二層手前の拠点キャンプまでの物資運搬だ」
「請けた依頼と違うってヤツはとっととヨソ行け。こっちゃ人数しか聞いてねえんだ」
雑に説明を済ませ、各自に荷を割り振る。
縛り縄で担ぐか背負うがズシリと重く、体感では自重並みの負荷に全員の顔がゆがんだ。
「前のヤツに付いていけ。ハグれても知らん」
隊列は、先導と殿のオッサンズで木札級を挟む。
今回は中間あたりにセバスたち6人を配することで、学院のエリート様が勝手に付きそう豪華編成。
4年で卒院できない事が確定しているベンジャミン兄貴はエリートじゃないって?
その他大勢の一般探索者にとっては、学院の騎士科在籍ってだけでエリート様です。




