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道連れ転生  作者: 凡鳥工房
2章.ニュービー探索者編

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2-02.成果と教訓



 アクヤ・ダンジョンの第一層は洞窟タイプに分類され、ほぼ平面で広さは推定10km四方くらい。


 出現する魔物はケイブバット(コウモリ)、スカベンジスライム、ファンガス(キノコ)、クリーピング・ファンガス(歩きキノコ)。

 推奨レベルは1~3。


 魔物じゃないけど敵として出現する場合も想定される、強盗・追いはぎやチンピラの類。

 こちらの推奨レベルはピンキリ。


 なお、発見された当初はそこまで複雑な洞窟ではなかったのだが、鉄鉱石・石炭・岩塩の鉱脈が見つかり、長年の採掘により一大迷宮と化した。

 いわば人の欲望の積み重ねが生んだ迷宮といえるだろう。


 岩肌むきだし洞窟で、先頭を務めるのは松明たいまつを持つセバス。


 『防具はともかく肌の露出を避けるべし』との兄たちの教えに従い、普段は貫頭衣なので履いていないズボンを着用。冬物の厚手の長袖服を持ち出してきた。

 武器は、長めの杖のような棒。


「『ひのきの棒』たぁエリートめ」

「ヒノキかどうかは知らないけど。さすがに兄さんたちの表道具は持ち出せませんし」


 セバスの感覚でいうと、10歳児の身体に鉄の塊はまだ早い。


 仮に剣を持ち出せたところで刃を立てる技術もないし、振り回すには重い。振り回されるだけである。


 視界の悪さに、炎に合わせて踊る影。

 だいぶ緊張しているなと、じわっと汗ばんでいた握りを緩めて先頭交代を促す。


威力(ATK)は俺たちも負けてねぇぞ」


 ヨッシーは薪置場から選び抜いた『こんぼう』。

 ラッドは端材・廃材置場から選び抜いた『やや長めのこんぼう』。


「ラッドのを握り側にしてヨッシーのをロープでつなぐ連接棍フレイルにするのがよさそう」

「なるほど」


 フレイルは脱穀用の農具。

 クワや鎌同様、そこらへんにある道具ということで、農民が武装蜂起するときの頼もしい友である。


 特徴は、振り回して叩きつけることで先端側が継手を軸に加速。それにより高い打撃力を生み出す。

 物体の運動エネルギーを示す『重さ×速度の2乗』の式で分かるように、威力に与える速度の影響は大きい。


 ただし、素直な棒状のこんぼうに比べれば扱いが微妙に難しいのが玉に瑕。

 若干トリッキーな動きをする先端側の予測と、攻撃範囲を把握しておけという話になる。


 三人は先頭を交代しつつ洞窟を進み、時たま戦闘音は聞こえるし、すれ違う人もいる。


 その際に声を交わす人もいれば、無言の人もいる。


 いずれにせよ互いに壁際に寄って目線を外さないのは同じ。

 すれ違った後もしばらく後方を警戒するのは、探索者の嗜み。


 セバスの兄情報、『一番怖いのは魔物ではなく人』とは、三人も納得できる緊張感があった。


 しかし、魔物にめぐり合わない。


「幹線は人通り多いからかな。下手な採掘をした現場は崩落の危険があるそうですが、大丈夫そうな枝道行ってみます?」

「いうて、さっきからすれ違ってるの、俺らの同類のニュービーばかりちゃう?」


 【祝福の儀】の直後に新規登録者が増加するのは確定的に明らかだ。


 近隣の農村から出てきて、折よく戦闘系のスキルを授かったケース。

 あるいは最初から口減らし目的で連れてこられ探索者になるしかなかったケース。


 厳しい現実を言葉を飾らずに言えば、死ぬにせよ心が折れるにせよ、三週間もあればある程度の間引きは済むはずだが、それでもダンジョン内のニュービー人口は多いのだろう。


 三人には、心根・覚悟的に戦え(バトれ)るかどうかの不安はあった。

 しかし、それ以前の問題として、どうやら魔物との遭遇そのものが困難であると予測できてしまった。


「やめとこう。みんな同じようなこと考えて、それでいつの間にか限界を超えてしまうんだ」


 同一階層内の同一種の魔物の強さはほぼ同じ。

 ただし、狩猟圧の差で魔物の密度や同時接敵数がどうなるかは三人にとって未知。


 バトル自体がなんとかなったとしても、物資の問題もある。


「予備の松明まで使い切って暗闇んなか手探りで帰れって、泣くぞ?」

「泣くだけで済めばいいんですけどねえ」


 予定通り、松明一本分、時間にすれば小一時間で行って戻れる範囲をチラ見して撤退した。



   ☆



「なんの成果も! 得られませんでしたー!!」


 探索者組合の中庭に帰着直後、言いたいことを言い切ったスッキリ顔のヨッシーである。


 ニュービーに教育くれてやっかと待機していた三下ゴロツキもこれには苦笑い。


 探索者の計数感覚がザルなのは、ただでさえ教育機会がないような階層出身者が多いのに加え、カネを持っててもカツアゲ食らうというニュービー時代の痛い経験も影響している。

 弱いというのはそういうことだ。


「さあ、盛り上がってまいりました」

「盛り下がってるやん! めっちゃ盛り下がってるやん」


 明らかにだれた態度と口調でやる気なしをアピールするラッドの胸元に、ヨッシーが横合いから手の甲を叩き込む。

 実にプレーンなツッコミに、いや、前世から使い古されたネタ&ツッコミにセバスもにっこり。


「一度くらいバトってみたかったですね」

「心構え的にも、バトれるか確認しておきたかったのはある」


 期待は外れたし資金繰り計画にも暗雲が漂い始めたが、生情報は入手できた。

 なにより、三人とも五体満足で帰還できたのだから、ヨシとしなければならない。


「成果はともかく教訓は得ただろ」

「ああ、俺の鍛え抜かれた足の裏の皮でも、とんではねて踏ん張ってとなると厳しいと思う。靴はかないと怪我するな」

「獲物にありつくためには、それなりに奥まで潜る覚悟で挑まないとダメそうです」


 精神的な疲れも大きい。


 心理的なものと思われるダンジョンから感じる圧迫感にはそのうち慣れるだろうが、根本的な視界の悪さはどうしようもない。

 また、対人の緊張感は欠かせないものだろう。


「変な慣れで緊張感切らすわけにもいかんしなあ」

「常に張りつめているわけにはいかないから、意識して気の抜き方も練習しないとですね」


「視界もなあ。炎が揺れるのがこんなに目を疲れさせるとは」

「それこそ光魔法でなんとかなんない?」


 反省会をしながら組合の建物を通過……しかけて、壁一面の掲示板に気が付いた。


「あー、依頼や募集の掲示板。お約束だけど、文盲もんもう率どうなってるのかツッコミたくなる例のアレじゃん」


 文盲はそれなりに居たのに、立て看板出しておけば通りがかりの人に読んでもらえた歴史上の日本がおかしい。

 今世でも、広場での告示等では読み上げ専門の役職が存在する。


「いわゆる冒険者モノなら窓口斡旋が無難ですよねえ」

「文盲お断りの足切りって解釈もあるぞ」


 悪目立ちしないようにささやき合う配慮はしつつも、身内トークだからこそ容赦はない。


 実際には、探索者組合で掲示せず窓口での口頭斡旋のみは、むしろ特別な案件の場合になる。

 誰でもいいような案件だからこそ掲示板にかけるのだ。


 掲示板は木札級と鉄片級でわけられており、読めずとも掲示札を持っていけば受付で説明をしてくれるシステムとなっている。

 なっているけれど、誰がそのシステムを説明してくれるのか。


 受付の職員は、聞かれれば答えるだろう。

 つまり、進んで教えてくれることはほぼない。


 説明書マニュアル案内ガイド

 木札級相手にそんなものはない。


 親切な先輩。

 そうだね。先輩のありがたい教えにお酒の一杯はおごらないといけないよね。


「これだ!」


 ラッドがとある依頼札を指さした。




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