12-10.クラン運営の悩みと下準備の続き
この冬季から、ウィスタリアが産休に入り、稼働メンバー9人体制になる。
ダンジョン活動方針は継続、季の前半・後半でそれぞれ4週間のダイブを行う。
1ダイブあたりの第十層滞在は最大16日間だ。
「操船の練習や、電波灯台が有効かの確認。そのうえで、とりあえず沿岸をなぞってマッピングだ」
「結局、下準備の続きだねえ」
海の魔物の脅威を脇に置いても、QAKこと、急に浅瀬が来たので……座礁しても、酷い壊れ方さえしなければヨッシーの【個人倉庫】経由で動かせはする。
ただ、船を壊しちゃったら、ぶっこんだ15億ポイントの稼ぎ直しに何年かかるか、考えたくない話ではある。
と同時に、気負っても仕方ない。むしろ余計な力が入るとエラーを起こすのが人のサガでもある。
「気を抜けとは言えないが、気楽に行ってこよう」
どのみちトライアンドエラーでやるしかないのだ。
☆
さて、ラッドの【通信販売】は、大物買い効果でコマンド追加とRankアップしている。
転生三人組は執務室の暖炉そばに集まり、事後処理中。
追加コマンドの『購入権付与』は、指定した人に販売画面に加え保有ポイント・購入権が共有される。
「『入金・買取査定』のときと同じだな。指定したから確認ヨロ」
「「あい~」」
これまではラッドしか購入できなかったので、メンバーへの配分もラッド経由だった。
毎季36万ポイントを各個人台帳に振り込み、粉ミルクだったり肌着だったり避妊具だったりを購入の際に台帳に反映。
「個人的なお買い物で、ズルはダメだぞ」
「わ、わかってるし」
Rankアップで広がった購入先は、なんと『ブラックマーケット』。小火器を筆頭に携帯兵器がカタログに並んでいた。
☆
休暇中の転生三人組は、ファンガス農園詣でのためにダンジョンに入った。
もはやポイント目的ではなく、見張りのおいちゃんに手羽先やクッキー、お手製のベーコンレタスバーガーなんかを届けに行く、気の置けない友人づきあいになっている。
道中のどん詰まりの通路にいたコウモリに、護身用と呟きながら購入した9mm拳銃を試した。
「なかなか当たんねえ」
拳銃で、動いている的に狙って当てられるのは、せいぜい10m程度ともいう。
当たれば落ち、じきに消滅する。
「神秘が足りないと効果がない、的なことはないみたいですね」
「そりゃ『現代ダンジョン』モノのお約束だろ?」
セバスに対し、物語上のお約束にこだわりのあるヨッシーが突っ込む。
物語ジャンルのひとつ『現代ダンジョン』モノにおいて、神秘性が云々は近現代兵器をナーフして剣と魔法に寄せる理由付けの設定だとか力説。
「ただの技術のスキルならともかく、魔法的効果の乗るスキルだと、殴り合い蛮族スタイルのほうが威力ありそうだろ」
「いまさらだけど、僕たち神秘の世界に生きてるんですね」
「それな!」
魔法的な効果の影響が乗らない、まっさらの武器として見た場合、拳銃が通用するのは小動物までかな判定。
「あと対人用、初見殺しに」
「スタンガンとサイドアームの両用はかえって混乱しそう」
「対人ガチなら銃剣装備の歩兵用小銃、短槍って言い張るのは?」
護身・警備の非致死性用途と、ガチの殺し合いとではおのずと異なる装備が必要になる。
ただし、射撃戦スタイルを愛好するクラン『アスタリスク』として、既存の弓矢と歩兵用小銃の置き換えは要検討。
コストや連射性、整備性、信頼性なんかのもろもろを勘案する必要がある。
ライフル銃といえど、一発の威力的には、イノシシやクマ相手ですら、急所に当てないと仕留められない。
だが、たとえレベル1のぺーぺーでも、歩兵用小銃乱射すれば第二層、第三層、もしかしたら第四層をも歩ける目はある。
もっとも、そんなパワーレベリングをするとひどい霊格酔いを起こし、最悪は魂が砕けて死ぬ。
「ま、第九層以降でいろいろ試そう」
「「さんせー」」
☆
クラン『終末の角笛の護り手』との定例会、今回はマックス側での開催で、転生三人組とジュスティーヌは堂々のお誕生日席に案内された。
「だって客だし、それに、おめーらのほうがつぇーだろ?」
「そうかな……そうかも?」
オルガの言う、『強いものが偉い』。単純にして明快な真理こそが探索者をまとめる鋼の掟ではある。
『終末の角笛の護り手』幹部連中も、強さの真偽はともかく、ボスの前で波風を立てる気はないようだ。
話す内容は忌憚のないというか、とりとめのない愚痴が多くなる。
資金繰りを嘆くジョゼフだが、いざ使途を書き出して並べても、どれも必要だし妥当だよなって。
人数の多いクランゆえ、諸経費ひとつとっても重みがある。
また、団員のモチベーションも頭の痛い問題だそうだ。
「学院卒だから、まじめにやれば第四層まではすぐのはずなんだ」
「んでもよぉ、第八層を目指そうなんてのは、やっぱ一握りなんだよなあ」
第四層までの育成段階は、クランからの持ち出し傾向。
第五層でレアもんゲットすると金銭収入ドカンと跳ねるが、それゆえに第六層以降への意欲を失う者も多いのだとか。
ベンジャミン兄さんのように、生活が安定すればそこで満足する者はそれなりにいる。
というか、普通の人間としてはむしろまっとうだろう。
だが、攻略パーティどころか支援・物資運搬パーティにすらなる気がないとなると、何のための攻略クランかとなる。
「組合はよぉ、『お手頃』な第五層産品が増えるのもアリって頼りになんねぇ」
「上納の強化や、第六層以降への手当増額。どんな手を打っても不満は湧いて出る」
まこと、世の中に愚痴や問題は尽きぬものである。
☆
第十層、電波灯台からの信号が受信できれば、発信源の方向と距離はわかる。
距離は、信号に発信時間が含まれているので、受信時間とのズレから算出する。
「どこまで受信できるかは、やってみないとな」
操船も、図体がでかいだけで、これまでのボートや川船と基本は同じだ。
バウかサイドか、スラスター装備のおかげで、突堤港への接岸は割にスムーズ。
「でかい船は舵の効きが遅いって知識はあったが、独特なもんだなあ」
「ボートとは違うわな」
第十層1日目は、鳥乱獲に始まり、出港入港、八の字、渦巻といった操船練習や機材への習熟で終わった。
2日目、方位と距離で方眼紙に航跡をプロットしつつ、北に向け航行開始。
一応の用心として、対水速度と時間から移動距離を算出してのプロットも並行しておく。微妙にズレていくのは、精度と海流の影響か。
夜間航行はせずにアンカーを下す予定だが、どれだけ流されるかは神のみぞ知る。
第九層からの河口部がちょこんと突き出た半島状だったようで、進むにつれて陸地が後退していく。
もと陸地の合った方向に寄せると、先は見えているのにレーダー上では電波が返ってくる。第九層同様の見えない壁の存在を、ドローンを飛ばして確認した。
航行時速は20km/h程度、海風に言えば10~11ノット(※1ノット≒1.852km/hで計算)。テレグラフは【SLOW】指示だけど、軽いからね。
浅瀬や暗礁に突撃して座礁・沈没を避けるため、気持ち手探りで控え目なつもり。
地図(海図)さえできれば、巡航22~25ノット近くまでは問題なく出せる。
「水平線まで4kmくらいだっけ?」
「視点の高さ次第だから、ブリッジからなら10kmくらいは見通せるはずだぞ」
東側に見えない壁のレーダー反射を確認しながら、おおむね200kmくらい北上したところ、正面にも見えない壁の反応がある。
「隅っこに到着ぽい」
「半日がかりか。日も陰ってるし、アンカーおろして明日戻ろう」
ヤッツケ電波灯台の電波も、まずまず受信できている。
3日目、速度を上げてエンジンの様子をみたが、特に何事もなく帰港。
ただし、未知の領域に進む緊張と、慣れない揺れにさらされ続けた体と心は相応に疲弊していたようだ。
4日目、体力や精神の回復をしつつ鳥乱獲。
5日目、今度は南へ向かい、6日目に帰港。
「とりあえず、出発点を含む1辺は400kmほどで確定」
「海流もあるっぽいです」
「いまさらだけど、ダンジョンってのは本当に謎空間だわ」
7日目は、休みつつ鳥乱獲。
8日目、まず北に向かい、見えない北壁に沿って西に走る。
第九層のような縦深があるのか、時間の許す限りの調査のつもりだったのだが、手探り巡航10ノット強、夜間は停止で、9日目に西の壁に到着。
10日~11日目で西壁沿いを南下、12~13日目で南壁沿いを東進、14日目に帰港。
1辺約400kmの正方形がマップの外周だと確認できた。
なお、はじっこすぎたためか、海の魔物とは遭遇せず。
身構えていたのに拍子抜けというか、不完全燃焼というか。
15日目は休み&鳥乱獲で、第十層の活動限界の16日目には第九層でヒャッハーした。
外周を確認できたので、次は内側を埋めていく作業になる。
方位さえわかれば帰ってこれるとはいえ、測位できれば安心感が違う。
そのため、中間会議では三角測量用に電波灯台増設を決議し、後半戦で陸地部分から見繕って建設した。
☆
冬秋も、第十層での『狩り』にはならなかった
レベルも、アドルフとフィアフは78、ユイとオルレアが74に、それぞれ1つずつあがったのみ。
第八層レアもんでは成長のオーブが1点ドロップ。お取り置きだ。
オークションには15点を出品、総額で金貨400枚となっている。
テレグラフハンドル : エンジンを何回転にして欲しいのか、船橋、機関制御室、機関室間で通信するもの
AHEAD … 前進
ASTERN … 後進
STOP … 停止
DEAD SLOW … 極微速
SLOW … 微速
HALF … 半速(全速の半分)
FULL … 全速
STANDBY … エンジンがいつでも始動できる状態で待機
FINISH WITH ENGINE … エンジンを始動できない状態にして待機
速度は海・船・エンジンの状態による




