12-09.攻略下準備中
弓矢の矢を構成する主要部品は、矢羽根、鏃、シャフトの3点。
第十層の鳥たちの乱獲で、一定量の矢羽根の入手にめどが立った。
威力を担保し一番損耗する部品でもある鏃に関しては、かなり前から補修部品扱いで、鍛冶屋さんに季毎にいくつで発注している。
余るのはかまわない。ほしい時にすぐに手に入るようなモノではないからだ。
素材の鉄は、直接取引というカタチで第八層ドロップの『鋼鉄塊(15kg)』を持ち込み。なんなら工賃の代わりにもなる。
『鋼鉄塊』は重さが災いしてほぼ持ち帰られることがなく、クラン『アスタリスク』も組合に出せないまま、ヨッシーの倉庫内で在庫になっている。
シャフト加工および組み立てはマルク工房を窓口に依頼。
すっかり禿げ上がったマルクは親方を引退したが、後見として目を光らせており、安心してお付き合いができる。
こちらも、ヨッシー倉庫の肥やしになっている伐採木を持ち込み。これまた工賃の代わりにもなる。
「焚き付けなんざ、なんぼあってもいいからな」
燃料需給は、都市の弱点の一つだからね。
マルク工房は家具木工組合所属なので、武具である矢の部品製造や組み立ては厳密には職分が云々なのだが、ラッドの出身コミュニティということもあり身内の縁的なアレでソレなのだ。
身内仕事で手間賃もらう程度の話は黙認しないと、イロイロひっかかってしまうのが職人界隈である。
「どうせ、下請けってカタチで職分外の仕事も融通しあってるしな」
ついでの話で、まっとうな矢というものは、それなりにお高い。
庶民レベルで十分な日当の大銅貨1枚で、『まっすぐ飛ぶ最低限の矢』が1本買えるかな、の判断ライン。
「出来合いを買ってカネを使うのもアリなんだが」
「必要量を確保できないじゃん」
矢の購入には、そこはかとない数量制限がある。
さすがに勘弁してくださいと、組合のおじさんから注意もされてしまったのだ。
買い占められたら他の人が困るんですとくれば、義理や世情に配慮せざるを得ない。
クラン『アスタリスク』は簡易拠点を展開しての迎撃戦で、探索者としてはあり得ない量を撃ちまくるからね。
常軌を逸した分量の『武具』をかき集めている武装集団って言い換えれば、あかんよねとはわかる。
だから、ツテを頼って自家製造めいたスキーム構築も、仕方ないことなのだ。
……おかしな分量の『武具』を自家製造する武装集団?
HAHAHA
探索者クラン『アスタリスク』は優良な納税・納品実績を誇り、アクヤの街の代官様や衛視隊等の各行政組織とも友好的な意思疎通を欠かさない、とても誠実な方々ではありませんか。
☆
秋季1回目のダイブ後の反省会兼2回目の方針を決める中間会議の話題は主に4つ。
1つ目は、前述の矢の発注スキームの展開についてで、必要なことだもんねで終わり。
「自家消費ではなく、販売に手を出すような真似をすれば別でしょうけど」
「うち、探索者メンバー14人しかいない『弱小クラン』だからねえ」
14人がそれぞれグロス単位の矢を放ったところで、軍事的に見ればせいぜい局地戦でしかない。
以下、第十層での移動手段、関連して測位について、最後に設備工事の段取りなどを話し合った。
☆
大海原を相手の移動手段に、まあ、船しかないよねというのがメンバーのご意見。
一回、発想を壊してみるかと、もういっそ空を飛ぼうぜと吹いてみて、【通信販売】カタログを確認したのが悪かった。
海上で離着水できる、いわゆる水上機カタログ上に『二式大艇』を発見してしまったラッドが叫ぶ。
「いつのもんだよ! ていうか飛ぶのかよ! なんで美品なんだよ!」
「US-2のこと?」
いえ、海上自衛隊が導入したUS-2じゃなくて、大日本帝国海軍の二式飛行艇のこと。いわゆる太平洋戦争時のシロモノ。
「マニアのコレクションか、博物館の放出品か?」
「闇が深まったな」
ラッドは顔の前で手を振って、転生三人組内でしか通じない話の打ち切りを合図した。
「仮に操縦できたとしても、整備できない以上は使いつぶしだ」
「じゃあまあ、やっぱり船かあ」
船だってろくな整備ができないのは一緒だが、エンジン止まってもひとまず漂流するだけで、即効の墜落死はない分、安心できる。
☆
船で大海原に乗り出すとして、次なる問題は測位だ。
見渡す限りの水の上で現在地不明ですは、転生三人組の感覚としては怖すぎる。
メンバーとしても、目印もなしで彷徨うのは、できれば避けたい。
「天測……ダンジョンの『空』は信用できるのか?」
精確な時計や方位磁針は通販で入手できるが、素人が六分儀で出せる精度は心もとない。
比較対象になる基点などもないし。
三人組や、学院で地図作成や測量系の講座をとったメンツで真剣に検討するが、海流の影響はあきらめた慣性航法を試みるか程度。
「大航海時代以前はランドマーク沿岸航行しかできんって、はっきりわかんだね」
プリムローズは隣り合うマリエルやユイとこそこそ話して、要は、海の上で自分の位置がわかればいいのかと理解した。
「ねえ、マリエルの子に持たせている発信機みたいなのって、ないの?」
「発信機? 電波……電波灯台!?」
複数の電波灯台が発信、それぞれの電波の届いた時間差から自分の位置を計算する、電波航法案が急浮上した。
「出発点、港に電波灯台はいいな。帰る目安にもなる」
ただし1000kmオーダーのガチ電波航法であるロランC用の電波塔の高さは200m弱、オメガ航法用だと実に455m弱。設備的に無理。
「マップの広さも不明だし、短波ならアンテナそこまで必要ないだろ?」
「電離層……いや、空に見える天井のほうが、確実に反射はする?」
地球における短波の到達距離は電離層での反射に左右される。ダンジョンの壁や天井が電波を反射するかは不明。
複雑な信号を送るのではないから、減衰が激しかろうと究極的にはブツ切れでも受信できればいいのだが、結局、やってみないとわからない。
☆
工事に関しては、ざっくりの段取りと工程表までは地上でつくり、舞台は現場こと第十層に移った。
港というか桟橋というか船着き場は、引き潮時で水深5m確保を目標にする。
土台代わりに消波ブロック敷き詰めて、上を平らに土石舗装。
沈降なんかでガタついてもしょうがないのヤッツケ精神で、目標水深が確保できるまで突堤伸ばしていく。浚渫は土台から崩れていきそうで怖いのでやらない。
「乗り込むだけならボートで沖に出て、そこで船をお出しすればいいんだけどな」
「毎回は面倒じゃん」
未来の楽のために手間をかけるのはいとわないのが三人組だ。
同時に、どうなるかわからないものに労力を突っ込むのはアレだなあというお気持ちも強い。
足場用の単管パイプを組み上げて、てっぺんにアンテナと大型LED照明をとりつけ、電線をたらす。
地上で発信機と、太陽光発電パネルとセットのバッテリーにつなげば、ヤッツケ電波兼用灯台の完成だ。
「とりあえず20mでよかんべ」
「大人のジャングルジムだな」
「足場板と階段あるけどね」
なおアンカー兼用で土台はコンクリ塊になるように施工。
乾燥・硬化待ち時間中に突堤工事という段取りだった。
☆
下準備の仕上げはお船の調達。
海上で遭遇する魔物は、伝承上で、毒クラゲ、海竜、オクトパスかクラーケンの3ないし4種が確認できる。
それらへの対抗と、マップの広さがわからないことを勘案し、『大は小を兼ねる』を合言葉にした。
「遠洋向けの330トン鋼鉄船、まき網装備、15億。これでいいよな?」
「お、おう」
相場を知らないモノの値段は何とも言えないよね。
「こ、鋼鉄の城!?」
「すごーい」
長さ約50m、幅8m、高さは喫水下込みで7mくらい。名前はまだない。
ガレオン船やキャラック船でも50mはでかい方で、日本の歴史だと安宅船がこのクラス。
ユイちゃんがほけーっと眺めてしまうくらい、でかくて強そうなお船なのだ。
さらに、DIY的船のマストの延長改造に、アンテナ敷設と電波受信機、周辺監視用の有線ドローンの設置、救命胴衣等の装備や備品も購入。
「15億に比べりゃなあ」
「現金じゃなくてポイント払いというのも、地味にストッパーを外してるよな」
「でも必要なものだし」
「「それな」」
必要に出し惜しみは厳禁だ。
問題は、本当に必要なのか、検証能力を失っているかもしれないということなのだ。
☆
秋季は第十層に進出したものの下見と下準備で、『狩り』にはならなかった
一応クリスがレベル78になったが、これは蓄積分の影響だろう。他のメンバーは全員横這い。
第八層レアもんのオークション出品は都合13点。総額で金貨660枚。
差し引きで保留分が増えているが、入手が細ることを見越してのものである。もちろん、下手に流せないブツもある。
そしてラッドの【通信販売】、あれやこれやで総額16億5900万ポイントの大放出が効いたのか、追加コマンドとRankのダブルアップとなった。
推定で、累積5億ポイントと10億ポイントでの実績解除。
「パターンでいえば、次は累積50億ポイントだが無理だろ。これが実質最後のランクアップだな」
「……そうかな、そうかも?」
現在のポイント収入面からざっくり計算してみたら、10年くらいはかかる。
そこまでは引っ張れない。30歳前に、レベル100に届かせたい転生三人組だ。




