12-08.第十層『大海』
秋の夜長と人の言う。
秋分祭週の終わり、転生三人組はラッドの執務室に集まって、ワイングラスを手に1年間の振り返りが行われた。
「1年が、あっという間に過ぎていった気がする」
「ラッドじいさんや、歳をとるとそうなるもんですよ、ホッホッホ」
「僕ら、ピッチピチの23歳なんですけどねえ」
のっけからいつものノリだが、表情は悩まし気。
「転生発覚から14年回目の秋、レベルは季毎に1上がって76」
「上がりはしたが、やはり第九層では限界か」
おおよそ2年を第九層でダン活してみて、行き詰まりを覚えている。
「例の、成長のオーブ、いまいくつ?」
「鑑定の巻物の記述を信じるなら、合計で6レベルアップ分」
スキルオーブの一種、成長のオーブは、霊格量を放出することで使用者の霊格レベルを上げるアイテムだ。
「獲得が固定値なら、入手次第の使用なんですが」
「記述は『霊格レベルを上げる』だからなあ。なら後回しほど効果的なわけだし」
「どっちにしろ、ラストエリクサー症候群はなしだ」
出し惜しみして抱え落ちは論外としても、現状、経験値をまったく稼げていないというわけでもない。
かつ、「最後の望みだ」で、「なんの効果も、得られませんでしたー!」は泣くに泣けない。
レベル90を超えた時点で、いくつか使うということになった。
☆
明日から、クリスとウィスタリア夫妻の第一子が学院の幼年科に通う。
生まれた時から探索者クランの中で育ったこともあってか、10歳からの本科は探索科に進み、探索者になると言っている。
ただし、家政科出身の両親から「潰しが効く」との説得もあり、家政科の内容をできるだけつまみ食いする予定らしい。
「加護にもよるし、別に探索者にならなくてもいいんだけどな」
といって、商売などの継がせる家業がない以上、子どもたちが馴染みのある親の職業、この場合は探索者を目指すのも普通だ。
セバスは背もたれに身を預けた。
「姪の時も思ったけど、子どもがもう学院通いかって、なんかこう一気に歳とったなあって実感が」
「わかる」
転生三人組はじめメンバーの子どもたちも、今後、続々と8歳を迎えていく。
そしてすぐに10歳、【祝福の儀】。
【祝福の儀】の先は、『小さな大人』としてのモラトリアム期間。
子ども扱いが許されない、親にとっても子離れをしなければならない時期となる。
「僕は、人の親をやれているんだろうか」
「子は勝手に育つってな。なるようになるもんだ」
ラッドは割り切っている。
☆
クランの年度会議において、保留中の成長のオーブ、転生三人組が相場で買い取ってメンバーに配分するとの提案は却下された。
「おカネはもういいんだってば!」
「引退とか解散とかの時に、魔法鞄の権利をね、融通してくれればそれでいいのよ?」
未来の話、空手形だぞとラッドが苦笑すれば、でも、約束は守るでしょとマリエル。
メンバーは14人だが、家単位だと7。容量の違いはあるが、現時点でも魔法鞄を各家に配分することは可能だ。
「先の話はそこまでで、今年度の公共事業案、みんな確認はしてくれたかな」
「出資先もないしねえ、いつも通りってとこよね」
社会におカネを還元するための公共事業、今年度は土地の取得にともなう整地や境界工事を予定。
昨年度、北側の商業組合管轄地で区画を整理し、通りに面した間口を拡大、賃貸向けの大型アパルトメントを建てる計画が動き出した。
この際に、深すぎる奥行を手放し事業資金の足しにするとの意図で、隣接地にあるクラン『アスタリスク』に話が来たといういきさつになる。
転生三人組、もちろん買った。
当面の用途は思いつかないが、買えるときに買っておけ精神だ。
また、お馬さん関連も増補。
繁殖で生まれた駒込みで12頭まで増やす。馬車類も、メンテナンス時の予備も込みで各4台体制とする。
数を増やし、クランハウスの厩舎に交代で常駐させるようになったことで、もらってきた猫様ともども、子どもたちの情操教育にも役立っていると思う。
むしろヨッシー家などは、オルレア、ジャルマリスが率先して厩務や猫様のお戯れに付き添う勢いだ。
「厩務員さんは、ちょっとよくわからなくて……」
馬丁こと厩務員は、現在は、クランハウスに常駐する馬ごとに、担当する者が契約している牧場から派遣されている。
お住まいとして厩舎脇の小屋を提供し、朝夕はお食事も出す。
クランで雇うには、牧場関連の同業組合を通して云々と、理屈も制度もよくわからないので保留中。
「直接雇用と、取引先からの出向受け入れの違いってんならわかるんだが」
「自前で育てた厩務員ならともかく、組合員からの引き抜き警戒なのかなあ?」
同業組合の大命題、存在意義とは、組合員の生活と仕事の品質保証、ぶっちゃけ利権を守り抜くことではある。
加えて牧場にとっては、権利上はヨソの馬でも、ウチの馬感覚。どこの馬の骨かもわからんヤツに世話なんてさせられん的な気持ちがあったりもする。
ともあれ年間のクラン費徴収額も改定。ついに金貨10枚の大台に乗った。
ちなみに秋季のダン活方針は、第十層の下見が承認され、4週ダイブを2回もそのまま継続となった。
☆
アクヤ・ダンジョンの最深部とされる第十層は、『大海』の名づけのまんまである。
第九層からのゲートの先は河口で、わずかばかりの陸地が左右に広がり、見渡す限りは大海原。
頼りなくともデータのある最後の階層で、もはや地図もなく、伝説・伝承でも『大海である』の一言で済まされる。
もうちょっと詳しい記述を探すと、いくつか島があり地竜がいるとか死を招くカスタネットだとか、海洋部も巨大な海竜とか身の毛もよだつ触手とか。
いろいろヒントは読み取れる。どこまで信用できるかは別にして。
そしてまた、『最後の試練』を課すBossの出現する浮遊島も伝説上で語られている。
「データの精度、信用度は、どんだけの人が第十層を探索したかってハナシだもんな」
「浮遊島って、それこそ認定条件不明の【星霊樹級】がらみでギミックを解かないとダメとか?」
「ありそう」
ないです。
確かに、とある条件達成で浮遊島が降下するので、ギミックっちゃギミックだけど、【星霊樹】云々は関係ないです。
【星霊樹級】は探索者組合の規定上での最高位だが、それこそ建国王なり英雄王なりの伝説で語られるだけの称号。
現時点のアクヤ・ダンジョンでは、ほぼほぼ枯れちゃってるので、忘れてください。
セバスは眼前に広がる水面から、目線を天に向けた。
「僕たちはレベル100こそ必達だけど、伝説を目指しているわけではない」
三人は、転生に伴うあれやこれやで、レベル100を達成しないとペナルティがある。
仮に神様基準の『軽い』ペナであっても、凡人基準だとロクでもない可能性があると三人は考える。
同時に、できない条件を課されたとも考えない。そこは神様への信頼だ。
アクヤ・ダンジョン第十層、最深部。ここでレベル100までもっていける。そのはずなのだ。
☆
データ上に記載のあった魔物な鳥たち4種。
小鳥、大鷲、アホウドリ、ハゲワシは、いずれも沿岸部分に出現する。
「バーディ、イーグル、アルバトロス、コンドル……」
「そして立地は一面の砂浜とウォーターハザード・エリア……」
「このダンジョン、絶対に転生方面の先輩が絡んでるだろ」
ノーコメントで。
魔鳥たちは見た目は普通の鳥に見えるが、倒すと消えてしまう。
クラン『アスタリスク』はヨッシーの【個人倉庫】で、常温・冷蔵・冷凍の3つの温度帯で食糧貯蔵を行い、ラッドの【通信販売】でお取り寄せもできる。
だが、一般通過探索者には水と食料をはじめとする消耗品問題がついてまわる。
「新鮮な肉、食いたかったんだろうな」
「で、魔物でしたと」
そういう経緯で魔物と判明したのではないかと推測する転生三人組だった。
ドロップは『魔石』と、それぞれに応じた『羽』(鳥の羽、鷲の羽、白い大羽、黒い大羽)、そして、なぜか混じっている『オカリナ』。
肉は、ない。
☆
さて、クラン『アスタリスク』は、その狩りスタイル上の問題として、矢を大量に使用する。
できるだけ回収・再利用しているとはいえ、焼き討ち上等な場面など、ロスト前提な消耗品だ。
ドロップの羽の中に矢羽根に用いられるものが混じっていたのが魔物鳥たちの運の尽き、見かけ次第の乱獲となった。
当初は動体射撃の練習もかねていたものの、なかなか当たらないし矢を回収しなきゃで、とにかく時間がかかる。
倒すことで得られる霊格量は、体感ではないようなもの。
実際、この階層まで来るような連中にとっては放置すべき雑魚に過ぎない。
「かすみあみだ!」
「かすみあみか!」
「……で、やり方知ってる人います?」
前世日本では禁止されている方法だとは知っていたが、具体的にどのようなものなのかは、誰も知らなかった。
まあ、「あみ」ってことは「網」だよなって、果樹園なんかを囲んでいる防鳥ネットぽいイメージで、長い竿を両端に網を広げ、二人がかりで取り囲んで追い込む。
種別を問わず基本はノンアクティブなのも災いし、一網打尽からの乱獲が成立してしまった。




