12-05.ダンジョン籠りの夏
「がっつり4週ダイブを2回で、本当にいいんだな?」
「夏ですし、いいでしょう」
ダンジョン籠りの夏季。
様子見と威力偵察で、ざっと第九層の把握が済んだことで、がっつり行く方針が承認された。
1回あたり実に27泊28日。前世のスポーツ強化合宿も顔負けの日程だ。
ただし第八層で往復10日使うので、それくらいでないと第九層での活動時間をがっつり確保できない。
大断崖ショートカットで移動時間を大胆に短縮できるクラン『アスタリスク』をしてもコレ。深層攻略における距離の、時間の壁はとほうもなく分厚い。
一般通過探索者の最終階層が、お宝エリアの第八層になるのもむべなるかな。
また、戦力均衡化方針のもと、2回とも出撃予定なのは転生三人組と復帰組で、クリス以下の男子組は1回で予定。
つまり男子組は実働4週間で8週間お休みの夏になる。
もちろん、休みと言っても休みじゃない。ダンジョンに潜らないだけで、地上の留守番組にもやることは多い。
☆
第九層の魔物は出没範囲がはっきり分かれている。
まず山岳・氷河・雪原エリアに出没する動物系で2種。
大雪猿は、遠目には白いもこもこ。
立ち上がると3m超えの巨人種で、サルっぽい顔つきのほぼほぼクマである。
雪原上などでは保護色迷彩化しており、目視では気づけないことも多い。
ただし、その剛腕を【うんこ投げ】という攻撃手段に振り込んでいるため、奇襲を受けても死ぬ危険は少ない。
尊厳的なモノが死なないとは言っていない。
どっかの誰かの魔力レーダー的なモノには引っかかるので、釣りだし迎撃戦で片付けるのが安定。
収納の腕輪によって即座に武器持ち替えができ、ヨッシーの倉庫によって矢を潤沢に放てるクラン『アスタリスク』ならではの戦術である。
「放てー!!」
「クソ野郎がよぉ!!」
うんこ投擲よりも長い射程で完封を狙うのが吉でしょう。
汚辱を味わった者ほど、弓を引き絞る全身から気迫の漲りを感じられます。
特徴的なドロップは『大雪猿の毛皮』と『氷の実』。
どちらも組合買取値は正銀貨1枚だが、めっちゃうまいフルーツ『氷の実』は実質的に現地消費するしかない。溶けちゃうからね。
動物系のもう一種は白氷狼。
フェンの地の狼なので、通称はフェンリル。
でもフェン(湿地帯)には出ないで、氷河のある高山帯に出没する。名称詐欺。フェンリル言いたかっただけやろって感じ。
白毛以外にも灰色っぽかったり茶色っぽかったりまだらだったりもいる。
狼系らしく、リーダーに率いられた群れとして連係プレイを得意とする。
「まあ、地力はともかく『狼』だわな」
「やり慣れた相手ではある」
特徴的なドロップは『白氷狼の毛皮』に、『白氷狼の尻尾』と『白氷狼耳のヘアバンド』。
毛皮は正銀貨4枚になるし、敷物にしてもいい感じのファー感を演出してくれる。
「狼といえばヘアバンド。……なんでやねん!」
「いや本当に、なんでなんだろうね」
えっとね、『一ダンジョン一名品運動』の名残でね。
ここアクヤのダンジョンはフィールドも魔物も統一感ないのが逆に特徴というか、とにかく苦肉の策で低層で出現する魔物由来でなにかしらの名産をと。
でもほら、予算っていうか、できるできないってあるじゃない。
涙涙の紆余曲折の末に、狼系魔物に『狼耳のヘアバンド』ドロップをねじ込んだのよ。
土産物的な需要があるはずだって。
なかったね。
コスプレ文化は、この世界の人類には早すぎた。
組合買取値はゲロ安だけど、ヘアバンドと一緒に尻尾をアクセサリ的にぶら下げたり、マフラー的にまいてみたりするのもお可愛いいんじゃないでしょうかねえ。
☆
低地の湖沼群、水場水辺に出没する魔物は、データでは3種。
まず、虹色のマス。
鱗が虹色に見えるマスっぽい魚。
ただしサイズは全長2m級。
かつての小国時代、アクヤの街のクレイ城には建国王の残した魚拓が飾られていたらしい。
いわゆるノンアクティブなので、お船で水上航行中でも比較的安全。
『脂ののったお魚』は巨大な切り身で食べでがある。ステーキによし、ソテーによし、煮込みにしてもよし。
組合買取値は大銅貨1枚だが、日持ちするモノでなし現地消費が吉でしょう。
「どうやって、水中魔物と戦うんだよ」
「魚拓残ってるんだし……釣り?」
「釣りか!」
「ミニゲームだな」
スレていないのか食いつきがよく楽しめてしまった。
なお、その勢いで地上でも太公望気取ったところ坊主という、休日の家族サービスの悲しい一幕は忘れてさしあげよう。
街の外に繰り出しての水場遊び、子どもたちは楽しんでいたことだし。
ジャイアントフロッグは牛より大きなカエル。
射程範囲に入ると超絶舌使いであっという間に絡め捕られ、まるのみされる。
あっちでゲコゲコ、こっちでゲコゲコ。連携するわけではないが、とにかく数が多い。
「放てー!」
「ぬめぬめはイヤー!!」
はい。
『淡泊なお肉』は鶏のささ身っぽい感じ?
組合に出しても中銅貨1枚なので、これも地産地消めいた自家消費でいいんじゃないかな。
サハギンは水棲人類種っぽい二足二腕の魔物。日本人的にはほぼ河童?
わき腹にエラがあり水中呼吸が可能。尻尾・ヒレはないが、指の間に水かき膜はある。筋肉質で二足歩行も行う。
水中生物というわけではなく、水中適性も備えた水辺生物。
群れというか、小隊単位で行動しているようだ。
『水薬草』はクオルタ銀貨1枚。水中で育つ薬草で各種ポーション等の原料になる。添加剤として超優秀らしい。
『空気の泡』は中銅貨2枚。見た目は頑丈なシャボン玉のようなもの。
データ的には、この泡に頭突っ込むことで、水中でもちょっとの間、呼吸ができるとされている。
「試したい人~」
「「しーん」」
全員一致で目をそらされた。
実にファンタジーなアイテムなのに!
☆
第九層全域で、比較的地面がしっかりしているところには植物系の魔物が出没する。
もっぱらトレント系で、第九層で初出なのはドライアド。
木の精霊とも気のせいとも。
見た目はうすぼんやり光る若木。在り様は物質よりも霊体に近い。
トレントを取り巻きにしているため、トレントの森の主的な存在に見える。
そういう意味では実質的なレイドBOSSと言えなくもない。
『甘い樹液』は正銀貨8枚。いわゆるメイプルシロップ的な、魔力マシマシの甘~い樹液。
「甘みは通販で手に入りますし、組合への見せ札も必要ですしね」
『世界樹になる可能性のある種』は正金貨2枚。
世界樹は別名『聖なる木』ともいう。なお、育て方や環境次第で『邪悪な苗床』になったりもする危険物。
「すりつぶしてさっと湯がいたお湯が偽エリクサーの原料にもなるらしいけど」
「うちで作っても売るあてないし」
材料さえそろえば偽エリクサーを作れないとは言わないが、ポーション類にだって消費期限はあるとマリエル嬢。それに、とても臭いらしい。
買取値が金貨を超えるので一応オークション推奨品だが、そこまで高値にもならないので、手間暇を避けて組合買取でもいいかなというのがクラン『アスタリスク』の見解。
手元で育てる?
下手な育て方して闇落ちしても処分に困るじゃない。
わりに厳しい自然環境の山岳部で木や林を見つければ、すわトレントかってなもんである。
【魔力感知】によって魔物判定が下ればあとはいつも通り遠距離からぺちぺち。
「俺、危険物取扱の乙4持ってたけど、ガソリンは怖いので灯油な」
「火矢の準備もできてるよー」
欲を言えば爆発も加えた三位一体まで持っていきたいところだけれど、危乙4者ヨッシーが素人にガソリンは危険すぎると封印を主張。
地道に育てた投擲術で油壺や火炎瓶をぶん投げ、弓術で火矢をシューッ。超エキサイティング!
「また『トレント材』が貯まるな」
無駄に嵩張る丸太はどうやって持ち帰ったのか問題になるため、倉庫の肥しが増えていく。
☆
がっつりの夏、移動の足としてピックアップトラックをさらに2台追加したり、虹色のマス釣りのために釣り具や網などを調達したり。
そんなこんなのダン活は順調で、産休中のユイとオルレア以外、全員がレベル70台に乗った。
男子が転生三人組72、クリス74、アドルフ・フィアフ73。
女子がマリエル・ウィスタリア・ジャルマリス72、プリムローズ・ヴィオラ71、ジュスティーヌ70。
なおヨッシーはレベル71で【個人倉庫】が【自己認識】上のスキル熟練度表示がMAXとなった。
なんと縦1000m×横1000m×高1000m!
といっても、だいぶ以前より容積使い切れていないので、あーうん、そうねで終わり。
途中経路の第八層で得たブツでは、今回は歴代2位にあたる容量10倍の魔法鞄をゲット!
みんなで喜びの舞を踊った。
オークションにも適当に出品し、総額で金貨1105枚。
組合としてもオークションへの出品を続けてくれるなら、「ご無事のお帰りを」以外に言うことはない。




