12-04.川は海に至る
春季でダンジョン活動に復帰するのは、ジュスティーヌ、ヴィオラ、ウィスタリアにジャルマリス、そしてプリムローズの5人。
そうだね、去年の春の出産メンバーだね。
入れ替わりの産勤交代で、ユイとオルレア、そしてアドルフの嫁のリーリアが今年の出産メンバーになる。
「産むなら春がいいよねって?」
冬は、寒い。夏は、暑い。
いずれも赤子にとって害となり得る環境要因だ。
じゃあ、秋か春か。
秋生まれは、学院通いを考えると1年遅れとみるか、じっくり準備に時間を取れるとみるか悩ましいところ。
諸々勘案の上、女子たちは春を出産のシーズンと定めたらしい。
出産対応もあり、ダンジョンダイブは緩めの2週2休の3セットで予定。
「季節の半分をダンジョンダイブで緩めっていうのも、ウチらしいわねえ」
「フル参加確定は自分たちだけなんだがな」
ジュスティーヌとヴィオラは第八層未経験だが、まあ、なんとでもなるだろう。
☆
一般通過探索者の例でいえば、第二層で狩りになれば、ほどほどに生活できる収入が得られるが余裕はない。
第一層の選別を潜り抜けた成功体験に、1レベル差の大きな低レベル帯特有の強い成長感。若さゆえの無理が効くので無理してしまい、ケガなどで強制療養になるパターンが多い。
生き延びて、十分に富貴と言えるようになる第三層・第四層あたりを狩場にする中堅になるころには、1週間潜って2週間休みくらいのペースに落ち着くそうだ。
装備の手入れや、『英気を養う』時間がかかるとかなんとか。
嘘ではない。
女神さまからの宣託に曰く、ダンジョンとは『霊格の修行場にして物資の獲得場』。
だけど、魔物から得られる霊格量は総じて低め。
例えば、地上の野生の、天然物のクマの方が、ダンジョンのクマ魔物より多くの霊格量を得られる。
数をこなせることこそダンジョンの利点であり、すると当然に、肉体的にも精神的にも連戦の疲労が蓄積するのだ。
この霊格量の違い、仕組みを悪用しているのがいわゆる裏クランであり、効率的に初期レベルを上げるためにニュービー探索者を狩る。
同時に、人を殺すことに慣れさせ、忌避感を麻痺させることで、使いやすい構成員に仕立て上げていくという。
閑話休題。
ちょっと特殊な第五層とばして第六層以降に踏み込むのは攻略クランか上昇志向の強い連中。
行き帰りに日数がかかり、現地でなるべく長く活動したい事情ゆえ1回のダイブ日数が増えていく。
このクラスには、地上で数週間の休養も珍しくない一方で、最低限の補給だけでダンジョンにこもる手合いもそれなりにいる。
いわゆる『ダンジョンに取り憑かれた』探索者というもので、探索者組合から見たクラン『アスタリスク』もこの枠だったりする。
☆
山岳地帯に切り開いた道を小一時間ほど、ピックアップトラック2台で走り抜けると緩やかな扇状地に至る。
海に沈めても爆破ビルの屋上に置いておいても、ちょっと整備すれば動いたって紅茶きめてる車番組でやっていたモデルではないが、世界のテクニカル市場で信頼と実績のTヨタやMツビシ製。
機関砲はないが、弓やクロスボウで武装したメンバーが荷台に乗車、周辺警戒の任を果たす。
自動車ラリーで有名なアクロポリスより状態の悪いグラベルということもあり、平均時速は30km/h程度。
それ以上だと荷台のメンバーはもちろん、車内からも苦情がでる。
法規などのこまけぇこと考えなければ、オートマ車の運転なんて数時間あればできるようになる。
建設重機と同様に、車の運転を稼働メンバーにも任せていく方針だ。
「馬に言うこと聞かせるより簡単」
「アクセルを、踏んで曲げる……。ブレーキは、荷重移動……」
ただ、一部のメンバーに、ハンドルを握るとヒャッハーする傾向があるような気がしないでもない。
「異世界でもあるんだな。運転に本性がでるってアレ」
「心理学的には、本性とは限らない要因があるそうなんだがなあ」
さて、山岳エリアおよび扇状地エリアは第九層全体に占める割合でいえばせいぜい2割。
残り8割は低地に広がる湖沼群のエリアになる。
第十層へは、川を下った先、断崖絶壁の峡谷内で川ごとゲートをくぐる。
峡谷底の河原を徒歩でも行けるそうだ。
「手漕ぎボートだと、行くのはいいが戻るのが大変だな」
「ある程度の大きさもないと。魔物の襲撃でひっくり返りましたはあかん」
勘案の結果、先行偵察・小回り用に船外機付きのゴムボートと、本隊用に最大幅1.2mくらいの観光用釣り船を調達。
第十層へのゲートまで、威力偵察兼ねた動力航行を敢行だ。
戦闘こそは地に足をつけて行いたいけれど、移動は水上のほうが圧倒的に短距離で早い。
「湖沼群エリア、歩きだけでたどりつくルートあるのかどうか」
「ないだろうね。こんだけ水路入り組んでると」
湿地帯と名付けられただけはある湖沼群は、水が七分に陸三分。
いっそ複雑怪奇に入り組んだ小島や、陸橋的な陸地が点在する巨大湖と考えた方がいいかもしれない。
流れ出る川が峡谷に入っていき、データ通り、その先にゲートがあった。
ゲートををくぐると、すぐ目の前に海の広がる河口部に出現する。
鼻につく、いわゆる潮の臭いに転生三人組以外は顔をしかめた。
「海やねえ」
「これが海ですか?」
最低限の知識はあったジュスティーヌがつぶやくが、アドルフやフィアフといったあたりは「海って何??」状態。
「川の水なんかが最後に流れ込む、超デカイ湖の大親分的な?」
「……それ、あふれないの?」
ヴィオラの疑問も当然のもの。
「その説明をする前に、水の循環を理解する必要がある。少し長くなるぞ」
「じゃあいいわ」
「聞けよ!」
あっちでヨッシーがわかったようなわからないような説明をし、こっちではプリムローズとラッドの夫婦がいちゃついている。
「この臭いは?」
「潮って、まあ、塩やらなにやら、あれこれ混じったモンだわな」
ひとしきり海を眺めたあと、ここでどう狩りをするのかという話題に。
「どないせーっちゅうねん……てか、まじでどないしよ」
「はい、撤収ーッ」
問題は棚上げし、第十層への接続、確認はしましたよで第九層に戻りである。
☆
第九層を暫定経路に沿って威力偵察をすませた。
魔物は階層相応に強くなっている。
だが第九層の真の敵は、ひたすらなその広さにある。
「幅20km、長さ200kmにもなるマップってどうよ」
「そこそこの国なら収まっちゃいそう」
前世でいうなら、スイスとかオランダとか台湾なんかの10分の1くらいの面積。
石川県とか福井県くらいの広さなわけで、中世レベルの統治範囲でいえば十分に国(邦)を名乗れる。
広いと、単に移動に時間を食うだけではない。
魔物との遭遇率も駄々下がりになっている。密度が低いのだ。
「うまいことすれば、戦わずに第十層に進めるかもな」
「俺たちはそれじゃ困るんだけど」
「思考がすっかり蛮族だよぉ」
仕方ないってやつなのだ。
転生三人組の目的はレベル上げ。
そのためには魔物を倒して倒して倒しまくる必要がある。
なのに、様子見の偵察索敵では、1時間あたりに群れの一つ二つは見つかるかという程度。
「群れているだけマシか?」
「群れる魔物って、個々は何とかなる強さですしねえ」
「連携の怖さはあるがな」
群れない魔物は純粋に強い。
文字通り、群れる必要がないと言わんばかりである。いい的だけど。
なお第九層以降は、スカベンジスライム先生の目撃情報がない。
☆
慣れたもので、ユイたち三人の出産も無事にすんだ。
ジュスティーヌとヴィオラも第八層到達の証、【星付き金級】探索者になった。
転生三人組がレベル70台に乗り、クリス以下の男子組が72、マリエル71。
今季で復帰のウィスタリアとジャルマリスが69、プリムローズ66、ジュスティーヌとヴィオラが64と順当にレベルアップ。
通過階層である第八層でのレアもんゲットは30点にのぼり、あるいは運気のビッグウェーブ継続なのか、魔法鞄が2点混じっていた。
容量は1.2倍と3倍。
控え目な性能ではあるが、あるかないかで大違いなのが魔法鞄。
クラン管理で総数10点というのは、実は既存の攻略級クランでも目をむく所有数になる。
オークション出品は武具類6点、アクセサリ類1点、魔道具類8点、スキルオーブ8点出品の計24点。
総額で金貨1250枚。一人頭の分配100枚弱。
個人差はあれど、転生三人組でいえば金貨1000枚以上の残高を持て余している。
そしてまた、個人としてみれば金貨1000枚はとんでもない額だけれど、それこそ後ろ盾のコンステラリス伯爵家レベルなら普通に動く額でもある。
金貨や金板は貯蓄資産なので、いざという時までは退蔵しておくのが今世の感覚だったりもする。
「前世は無くて苦しんで、今世は余って悩まされる。どっちにしても俺の人生はカネに振り回されるのか」
ヨッシー、溜息だった。
・紅茶きめてる車番組でやっていたモデル : イギリスBBC、Top Gear、2003年、トヨタ・ハイラックス




