12-03.真なる探索者
春分祭週の締めくくり、定例のお誕生日おめでとうの会では、ジュスティーヌが天にこぶしを突き上げた。
その胸に抱かれた昨年生まれの子も、なんとなくこぶしを振っている。
「私たちも22歳です。いまが旬、元気にやってきましょー」
「「おー」」
今世での寿命相場、赤子からおおよそ7歳までの間に漸減するとか、長生きする人はとことん長生きするとか、割と極端だ。
それでもざっくりで40過ぎれば老人ゾーン、50越えれば頑張ったと言える。
10代後半から20代前半というのは、まさに人生の旬な時期なのだ。
だからまあ、ショートケーキとチーズケーキとミルフィーユとモンブランを確保して幸せ顔のジュスティーヌも、今が旬なんだと思う。
「ケーキ、食べすぎるとニキビ出ないか?」
「せっかくのハレの日に何てこと言うんですか」
「食事は体を作るための義務、甘味は心を癒すための娯楽!」
「「「そうだそうだー」」」
ラッドの注意喚起に、女子組に交じりヨッシーまで気炎を上げている。
男の精神年齢なんて14歳で止まるというが、女子たちも永遠の17歳って感じのノリである。
大人げない姿は、子どもの前ではそれなりに親を演じている反動もあるのかもしれない。
おめでとうの会は、そのまま方針会議に移行するので、参加は原則メンバーのみ。
子どもと使用人たちは別室で、春祭りの一環としてお食事会を開催。こちらも甘味などで盛り上がっている。
☆
アクヤの街で噂の探索者クラン、『終末の角笛の護り手』。
比較的最近設立された新顔クランだが、次代の攻略クラン候補の筆頭とも言われている。
学院卒という厳しい入団基準への批判非難の声も多いが、であっても希望者が多く、団員が急増中。
人気や士気の高さの秘密の一つは、団員の身を守る、大事にする姿勢にある。
一例をあげれば、団員には必ず魔法の水薬を携帯させ、金銭的な補助もする。
団長のツテで、老舗ブランド工房のポーションを安定的に仕入れることができるらしい。いったい何マリエル工房と取引しているのだろうか。
こないだちょっと値上がりしたけれど、それでも割引価格だ。
ケガ療養のロスタイムを避けることが団員の生活の安定をもたらし、さらに、従来基準からすれば短期間での成長を実現する。
その効果には旧来の攻略クランも着目しているとか。
……どこかで聞いたような、見たような施策だって?
だってマックス君、転生三人組のパーティ運営方針や具体的な施策、学院時代からずっとベンチマークしている。相互に情報なんかの提供関係も続いているし。
定例の会合では、その『終末の角笛の護り手』を率いる『双剣の騎士』マクシミリアン様がしょげていた。
この数年は髪を伸ばしてセバスと同様に後方ひっつめにしていたはずなのに、学院時代のようにバッサリ切りそろえている。
「馬にね、かじられたんだ……」
「Oh……」
そういえば、学院時代もそんな話を聞いたような気がする。
でも、セバスはかじられたことがない。
乙女ゲームなら攻略対象キャラのマックスと、スチルでも見切れ位置なモブ・セバスとの差といえば、髪の情報量の違いだろうか。
「やはり、旨いんだろうか」
「後ろ髪引かれるんじゃない的な馬の忠告かも」
「そんなわきゃねーだろうがよぉ」
ヨッシーとセバスのボケにオルガが突っ込んで、腹黒双子のジョゼフとカールが肩をすくめた。
☆
一部団員の選民主義じみた言動など、人間関係の問題は尽きぬがそれはそれとして。
マックスたちのクラン『終末の角笛の護り手』は、ある種の停滞に陥っているそうだ。
主力パーティ『鋼の咆哮』で第八層に挑み、マックスやオルガの組合タグは【星付き金級】になっている。
「おめでとさんじゃんか」
「力不足を痛感したよ」
純粋な力量、レベル的にまだ背伸びというのは脇に置くとしても。
マックスたちは組織統制に時間を取られダンジョンダイブに専念できないうえに、幹部級の誰かは地上に残しておかないといけない。
最前線への物資運搬など、クラン全体での運営・運用体制の構築も、まだまだだ。
「おめぇらのおかげで道中の日数は減ってるそうだが、それでも第八層は遠いぜ」
「先輩たちが『なにかしらの手段』で時間短縮を図っていることは察していますけどね」
大断崖ショートカットを使えない一般通過探索者にとって、地上から第八層まで片道9日だからね。
腹黒双子の弟のカール君がついといった風情で憎まれ口をたたくが、カールだからなあ、わざとだろう。
各階層の拠点で人の出入りを記録するだけで、クラン『アスタリスク』が『どこを通っていないか』は把握できる。
その区間をショートカットしている客観的証拠だ。
「どうせ組合にはバレてるだろうし教えるのはいいんだが、お前たちには多分できないぞ?」
だいたい、大断崖ショートカットも10年近くやっているのだ。
全ての回で追跡者や観察者をかわせたとは思わない。特に帰りの便は、どうしても警戒ラインが狭くなる。
「え? マジでなんかかっ飛ばしてんのかよ!?」
オルガは目をひん剥てい驚いているが、これは素。
腹黒双子やマックスと違って、オルガは腹芸のできる男ではない。
「……私たちでは、『できない』のか」
「じゃあ、どうしようもないですね。王道のサポートパーティ運用で挑むしかないでしょう」
「幸い、貸し出し武具で第五層レベリングできますから、第六層までは早期に戦力化可能かと」
「まじかよぉ……」
知識は、タダではない。
まして、攻略クランが秘匿している攻略情報・手段ともなれば、その対価はいかほどか。
友人知人・先輩後輩の気安さで、『できない』というヒントを貰えたのだからと、クランの頭脳なマックス&腹黒双子は切り替えた。
☆
クラン連絡会は、探索者組合の音頭による探索者クラン同士の定期的な交流を謳っている。
だがしかし、攻略級クランはじめ代表がそろうことはまずない。
組合からの伝達事項以外だと、代理出席の事務方が毒にも薬にもならないことを報告しあったり、互いのクラン構成員の素行不良をあげつらったり、はたまた身内が言うこと聞かねぇと愚痴りあったり。
言ってしまえば、ガス抜きが主体の会合だ。
クラン『アスタリスク』の代表格は、転生三人組とジュスティーヌの4人。
クラン連絡会や探索者組合などとの付き合いでは、実務的頂点のラッドにプラスで誰かが対応というカタチが基本になる。
今回の連絡会には転生三人組が出席し、司会の何か連絡や報告あるかの問いに挙手で応えた。
「第九層、第八層からのゲートを囲って拠点を作成した。これまで同様、使うのは構わないから紳士的によろしく」
メンバー内でいろいろ考え、話し合った。
他クラン・他パーティの第九層拠点の利用法として考えられるのが、緊急避難だ。
第八層攻略パーティが大けがかなんかで逃げ込み、でも水や食料なんかは限界があるため、「強行して戻る」「ここで助け(アスタリスクとの邂逅)を待つ」で後者を選択。
どっちを選んでも全滅の危険あり、ならば、「死体が残る。弔ってもらえる」後者がマシと判断するのはおかしくない。
そういう場面に遭遇したとして、クラン『アスタリスク』は物資を分けたり、事後的な治癒を施すことはできる。
極限状況で助け合うのは自分たちにとっても保険という、最前線こと第八層攻略パーティの共通認識は尊重できる。
だが、「連れて帰って」は困る。
いわば足手まといを護衛しつつ、延々とダンジョン内を移動なんてしたくない。
面倒を嫌えば、ショートカット体験会になっちゃう。
仮に組合にはバレているとしても、大っぴらになることでタカリや『非常に魅力的なご提案』につながるのは御免こうむりたい。
けど、緊急避難以外でも第八層攻略パーティが水を確保しに第九層に行くことはあり得るので、その時に拠点もバレる。
なら、先に言っておいた方がまだマシだと、連絡会での発表になった。
「何言ってるの?」が参加している者たちの大半。
「え、マジで攻略級なの?」と驚いているのが少々。
物資運搬パーティや最前線組からクラン『アスタリスク』の話を聞いていた攻略クランからは、ぜひ使わせていただきたいとのことだった。
☆
「せっかく第八層まで行けるのに、もったいないじゃないですか」
「それは違う」
第九層に進むことについてもごもごした組合担当職員の汗かきおじさんに、ヨッシーが声を荒げた。
「俺たちは、攻略をするんだ」
「あ、はい」
おじさんの、組合の意図は、第八層レアもんを産出し、組合に、自分に利益をもたらせというもの。
それを理解したうえで、不快の態度を見せることで、おめぇらの都合で動いてんじゃねぇんだよという意思表示である。
ときどき釘を刺してなお、いいように使おうとしてくる。
それが組織の常であり、営利の追求を否定するものではないとしながらも、できるかぎりはワガママを貫きたいのが転生三人組だ。
ダンジョンに生活のために潜るいわば労働者に対して、未知に挑む冒険者、強さの果てを目指す者を、真なる探索者と呼称する。
クラン『アスタリスク』は、真なる探索者なんだよなあと、おじさん嘆息とともに納得。
でも実際には、レベル100達成しないとペナルティなのでやっているだけで、おじさんたちの考えるような真なる探索者などではないのだ。




