12-02.第九層『フェン(湿地帯)』
ダンジョン籠りは夏か冬。それがアクヤの街の探索者界隈の常識だ。
暑さ寒さから逃れてダンジョンへというのがその理由。
それはさておき、運気のビッグウェーブは妖しい泡のようなものだったので、じゃあそろそろ第九層行きましょうかとなった。
熱狂とは冷めれば醒めてしまうものである。
新階層チャレンジ当初のお約束として、今季はあくまでチラ見。
1回のダイブ2週間に1週間休みの3週セットペースを継続する。
「第八層まではショートカットで行けるが、第九層へのゲートまで片道5日」
「行って帰ってで10日使うから、現地活動は最大4日見込みだ」
当然、様子見以上のことはできない。
ユイとオルレアも産休に入るため、稼働メンバー7人は転生三人組にクリス・アドルフ・フィアフの男子組、女子はマリエルのみというお姫様編成。
ただしマリエルは、ゴーレム相手に【発勁】ぶちかましていく系お姫様。
転生三人組とマリエルの四連てっぽう電車道の前には、アイアンゴーレムだってごっちゃんですってなもんである。
☆
第八層のほぼ中央に存在するシャフトに扉があり、その中にゲートがある。
つながる先は第九層の地上、いわゆる豆腐建築めいた四角い小屋。
「……以前も思ったが、まるで本物の空なんだよなあ」
目の前に氷河が横たわる山岳内から見上げる空は、どこまでも抜けるように青く、白い雲がなびいている。
まずは偵察。
ドローンを飛ばして周辺の地形・地勢を把握する。
「高度400mでも天井に至らず」
「実在地形を切り取ってるのか?」
「考えてもムダでしょうねえ」
電波は届くが山岳特有の強風に流されるのでほどほどに切り上げた。
体感も大事と、地勢的に山岳の上斜面方向に。
気持ち酸素が薄いのか、息を荒げながら進むが百mもいかずにどん詰まった。
先の風景は見えているのだが、硬い壁に阻まれ進めない。
「障壁?」
「背景を見せているだけのスクリーン的なもの?」
「考えてもムダだろうなあ」
ダンジョン特有の不可思議現象をそういうものだと飲み込めば、マップの端っこにいると思えば悪くはない。
「百mないなら、このゲート小屋(?)含めて囲えるな」
「後ろの心配しなくていいのは気分的に楽だわな」
吹きすさぶ風に身を震わせながら、拠点設営についても方針が固まる。
なお後背同様に、左右方向も不可視の壁に阻まれた。
実際に歩いて壁に到達したわけではないが、ドローン撮影した地上風景とスケール目安から概算で幅20km程度と見積もった。
☆
データ上で魔物との遭遇率が激減することが予見されたが、実際にその通り。
ざっくりとゲート周辺の掃除をしてしまうと、実に平穏。
警戒は必要なので、立哨と、ひも付きドローンによる上空からの映像視界のペアで対応。
残り5人で拠点の設営に移る。
第八層を最終目的地とする現在の探索者界隈では、第九層に行くのは非常時くらい。
もはや人目もないということで建設重機の出番です。
ラッドの【通信販売】、5000万ポイントでコンマ25のバックホーと燃料油をドラム缶単位で購入。
使用済みのドラム缶には土砂を詰めてヨッシーが収納。簡易陣地の構築なりの際に役に立つことでしょう。
「整備できないから使いつぶしになるんだよなあ」
「そこに使いつぶせる土魔法使いがいるアルよ」
「ストおこすぞこらぁ」
軽いじゃれ合いはともかく、【通信販売】用のポイント残高は20億を超えている。
今季は第八層を通過するだけだが、それでも1回のダイブで往復10日。
第八層のキノコとゴブ銀塊、概算で1日当たり400万から500万くらいの実入りがあるのだから、5000万くらいどうってことはない。ガンガンいこうぜだ。
細かいところだと、防寒対策として水分で発熱するインナーとか裏地にアルミ蒸着されたアウターとか。氷河や残雪の照り返し対策で冬山用のゴーグル/サングラスも全員に支給した。
「着ぶくれモコモコじゃあ戦えないしなあ」
「なんでこんな便利なものを、いつもの供給リストに入れてくれないの!」
ぬくぬくを味わったマリエルが断固たる抗議の声をあげるが、ラッドの返しで沈黙した。
「わりとすぐダメになるんだよ、そのインナー」
「着ることはできますが、あったまりはしないってことで」
公称3シーズンで発熱機能は失われるので、ざっくりでいえば2年で使いつぶす方向になるだろう。アウターは素材もデザインも、人目に晒すにはちょっと、ねえ?
「う、うーん……」
目の前を氷河が流れる山岳地帯。
ヤマの天気は変わりやすいというが、一番の問題は吹きすさぶ風だ。
いつもの堀と土塁にも、風よけのための囲いという意味合いが強くなった。
また、既存のテントなどの簡易設備では寒くて無理ということで、1mほど掘り下げたところに土台石を配して、使い道のなかった家屋を設置。
アクヤの街でクランハウス用の土地買ったときの付属品で、一時的に住んだりもしたけれど、結局はセキュリティ上の理由でクランハウスに集約、ヨッシーの倉庫に収納していたアレ。
半地下だとまだ不安ということで、家屋周りに土砂盛りで入り口と屋根部分残してほぼほぼ埋めてしまう。
どうせ気密はあやしいのだが、一応換気と採光も兼ねて、屋根の上に監視塔な囲い櫓をDIY。
4方向に解放監視窓でめっちゃ寒いのだが、魔物を警戒をしないわけにもいかない。
他の探索者が来てもおかしくはないので、文明の利器は設置できない。当番は足元火鉢で耐えるのみ。
「ダミー兼非常用の水瓶と物資箱積んで、毛布や毛皮、薪も出しといて」
「あいよー」
仕上げに、クラン『アスタリスク』の看板も忘れずに。
「吹雪き中断もあったのに足掛け8日で堀と土塁と半地下埋設山小屋拠点って、すごくない?」
「僕たち、そこらの人足より土木慣れしてるから」
フィアフとアドルフが、どこか黄昏た言葉を交わしているが、探索者が何でも屋なのは今に始まったことではない。
建設重機の威力もある。
土魔法使い一人を使いつぶすよりも、ヨッシーにラッド、そして簡単なレクを受けただけの他のメンバーも交代で重機を動かし続けるほうが、そりゃあ仕事量のハカがいく。
多少曲がろうが深さが違おうが、とりあえず掘って盛る。
それだけできれば十分だ。
「これで、いちいち第八層に戻らなくてもいいな」
「吹雪いちゃうともうダメ撤収だったもんねえ」
寒い寒いと自らの尻尾を抱きしめるフィアフ君。
そのモフモフでぬくぬくを味わえるのは、当人とヴィオラだけだ。
☆
データでわかる第九層は、高山氷河、雪原を経て川下り、湖沼・湿地帯となる。
第十層へのゲートは、川下りの先、断崖絶壁の峡谷内で川ごとゲートをくぐっている。
船でも、峡谷の底の河原を徒歩でも行けるそうだ。
季節の前半で拠点設営を済ませたので、残り半分を威力偵察兼地形把握兼ルーティングにあてる。
まずは氷河から川になる山岳地帯。
氷河・雪原上にはクレバスもあり、無作為にうろつくのは危ない。
川も、流れの激しい峡谷を形成しており、岩場や滝もあるため船下りは無理。
いや、冒険的川下りは可能かもしれないが、そういうアトラクションなりアクティビティなりを楽しめる状況じゃないし。
「というわけで、このへんを均してルート作るのが一番かと」
ドローン空撮による地図をもとに、比較的に平坦で障害物のないところをなぞってあーだこうだ。
「購入するのはいいが、自分は動かし方知らないぞ?」
「ああ、俺ができるから問題ない」
ヨッシーの力強いお言葉を背景に、新たな仲間、ブルドーザ様のエントリーだ。
バックホー様との二台協調体制でもって、ごりごりと岩をのけ窪を埋め、蛇行しながら山岳・峡谷エリアの終わりまで陸路を整えていく。
「移動の足、四輪駆動の本格オフローダーもよろしく」
「周囲への警戒があるから、ピックアップ系でいいか?」
「俺知ってる、紛争地帯でよく見るアレだ」
対空機関砲や対地ロケットなんて持っていないから、紛争地帯でよく見るアレにはならないよ。
あくまで荷台に臨戦態勢のお兄ちゃんお姉ちゃん乗っけて走る程度だよ。
川が峡谷を出るとなだらかな扇状地が広がる。
先には『フェン(湿地帯)』の由来たる、湖沼群エリアがあるはずだ。
☆
第九層での活動を開始したが、実質は移動通過の第八層のほうが倍以上の滞在時間。
しかし転生三人組は69に、クリスたち男子組が71、マリエルが70とあっさりレベルが上がった。
やはり、階層をまたいだ直後はドッカンするのは間違いない。
レベル的には現在のアクヤの街における人類種の最強に到達。
なお、移動通過の第八層だが、魔法鞄が2つ(容量2倍と5倍)に収納の腕輪が3つドロップした。
欲望に駆られているときはスルッスルーに避けられるのに、諦めたとたんに手に入る。
これぞ悪魔の悪戯・物欲センサーのなせる業と言わずしてなんと呼ぶとかうんぬんかんぬん。
「いうて人間、無欲になんてなれやせん」
「出るときゃ出る。そういうもんだと思うしかない」
オークションには武具類8点、アクセサリ類2点、魔道具類7点、スキルオーブ4点を出品。
総額で金貨715枚余となった。




