12-01.二匹目のドジョウの夢
ラッド、ヨッシー、セバスの三人は前世の記憶を持つ転生者である。
仲間と共に、探索者クラン『アスタリスク』を設立。アクヤ・ダンジョン第八層、通称『お宝エリア』まで進出した。
探索者組合も、価値ある組合員を外部の干渉から守るのも組合の役目とか、厄介事は起こさせないに限るとか。組織防衛と利潤確保にいそしんで、結果的にクラン『アスタリスク』を大きく邪魔する事態にはなっていない。
だがしかし、燻っていた不穏の種をつぶしきれるはずもなく、着火・爆発・大噴火。
騒動は一応おさまったものの、内外に、配慮や注意は欠かせない。
レベル100、転生三人組の必達目標は遠い。
☆
さて、時に2週間以上にわたるダンジョン活動のない休養日といっても、何もしないでぐだらっと溶けていられるかというとそうでもない。
家事・育児の分担は別にしても、休日には休日でやることが多いのだ。
転生三人組に関しては、まず、探索者組合への営業もといの顔出しで、担当職員の汗かきおじさんと他愛もない会話。
裏で組合の思惑などとの駆け引きもあるけれど、それも含めて情勢や空気感を知るために欠かせないコミュニケーション・チャンネルと認識している。
日程があえば、クラン連絡会への出席もある。
ぶっちゃけクラン『アスタリスク』的には得るもののない会合だが、公式に他クランと関わるのはこの場くらいなので。
毎季どこかのタイミングで、ファンガス農園詣でにも繰り出す。
現状、【通信販売】用のポイントは十分足りるのだが、農園のおいちゃんとの愚痴の呟き合いもまた愉し。
気持ちの上での公共事業、富貴の義務として仕事を作っておカネを使うために、親方衆との打ち合わせもある。
もちろん、仕事道具たる武器防具のお手入れや発注、消耗品の補充も欠かせない。
「なんだか、おっさんの相手ばかりしてる気がします」
「だから嫁さんたち、自分らのお出掛けに寛容なんだろ?」
「火遊びしてる余裕もないっつーの」
武術や魔術・魔法の修練もある。
身体をなまらせないためというよりも、レベルに追いついていない技量を少しでも補うために。
☆
ダン活で季の半分以上を留守にすることもあるお父さんズにとって、家族サービスは重要だ。
今回の秋分祭週では前半後半にわけて、3歳児以上の部と未満の部でそれぞれに遊び倒された。
昨年度に裏庭を確保したことでお外遊びフィールドが広がり、さらに郊外の牧場にてUMAとも触れ合えるようになり、子どもたちの元気は加速している。
「こうして遊んでいただけるのもあと数年か」
「あっという間に大きくなるからなあ」
牧場からの帰りの馬車内で熟睡モードに落ちた子たちを寝室に運び込み、引率のお父さんズも一息。
「娘が婿を連れてきたら殴る自信あるぞ」
「あるある」
実際には殴られなかったクリスが笑いながら応じる。
クリスの妻のウィスタリアは領主騎士家の娘であったが、政略結婚どうこうという生臭い話もなく、学院で夫を捕まえてきたとクリスは素直に歓迎された。
実態は田舎農家なので、折々に自家製農産物を貰ったり布を送ったりの付き合いが続いている。
「子どもには、それぞれ好きな道に進んでほしいです」
「自分たちは子どもたちを支えるしかできない。そのためにもまず、無事に生き延びないとな」
家族というのは弱みや足かせにもなるが、モチベーションを与えてくれる存在でもある。
ラッドの宣言に、お父さんズは力のこもった目で頷いた。
☆
祭週の終わり、ラッドの執務室に転生三人組だけが集まって1年間の振り返り。
転生発覚から12年目に入っており、各自の手元のカップにはワインが注がれ、年齢相応の夜の飲み会めいた雰囲気も漂っている。
「直近1年でレベル63から66。クリスたちを見てもはっきり鈍化ではあるんだが」
「上がってはいるんだよなあ」
春にクリスが、夏にはアドルフとフィアフがレベル68になった。
時間をかければ70にも届きそうな雰囲気がある。
「近く、第九層に進むべきなんですが」
「それなあ……」
アドルフ・リーリア夫妻の激突も、まだ記憶には新しい。
この夜は、三人でグダグダした。
☆
クランとしての年度方針会議では、圧倒的多数の支持により、少なくとも今季はまだ第八層でやると決した。
というのも、前季で容量15倍の魔法鞄がドロップしたため、各自のやる気がモリモリだったのだ。
「乱数には波がある」
「二匹目のどじょうは、いまーす」
「乗らなくちゃ、この運気のビッグウェーブに!」
転生三人組自身がドリーム再び気分でもある。
『お宝エリア』の第八層、物欲がうずく。
夏季同様の4セットでも、稼働人数的にシフトを勘案すればそこまで負担ではない。
でもって、今年度の公共事業は、いつものクランハウス関連で維持・修復、前庭の手入れ委託とし、馬と箱馬車も増やすこととする。
「俺たち、カネの使い道が思いつかないんだよ……」
「養護院への寄付も、やりすぎはよくないっぽいし……」
豪邸を建て、使用人を並べ、着飾り、食い倒れ……そういう浪費趣味がないからなあ。
騎士爵持ちとして別館風に自分の館を建てたジュスティーヌ含め、メンバーの誰も、いまさらクランハウスを出ようとはしない。
だってクランハウスを出たら、家事やセキュリティ含めた居住環境なんかを、全部自前で揃えないといけないのよ?
「馬は、上流富裕層へのわかりやすいアピールになってます」
「牧場へのお出掛け、増やしてもいいと思うの」
繁殖もコミで持ち馬を4頭に増やし、各自のクラン費も年額金貨8枚に増額。
これにはクラン会計にプール資金を増やしておく意図もある。
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コンステラリス伯爵家案件?
不良在庫を処分できてよかったねってなもんで、オークション結果ともども各自に金貨をごっそり分配して終了。
……まだあるしね、不良在庫。
自分たち用に取り置いてはいるが、扱いに困るブツもある。
例えば【短距離転移】のスキルオーブ。
ウィスタリアが会得候補の筆頭なのだが、踏ん切れずにずっと留保中。
わかっていることとして、魂的な意味での容量というか枠というか、加護およびスキルオーブでのポン付けスキルが確保する大きさ、領域、そう言ったものがあるらしい。
さらにゲーマー脳として、いわゆるグレード、レアリティが高いほど容量を食うんじゃないかとも想像できる。
それこそ転生三人組に与えられた加護は、容量を目一杯使い切っている可能性が高い。
「ま、このまま抱え落ちで『なかったこと』にしてもいいんじゃない?」
「子どもたちへのプレゼントって考えでもいいと思う」
それに、メンバーはそれぞれの加護スキルや習得技能を磨いている。
ただでさえ技量不足に悩んでいるのに、いまさら新スキルをポン付けして習熟するのも厳しいのだ。
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当事者が沈黙を守っても、秘密はどこかからか漏れるもの。
『コンステラリス伯爵家がスキルオーブを入手 → ダンジョン産 → 後援している探索者クラン『アスタリスク』 → 活動調査』といった連想ゲームで、事実にたどりつく者もいる。
結果は、増える不審者となって現実に投影される。
監視カメラの映像をプリントアウトし、ジュスティーヌ画伯の手により衛視隊にお渡しする似顔絵をせっせと作成。
「これまでにも、結構な数を捕縛しているという話なんですけど」
「『浜の真砂は尽きるとも』ってな。世に悪人が尽きることはないのさ」
なお、機械文明の産物たる監視カメラは魔法的探査に引っかからず、認識に作用する魔法的隠蔽もスルーして光学的に記録するというカラクリで、裏社会のプロも頭を抱える警戒網となっている。
アクヤの街の衛視隊の評価もうなぎ上りとかなんとか。
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秋季は、予定通り2週ダイブを4セットこなした。
転生三人組はレベル67になり、クリス・アドルフ・フィアフも69に。
一時復帰中のユイとオルレアがレベル66、追い上げ中のマリエルが64になった。
ヨッシーの【個人倉庫】、レベル67で追加コマンド『在庫表共有』。
これにより、『倉庫番』に指定されているラッドとセバスにも『在庫表』が共有される。
「溜め込んでるなあ」
「出すに出せないブツも多いからな」
トレント材とか鋼鉄塊とか、どうやって持ち帰ったかが問題になるようなものに、スキルオーブ等のそこらに置いとけないブツとかも。
オークションには武具類17点、魔道具類7点、スキルオーブ3点を出品し、手取り総額で金貨635枚。
「容量1.5倍の魔法鞄か……」
「ケタが、へっちゃったね」
「出ただけマシってのはわかるんだが」
はたして運気のビッグウェーブとやらは実在したのだろうか?
ひとつだけはっきりしているのは、ドリームを実現させるには自ら動かなくてはならないという事実だけである。
「浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ」
大泥棒・石川五右衛門の辞世として伝わる歌の一節。




