11-12.ご依頼品(不良在庫処分)
春季も終盤、ジュスティーヌにお手紙が届いた。
クランの後ろ盾として名義を借りているコンステラリス伯爵家からで、内容は『依頼』となる。
なんでも当代様のお孫さん、【祝福の儀】を前にナーバス気味だそうで。
望まない加護を得てしまった場合に備え、剣術系のスキルオーブを探してほしいとのこと。
「子を持つ親として、わからなくはないんだが」
「大貴族ならではのスケールだな」
これが命令であったなら、転生三人組のキック力が試されただろう。
名義に対し年間金貨50枚の支払い。それだけの関係なので、命令なんぞ聞く気はない。
しかし、あくまでも探索依頼。
実質的な拒否権はないに等しいとはいえ、一定のご配慮は示されているともとれる。
「ていうか、ブツ自体はあるんだよな。アレも【剣術】ではあるし」
「え、あ、まあ、私たちでは使わないですね」
スキルオーブに限らないが、判断保留品や影響の大きさを勘案して押さえたママのブツがある。
「扱いに困ってたわけだし、『こんなん出ました~』ってご報告すれば?」
「えー、変な期待や『依頼』が増えても困りますよぉ」
【六代目剣聖流大剣術】のスキルオーブ。レアリティとしてはレジェンドレア級かなあ。知らんけど。
「この際、【聖騎士流剣術】も処分してしまうのは?」
「自分としてはアリよりのアリ」
こっちはアルティメットレア級かなあ。知らんけど。
メンバーの多くもお世話になった学院の武術師範の一人、ゴードック師範が有する加護スキルだ。
アクヤの街中で同名の剣術道場も開いており、ツテコネ的な意味での門下生も多い。
【六代目剣聖流大剣術】と【聖騎士流剣術】。
メンバー内で剣を主武器にするのはアドルフ、大剣を用いるのがジュスティーヌで、両者が『要らない』と判断したブツである。
いや、レアリティは凄いし、価値もあるのよ。
ただ、いまさら同系統のスキルをポン付けしてもねえ。
☆
コンステラリス伯爵家からのご依頼ブツのカバーストーリー的には、第八層に行っとくべきである。
2連ショートカットのおかげで第八層までは割と気軽に行ける。
この先、再び距離の壁、時間の壁が立ちはだかるだろうが、それは今ではない。
マリエルはまだレベル52と若干の不安はあるが、転生三人組が第八層に挑んだレベルは53。
なんとかなるだろうと、第八層を主戦場にすることを決定した。
出産ラッシュが落着き、夏はダンジョン籠りの季節ということで、2週潜って1週休みの4セットを軸に調整。
ユイ、オルレアが復帰し9人体制と、人数余裕があるので個々人で出撃調整もできる。
☆
「私はね、剣術系のスキルオーブを手に入れて欲しいと言ったんだ」
現在の王都から微妙な距離にあるコンステラリス伯爵領、その本城、政務館にて初老の男性がハリのある声を震わせた。
「とはいえダンジョンのドロップなど所詮は運。
ダメだった場合でも責めはすまいと決めていたんだ。
それでもまあ、ちょっとは期待もしていた。
【剣術】か【大剣術】手に入らないかな、ひねって【細剣術】か【双剣術】あたりでもまあ仕方ないかな、と。
それが【六代目剣聖流大剣術】なんてパーフェクトじゃないか!
こんなもの使ったら私の孫はグレートじゃないか。レジェンドになってしまうかもしれないではないか!」
「ご当主様、お言葉が少々乱れております」
ふぅーふぅーと擬音語を並べ立てたいくらいに荒い息づかいを経て、伯爵様は立ち直られた。
取り乱していいのは身内の前、それも短時間のみ。
高い自制心なくして歴史と伝統ある伯爵家を率いていくことなどできはしまい。
改めてジュスティーヌからのお手紙に目を落とす。
どうあっても現実ですと、【六代目剣聖流大剣術】の文言が目に飛び込んでくる。
「誰がっ、こんなっ、ものをっ……」
超レアである。
素でウソやろと呟いたくらいの激レアである。
「さりとて、よそに流されるわけにもいかない品でございます」
「数十年、【剣聖】位は空いておりますからなあ」
執事や侍従が実務的な心配を開始する。
ぶっちゃけた話、もはや孫にどうこうではなく政治のカードだ。
「うかつに話を漏らす真似はしないと信じたいですな」
「受け取りと運搬に当家の精鋭を遣わさないと……」
「わかっておる」
クランの連中に届けさせるのが筋かもしれないが、果たして道中の安全を、ブツの確実な運搬を行えるだろうか。
箔付けのために遠縁を頼ってきた、総員十数名程度の弱小クランなのだ。
数は力なので、伯爵様たちの理解がおかしいわけではない。
同格や、ちょっと程度の格上相手なら、囲んで殴れが有効だ。
だけど、レベル差がありすぎると、理不尽の域に入る。
仮に第六層での因縁から、クラン『終末の角笛の護り手』と全面抗争になっていたら、マックスたち主力メンバー以外ではアドルフ君単騎を止められるかどうか。
打たれ強く、継戦能力に優れた戦術兵器、怖いですね。
なんで例示が三人組じゃないのかって?
あいつらが真正面からなんてまともな戦争するわけないじゃない。
閑話休題。
伯爵家では慎重な検討の結果、ブツの受け取りに先代に御出座し願うことにした。
精鋭の護衛を多数配置しても言い訳の立つ人材で、使者としての格でもこれ以上はないと言い切れる。
なにより、孫娘であるジュスティーヌとひ孫に会うためという、カバーストーリーが成立する。
☆
ところでこのクラスの品になると相場なんてあってないようなものだけど、一応の目安は金貨1000枚。
で、仮にも王国の重鎮たる歴史ある伯爵家、大貴族様が、その程度でいいんですかという。
これまた実用的な意味での見栄の絡む問題だ。
あそこの家はケチだとか噂されたら憤死しちゃうもんね。
「かねて、たかだか十数名のクランから毎年金貨50枚は取りすぎたと。一応はお身内でもあられますし」
誠意とは言葉ではなく金額とは、けだし名言であろう。
伯爵様、金貨2000枚をもって報償とするとした。
探索者組合を通さない独立取引のできるクランなので『買取』でも問題はないのだが、そこはそれ。
探索依頼であって、スキルオーブそのものの買い値ではなく、依頼パッケージに対する報償という建前。
言葉遊びに見えても、政治的には大事なことなので。
なおこれらの手配を慎重に、秘密を知る者を限定しながら準備していたところにジュスティーヌ続報が届いた。
「なにが『【聖騎士流剣術】も手にはいっちゃいました』だ!」
伯爵様、再びのご乱心。
「失礼……『これもコンステラリス伯爵家が女神さまに愛されている証でしょうか』で、ございますか」
「重いわ、重すぎる!アルティメットに重い!
こんな愛なんて要らない!! ……って言いたい」
……聞かなかったことに、してあげましょう。
取り乱す伯爵様を前にしても、執事長は冷静であった。
そうでなくては歴史と伝統ある伯爵家で執事長など務まらないのだ。
☆
アクヤの街を訪れた先代伯爵は、ダンジョン潜り中のメンバーの帰りは待たなかった。
街の代官への儀礼的な表敬と、表向きの理由である孫娘とひ孫との邂逅を楽しむ。
あくまでも寄り道的に、縁者のもとに立ち寄ったというストーリーである。
スキルオーブ【六代目剣聖流大剣術】と【聖騎士流剣術】って、そういう欺瞞工作が必要なくらいのブツみたいですね。
報償として金貨2000枚と1200枚を提示されたジュスティーヌは、貰いすぎだよねと事前相談済みの剣(SR級)と大剣(SSR級)をおまけしようとしたが、なぜか渋る。
「おじい様とお孫様……ひ孫様?への贈り物ということでどうでしょう」
「そういうことであれば、まあよいかのう」
ご婦人方へのお土産としても、アクセサリ型の魔道具セットを渡した。
さすがに同一品で揃えられるだけの在庫はないが、6属性それぞれに魔力の蓄積具か護符。
こっちは役に立つかどうかよりも、『貴重な品』で『気を使っています』よのポーズである。
ただし、目下の者からの献上品なども、実際にはタダで貰うわけにはいかないのが大貴族。
おじい様付きの執事さんがあれこれ勘案し、引き攣った笑顔で報酬に上乗せする。
護衛の騎士さんたちも、何か物欲しそうにしていたので在庫の槍などお持ちした。
「本当にいいのだな!」
「私たちには、槍の使い手がおらず……」
「なんと! 我々のために用意していたというのか」
そういうことになった。
SSR級の槍4本、SR級のポールウェポンも4本処分に成功。
もろもろ合わせて総額で金貨4000枚の臨時収入となった。
各騎士の負担分もあるが、伯爵家にとっても笑って済ませられる出費ではない。
☆
王国の貴族社会に、ひそかに劇物が持ち込まれた夏季。
三人組はレベル66に。アドルフ、フィアフが68になり、クリスと並んだ。
復帰のユイ、オルレアが63、マリエルも61と60台に乗った。
コンステラリス伯爵がらみの臨時収入やオークション収入もあるが、そんなことは些事である。
今季、何よりもクランのメンバーが湧いたのが魔法鞄のドロップ。
なんと容量15倍!
こいつぁ凄いですよ!




