11-11.産勤交代
「わたし、復帰!」
冬至祭週を経て、冬季の方針会議はマリエルの第一声で幕を開けた。
マリエルは復帰し、ウィスタリアとジャルマリス、そしてプリムローズが産休に入る。
産休と一時復帰の入れ替え、産勤交代だ。
ポーション工房を継いで素直に引退と思われたマリエルだが、諸般の事情ゆえ復帰。
「第八層のレアもんの権利、子どもたちに残してあげたい」
「わかる!」
産休に入るプリムローズがしきりに頷いている。
プリムローズも権利確保のため、ラッドのお嫁さんに就任後は完全引退の予定を捻じ曲げて、夏秋の半年間だけ復帰した経緯がある。
ただ、休憩時にはラッドにへばりついていたから、そういう理由もあったのかもしれないけれど。
マリエルの場合、家業のポーション製作のため、無属性魔力を補強する品々を求めている。
現時点でも、希少性や市場価値より、無属性限定な魔力の蓄積具・弱(指輪型)のような品を権利として押さえている。
☆
子どもの魔力適性そのものは運任せだが、父親であるセバスのなでなで判定の結果は、マリエルの産んだ3人の子たち全員、現時点では無属性魔力『も』持っている。
なおユイの子とジュスティーヌの子も母親同様の光属性魔力『も』持っているので、彼女たちの寝起きの錬気術鍛錬が胎教的に効いているのかもしれない。
「秘匿秘伝の技にするしかないわよねぇ」
「確証も、明らかにするメリットもないですしねえ」
ただし、仮にこのまま成長したとしても、望んだ属性魔力を扱えるかどうかは不明。
ヨッシーを例に挙げれば、闇属性マシマシ・無属性『も』ある判定だが、かろうじてでも扱えるのは無属性魔力のみ。
さらに、適性があっても、魔力を認識し体外に出せなければ、いわゆる魔術士にはなれない。
まして【ポーション製作】のスキルに開眼するかどうかもわからない。
世間一般の魔術士は、加護で強制的に開眼するというケースが大半を占めるのだが、いかなる基準で技能が与えられているのかは、それこそ神のみぞ知る。
代々魔術士の家に生まれたのに【魔術士】を授かれなかったので追い出されました。代々剣士の家に以下省略。
そういった追放テーマの戯曲や教訓話が何本もあるのだから、わりと普遍的な話なのかもしれない。
話によって経緯や結末がさまざまなのも、ネタ元や作家の試行錯誤や逆張り思考の積み重ねと思えば興味をそそられるところではある。
「血統説が主流だけど、環境によるのかもしれないしねえ」
「魔術士の子は魔術士になりやすい論ですね」
家系的な資質(血統)や個々人の意識が、加護選択に影響しているようだと考えられている説。
周囲の日常的な『当たり前』で、意識の持ちよう自体が変わるからね。
問題はその影響の程度。
検証しようもない秘伝の継承ノウハウとやらが信仰やオカルトになっていたり。
もっとも、そんなの気にするのは研究者か名のある家々であって、庶民以下には関係のない話ではある。
「幸せであってくれればいいんだよ」
「それな」
転生三人組はそれぞれに従士家を興したことになっているが、名目上は王の臣だし、誰かに仕えているわけでもない。しょせんは一代爵である。
子供世代は平民に戻るし、そもそも自分たちが貴族社会にほぼ無縁。
探索者を継いでほしいとも思っていない。
ただし、暴力の裏付け必須な社会において、庶民でも合法的に力を蓄えられる手段であるとも思っている。
まあ、職業選択の自由のほぼない社会。
子は親の仕事を引き継ぐのが一般的ではある。
☆
さて、復帰とは言ってもマリエルのレベルは34。
第六層を最後に子育てモードに入り、探索者的な鉄火場とは5年近くご無沙汰だ。
「日常的な意味での鉄火場なら」
「子育てありがとうございます!」
「……よろしい」
母は強しと人の言う。
5年もブランクがあると実際どうなのか。
産休で稼働メンバーが減り、転生三人組以外の男子は出撃抑制中だしで、無理せず確認と慣らしもかねて第六層をメインの4セット。2週行って1週休みのペースで実行。
クラン『アスタリスク』の第六層の狩りは、他のクランやパーティとは異なる。
【魔力感知改】に反応して襲ってくる魔物を、拠点や防御陣地からの迎撃戦か、移動しないトレントなどを遠距離攻撃の的にするというスタイルだ。
ゲート間幹線は伐根が進み、攻略系クランの物資運搬の荷車もゴロゴロ。
荷物を背負って獣道を運んでいたころとは、だいぶ様変わりしている。
拠点小屋でくつろいでいたらオラついた連中に絡まれたが、後ろからオルガが蹴とばして頭を下げたことで事なきとした。
「俺らが使わせていただいているこの拠点や道の製作者様たちだぞ、あほんだらがぁ!」
「え、ええ!?」
「オルガの兄さん、ジョーダンっすよね?」
今、アクヤの街で飛ぶ鳥を落とす勢いで最も有名な探索者クラン、『終末の角笛の護り手』様である。
クラン内でも上位陣の第六層パーティだ。
見知らぬ連中を、つまり第六層の新顔と判断して威張る程度にベテラン気取りだったのだろう。
ダンジョン内で格上に絡むのは馴染みの酒場でクダを巻くのとはワケが違うのだが、格上に見えないのがクラン『アスタリスク』の面々。
総数の上では女性探索者も珍しいものではないとはいえ、高レベル帯になると話は変わる。
第六層を女連れで転がしてるとか、バカパーティに見えたのだろう。
女連れで問題なく第六層を転がせる連中だと、気づかない方がバカなわけだが。
もっと言えば、第六層で霊格酔いを起こさない女がどういうレベルなのか、だ。
クラン『終末の角笛の護り手』では、団員採用に学院卒の条件は継続している。
しかし、数年程度の教育で仕込める限界と言ってしまえばそれまでだし、年数をかけても知恵はさほど育たないとも言えるし。まして人間性など。
「本当にすまん! あいつらは後でシメとくからよ」
「あいあい」
「ふぅん……ま、いいけど?」
人が増えるということは、その分苦労も増えるということ。
マックスたちとの定期交流でアッチの事情も知るだけに、転生三人組には事を荒立てる気はない。転生三人組には。
☆
後日、クランの頭であるマックス自身が頭を下げに『アスタリスク』のクランハウスを訪れた。
「別に、済んだ話だろうに」
「こうしてトップが詫びを入れたというカタチが大事なのさ」
というか、それくらいしないと収まらないのが普通でもある。
『舐められたら殺せ』は、探索者界隈ではわりかし普遍的な掟だ。
外見的には一触即発のクラン抗争まったなしでもおかしくない状況だったからね。
トップ同士が平和・友好的なので不発で済んだが、因縁を吹っ掛けた側になるクラン『終末の角笛の護り手』構成員の中には、なんでウチの大将が頭下げなきゃなんねぇんだと思っている連中もいる。
道理より優先されるもの、それが暴力。
まさしく、力こそが正義なのだ。
ただし、どういうわけかクラン『終末の角笛の護り手』への各種ポーションの仕切値が改定値上げされていたり、抗争勃発時には出荷が完全に止まったりする……かもしれない。
誰にケンカを売ったのか。マックスやオルガが真っ青になるわけだ。
平和な話題としては、魔法鞄の実績作りもかねて、毎回トレント材を持ち帰ったら受付嬢が喜んでいた。
相変わらず大量のバックオーダーを抱えているんだろう。
マリエルはレベル38と、1回出撃で1レベルアップ換算。
さすがにマリエル以外は変化なし。
☆
春分祭週の締めくくり、定例のお誕生日おめでとうの会では、ジュスティーヌが天にこぶしを突き上げた。
「この年度で私たちも21歳です。いつものように元気にやってきましょー」
「「おー」」
この春は、なんと5人の出産が重なるラッシュになる。
「……まあ、休みの都合とか、あるからね」
「……ああ、いろいろ、あったね」
ジュスティーヌ、ヴィオラ、ウィスタリアにジャルマリス、そしてプリムローズ。
みな初産ではないので、そういう点では安心だが、長々とダンジョン籠りをしている余裕はない。
第七層に2週アタックを3回予定した。
☆
第六層と同様に、第七層も地上部分は拠点や防御陣地からの迎撃戦がメイン。
洞窟部分も自分たちで詳細なマップを作っており、個々の魔物への対策もある、勝手知ったる狩場だ。
「第七層にタッチするだけで往復1週間がかりとか、長いお留守になるわけだねえ」
「第七層内でも、以前は片道6日だぞ?」
「地上3日、洞窟3日だったな」
マリエルはうへぇと口を曲げた。
ダンジョンの深層に挑むとはそういうことだと、自分で歩いたことで理解と納得が深まる。
「美味しい餌のある第八層で足が止まるわけよねえ」
「自分たちはそうもいかないんだがな」
まだ第八層でもレベルがあがるので、焦りはしない。
しかし、いずれ第九層、そして第十層を目指さないといけないだろう。
☆
偉大なる治癒術士ユイ様がどんと控える中、5人ともあぶなげなく出産し、母子ともに健康。
春季の終わり時点で、クリスのレベルが68に上がった。
マリエルの52も、階層をまたいだ直後はドカンと来るのがわかっていたので予想の範囲内。
冬季と春季では、調整留保からオークションに武具類18点、スキルオーブ2点を出品。
グレード気持ち高めのため、総額で金貨660枚となった。




