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道連れ転生  作者: 凡鳥工房
11章.欲望ドライブ編

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11-09.普通の女の子



 アドルフ・リーリア夫妻間の修羅場は、二人を物理的に隔離する事態に発展、クランとして介入せざるを得なくなった。


 アドルフにはラッドとウィスタリアが、リーリアにはジュスティーヌとヨッシーがそれぞれ事情聴取を行う。

 人選はくじ引きだ。


「これまでもたくさん話してきたんだけど、何言っても聞かないし、わかってくれないんだ」

「リーリア嬢は、とにかく探索者を辞めてほしいと?」

「休みが休みにならない、気疲れするだけだったでありますか……」


 ただし、アドルフが探索者を辞めた後どうするのか、リーリアにヴィジョンはない。

 とりあえずの貯えはあるんでしょう?で止まっている。


 時は同じく場所を変えて。


「私も子どももほったらかしにして、大ケガして、まだ続けるって、私はいったいアドの何なの。妻じゃないの」

「確かに、一度潜れば数週間ですからねえ」

「ないがしろにしてるつもりはないと思うが……」


 客観的な行動として観測できない『つもり』など、口先だけのその場しのぎと滅多切り。

 リーリアは、自分の望みと乖離した実態に不満があるのだ。



   ☆



 当事者抜きで、双方からの聞き取りを整理してみる。


 現状を続けてもリーリアの不満は収まらず、アドルフも疲弊するばかり。いずれ破局する。


「根っこは感情のこじれだよな?」

「どっちかが一方的に譲るってもんでもないしねえ」


 アドルフ自身が悩みを抱え、先への見通し、腰が定まっていなかったことも影響していると、誰よりもアドルフの近くにいたフィアフが言う。

 なんせ、一家のあるじであるアドルフが、家庭内強権を振るうことを許容する社会ではある。


「僕たちは、成長が早すぎるから」


 アドルフは弱冠19歳。

 探索者登録から10年経たず、学院卒からもわずか数年で、探索者のトップ層に到達してしまった。


 レベルは上がった。だが、技量が、心がついて行っていないとは、メンバー全員が感じていることでもある。


 アドルフは転生三人組の後輩第一陣として、いわば後輩組の手本という責任感もあり、思い悩むことも多かったようだ。


 もっとゆったりしたペースであったなら、リーリアもアドルフも、すれ違いやわだかまりを時間の中で消化していけたのかもしれない。


 だが、転生三人組には急ぐ理由があり、ついてこれないメンバーは諦めるとも割り切っている。

 決別に至るまでの間にできる妥協はするけれど、一線はある。



   ☆



 アドルフにフォーカスしがちな男子組に対し、女子組はリーリアにフォーカスした。


「長く会えない不満も、心配なのもわかるんですけどね」

「でも、そういうものじゃない」


 プリムローズは探索者として一緒にダンジョンに潜っていた経験があるので、ダン活方針もそういうものだと受け止めている。

 納得はともかく、理解はできる。もっと私に構えオーラは放つけど。


「リーリアもあっちの母さんも、私たちといまいち話も合わないからねえ」

「むしろわたくしたちが、気をつかっているのでありますが」


 互いに歩み寄らなかったわけではない。

 だが、ユイの一言に集約されてしまう。


「普通の女の子に探索者、それも攻略級のお嫁さんは辛かったんだろうね」



   ☆



 集合面談には当事者たるアドルフとリーリアのほか、重要参考人としてリーリアの母も参加させる。

 言い方は悪いけど、リーリアの背後に実母ありというのが女子組の総意だ。


 クラン側はラッドたち4人が対面。メンバーは両側面に少し離れて傍聴の体勢。


「まず、クランとして二人の意思を尊重する」


 ラッドが口火を切り、クラン発起人として名を連ねているヨッシー、セバス、そしてジュスティーヌが補足する。


「具体的には、アドルフが探索者を続けるも引退するも、クラン脱退も活動休止も、好きに決めてくれってことだ」

「リーリア嬢とその母君も同様です。クランの使用人を続けるも辞めるも、その意思を尊重します」


 かの天下人・織田信長公もなされていた痴話げんかの仲裁とはいえ、相談や愚痴を聞くくらいはともかく、家庭内問題に命令や指導は違くねというのが転生三人組の感覚。

 ここは探索者のクラン。決断は自分たちでしろと突き放した態度でもある。


「私が言っても説得力がないですが、家族は大事にとだけ」


 しかし、フリーハンドを渡されても困ってしまうのがアドルフとリーリア&リーリア・マッマ。

 そもそも、互いの意見の違い、溝そのものは埋まっていない。


「で、ぶっちゃけ、妥協点ってある?」

「そう言われても、俺まだ引退する気ないですってば……」

「どうしてわかってくれないの!」


 リーリア嬢、ちょおっと発火しやすい状態になっているかな。


「いやさあ、俺たちも反省してるのよ。無理に毎回出撃しなくてもええのにって」

「え、そうなんですか?」


 それこそ出産立ち合いや生理休暇のように、各自の事情で休みは当たり前。

 そのための多人数編成だし、季節毎の予定計画だしと説明されて、リーリアはまた怒った。


「聞いてないよアド君!」

「言ってるだろ!? 何回も何回も」


 ちなみにリーリア嬢、探索者経験がないので聞き流し、理解できていませんでした。

 アドルフ君が、リーリアに理解できる説明ができなかった、とも言えます。


 転生三人組はじめメンバーたちは、目の前で繰り広げられる理屈と感情のぶつけ合いを見守るにとどめる。

 爆発するならするで、徹底的に発散させてしまうつもりもある。


「あの、よろしいでしょうか」


 二人に口論するエネルギーが続かなくなってきたあたりで、リーリアの母がおずおずと手を挙げた。


「使用人を辞めても、こちらに住めるので?」

「アドルフがクラン員であり、そのご家族である限りは。子どもたちと同じですね」


 使用人を辞め離縁もしたなら、クランに関係のない人。


「いや、俺は離縁までは……」

「アド君が探索者を辞めた場合は?」


 いくつかの質疑応答のあと、母君はクランの恩恵にあずかれなくなることを理由に渋るリーリアを強く説得。

 このクラン・コミュニティに居られるのは、アドルフ次第なのだと。


「粉ミルクも肌着も、クランを抜けたら手に入らなくなるしなあ」

「ええ!?」


 アドルフの呟きで事態は急展開した。


 クランの恩恵の威力を具体例で理解したリーリアは、夫アドルフを生贄に差し出すことに躊躇がなかった。



   ☆



 夏至祭週に元親方のマルクに挨拶したところ、同行のアドルフの背中がすすけていることに説明を求められ、事の顛末を報告。

 元親方のマルクは、一言「そうか」と呟いたあと、深々と頭を下げた。


「よしてください、親方」

「ウチの仕切りから、おまえ様方に迷惑をかけたことは詫びなあかん」


 マルク工房コミュニティは、嫁と義母に売り飛ばされたアドルフの出身地でもある。

 元親方にとって家庭の問題とは、あるじたる男の問題。アドルフの未熟さ故という認識だ。


 かつてマルク工房コミュニティに属していた地元の英雄、一代従士爵のラッド様によって開かれた学院への道は、参加する職人コミュニティも増え、現在も続いている。


 中には卒院後、巷で話題の新進気鋭のクラン、『終末の角笛の護り手ガーディアン・オブ・ザ・ギャルホーン』に所属した者もいる。

 その引き合いで次の年次も内定など、未来への期待がある。


 実に10年、マルクはコミュニティの子どもたちに新しい道を示す名誉と責任を担ってきた。


 ヨッシーやセバスが初めて会ったときには残っていた髪も抜け落ち、頭頂部には栄光が宿っている。



   ☆



 アドルフ・リーリア夫婦には悪いが、貴重な事例なのでマックスたちとの定期会でも話題にあげた。


「当面、嫁とりの余裕はないけれど、私たちも考えさせられるね」

「結婚つうのも面倒だなあ、こりゃ」


 マックスたちのクラン『終末の角笛の護り手』は、拡大したメンバーの管理・統制に手間暇を取られているそうだ。

 まだ独り者のマックスやオルガは渋い顔で首を振る。


 妻帯者のベンジャミン兄さんは他人事ではないのか、身を乗り出す勢いで聞いていた。


「アドルフは、その、元気なのか?」

「まだすすけてるから、街で見かけたらよろしく?」


 ベン兄さんは奥様から、長い留守も困るけど、毎日だらけられても冷めると言われたそうだ。


「容赦ないですね」


 腹黒のジョゼフが身震いするくらい、夫婦仲というものは時にドライである。

 特に、妻としてより子を持つ母としての立場に比重が移り、夫への関心・執着が薄れると、スーパーなドライにもなる。


「かといって組合への就職もなあ。もう働かなくても食っていけるんだよ、俺」


 いざ引退、楽隠居できるとなっても、どうすればいいのかわからない。

 だらだらと、ファーム育成監督やっている。それがベン兄さんであった。



   ☆



 夏季は、春季と同じく2週ダイブして2週休みを3セット実行。


 ただし、アドルフほか1回休みのメンバー多めで、思うところがあったのかプリムローズが一時的に復帰している。


 転生三人組のレベルは63に。ほかの男子組が66でそろい。

 ジャルマリスとウィスタリアが65、プリムローズが58となっている。


 オークションには【槍術】のスキルオーブ含む20点を出品。合計で金貨295枚になった。




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