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霊能物語  作者: 野沙朝臣
鬼たち
79/80

未来 語り手:蛇崎白

 親殺しが重罪だった時代に、私は生まれていない。さらに言えば、蛇崎家という特殊な家の中に限れば、昔から親殺しは重罪ではなかった。むしろ奨励されていたと言って、齟齬はないように思う。

 「白さんは、蛇崎家当主でしたか?」

 鷹清くんが私にそう尋ねたのは、飛行機の中だった。兵庫県に向かって飛ぶ飛行機の中――密室の中。はっきりと分かる作り笑いを浮かべた顔は、詐欺師たちとは別種の底知れなさを感じさせる。

 「そうね。公表した記憶も、あなたに伝えた記憶もないけれど、その認識は間違ってないわ」

 飛行機が飛び立ってからしばらく、鷹清くんは窓の外を見ていた。車の中での彼いわく、飛行機に乗るのは初めてらしい。初めて飛行機に乗るときの感動は計り知れない部分があると、私は思っている。それまでは――良かった。そこそこ上手くいっているように思えた。私達は絡みこそないけれど、悪い縁があるわけでもない。少なくとも最弱チーム程は。

 なのに、そんな事を聞かれたら――。

 「どうして、そんな事を聞くのかしら?」

 鷹清くんは作り笑いを貼り付けたまま、「いえ」と言った。

 「石谷空音ですらないあなたに、鬼を倒せるのかと思っただけです」

 「毒を吐かれたと捉えてもよろしくて?それとも――」

 それとも、未来視の結果、私は負けるのだろうか。だとしたら、結局は瑠衣さん頼み(他力本願)。美しさも、品性も、気高さもない。

 「不安がる必要はないですよ。先代にしたように、僕を取り込めば未来視は引き継げるのでしょう?」

 「……」

 死ぬことに、抵抗はないのだろうか。私は、すごく怖いし絶対に死にたくないとすら思っている。

 「死ぬことが怖くなくて?」

 私がそう聞くと、鷹清くんの顔からは笑みが消えた。自身が袖を通しているジャケットに、視線が落ちる。

 「生まれた時からわかりきっているその時を、怖がる必要があるでしょうか。少なくとも、今まで僕は未来を変えれていないので」

 ――その時が来たら。

 「白さんが、僕を食べてください。美味しい自信はあるんですよ。ほら、鍛えてるし」

 そう言って彼が捲ったジャケットの袖の下からは、服の上からではわからない彼の細マッチョな腕があらわになった。

 「悪いけど、仲間を食べるつもりはないわ」

 私は左手に持った扇子を顔の前で広げる。

 「死霊操術士にでも頼むことね。協力くらいはしてあげてもよくってよ」

 「はは……」

 仲間に情がないわけじゃない。移りすぎていると言っても過言ではないほどだ。仲間には死んでほしくないし、仲間を食べたくもない。その時が訪れないことを毎日のように祈っている。

 ガガッ……

 スピーカーが噪音を発てた。

 『これより、着陸体勢に入ります。お客様はシートベルトを緩み、捻じれのないようにきつく締めて、座席からお立ちにならないようにお願いします』

 スピーカーから流れたアナウンスのあとに話す気にはなれなくて、私達は互いに黙りあった。しばらくの沈黙ののち、私はほぼ独り言のような声の大きさで鷹清くんに聞いた。

 「……誰も、死なないよね?」

 「さあ、どうでしょう?」

 能力の制約か、彼の信条か。鷹清くんは、めったに未来の話をしない。この世で誰よりも全知に近いはずの彼だからこそ、見える景色があるのだろう。それがいいことなのか、悪いことなのかは知らない。

 19歳になっても未だに高校生をやっている――なお、留学などをしていたわけではない――身としては、立たなきゃ見えない景色があることを知っているからこそ、教えてほしいものだが。

 「絶対に、僕が死なせませんから」

 非戦闘員である彼が、なぜ死ぬのかを。

 霊能物語本編第七章「鬼たち」第七節「未来」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!

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