未来 語り手:蛇崎白
親殺しが重罪だった時代に、私は生まれていない。さらに言えば、蛇崎家という特殊な家の中に限れば、昔から親殺しは重罪ではなかった。むしろ奨励されていたと言って、齟齬はないように思う。
「白さんは、蛇崎家当主でしたか?」
鷹清くんが私にそう尋ねたのは、飛行機の中だった。兵庫県に向かって飛ぶ飛行機の中――密室の中。はっきりと分かる作り笑いを浮かべた顔は、詐欺師たちとは別種の底知れなさを感じさせる。
「そうね。公表した記憶も、あなたに伝えた記憶もないけれど、その認識は間違ってないわ」
飛行機が飛び立ってからしばらく、鷹清くんは窓の外を見ていた。車の中での彼いわく、飛行機に乗るのは初めてらしい。初めて飛行機に乗るときの感動は計り知れない部分があると、私は思っている。それまでは――良かった。そこそこ上手くいっているように思えた。私達は絡みこそないけれど、悪い縁があるわけでもない。少なくとも最弱チーム程は。
なのに、そんな事を聞かれたら――。
「どうして、そんな事を聞くのかしら?」
鷹清くんは作り笑いを貼り付けたまま、「いえ」と言った。
「石谷空音ですらないあなたに、鬼を倒せるのかと思っただけです」
「毒を吐かれたと捉えてもよろしくて?それとも――」
それとも、未来視の結果、私は負けるのだろうか。だとしたら、結局は瑠衣さん頼み。美しさも、品性も、気高さもない。
「不安がる必要はないですよ。先代にしたように、僕を取り込めば未来視は引き継げるのでしょう?」
「……」
死ぬことに、抵抗はないのだろうか。私は、すごく怖いし絶対に死にたくないとすら思っている。
「死ぬことが怖くなくて?」
私がそう聞くと、鷹清くんの顔からは笑みが消えた。自身が袖を通しているジャケットに、視線が落ちる。
「生まれた時からわかりきっているその時を、怖がる必要があるでしょうか。少なくとも、今まで僕は未来を変えれていないので」
――その時が来たら。
「白さんが、僕を食べてください。美味しい自信はあるんですよ。ほら、鍛えてるし」
そう言って彼が捲ったジャケットの袖の下からは、服の上からではわからない彼の細マッチョな腕があらわになった。
「悪いけど、仲間を食べるつもりはないわ」
私は左手に持った扇子を顔の前で広げる。
「死霊操術士にでも頼むことね。協力くらいはしてあげてもよくってよ」
「はは……」
仲間に情がないわけじゃない。移りすぎていると言っても過言ではないほどだ。仲間には死んでほしくないし、仲間を食べたくもない。その時が訪れないことを毎日のように祈っている。
ガガッ……
スピーカーが噪音を発てた。
『これより、着陸体勢に入ります。お客様はシートベルトを緩み、捻じれのないようにきつく締めて、座席からお立ちにならないようにお願いします』
スピーカーから流れたアナウンスのあとに話す気にはなれなくて、私達は互いに黙りあった。しばらくの沈黙ののち、私はほぼ独り言のような声の大きさで鷹清くんに聞いた。
「……誰も、死なないよね?」
「さあ、どうでしょう?」
能力の制約か、彼の信条か。鷹清くんは、めったに未来の話をしない。この世で誰よりも全知に近いはずの彼だからこそ、見える景色があるのだろう。それがいいことなのか、悪いことなのかは知らない。
19歳になっても未だに高校生をやっている――なお、留学などをしていたわけではない――身としては、立たなきゃ見えない景色があることを知っているからこそ、教えてほしいものだが。
「絶対に、僕が死なせませんから」
非戦闘員である彼が、なぜ死ぬのかを。
霊能物語本編第七章「鬼たち」第七節「未来」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!




