最弱チーム 語り手:美倉紅玉
命の価値は測れない。この考え方は本当に道徳的だと思う。理論でしか物事を考えられない俺は、こういう理論化された道徳にすごく助けられてきた。
「ネクロマンサーっていうのかな?」
槿花の魂を術の下に入れたのは間違いだった。欲しい情報だけじゃなくて、知りたくなかった情報も入ってきた。槿花は出しっぱなししないといけないから、槿花一人で俺の1日に使える霊力量の半分以上を使っている。正直、槿花を出さなければ野田優愛にだって、俺一人でそれなりに迫れたかもしれないのに。
「なに?」
俺達の移動は藤樹瑠衣が本部から車をよこした。黒のセダンである。本部も金使いが荒い。セダンなんかよりもワゴンか軽トラが便利でいいだろうに。
それはともかく。
俺達は今回組まれたチーム分けの中で最弱である。霊力量さえなんとかなれば、蛇崎家の当主か空音くらいには並べるのだろうが、そうでないのが現実だ。野田優愛だって、まだ鍛錬が足りていない――足りることはないのだが――。
「だから、紅玉くんの霊能。似てるよね、漫画とかに出てくる死霊操術士に」
移動中のセダンの中、俺と野田優愛の間の空気は冷え込んでいた。冷え込むと言うよりも、もはや一触即発である。
「似ていると言われても――。俺自身、俺の霊能は把握していないんだけど」
嘘だ。把握していないどころか、把握せざるを得ない状況だった。
「嘘でしょ、実際、今も霊能使ってるし」
「!!」
俺は俺の瞳孔が閉じていくのがわかった。野田優愛の丸顔に大きく陣取っている無垢な瞳に、危機を感じた。
なぜだ。なぜわかっている。俺は何もヘマはしていないはず。石谷空音は霊能が霊能だからわかっただけで、それ以外の霊能で相手の霊能を知ることなんて……。
「あ、ごめん。知られたくなかったよね」
ごめん。と、両手を顔の前で合わせる野田優愛が心底不気味だった。
「別に。あいつ以外にそういう奴が、34支部側に居たってことに驚いただけだ。バラさなければそれでいい」
最悪、蛇崎家の当主にさえバレなければ、それでいい。
「それで、紅玉くんの霊能って、操っている相手の霊能も使えるの?」
「……」
まだ続けるのか。確かに、34支部から群馬県は距離があるし、これから飛行機だから暇ではあるが。
「教えてよ〜。仲良くなりたいんだって」
黙らせたいが、あの手を使っていいものか……。
「使えないこともない。ただ、自分の霊能を使う倍以上の霊力が必要だから、俺の霊力量だと無理だな」
ここは素直に答えておこう。それに、ここで恩を着せとけば、こいつの霊能も聞き出せるかもしれない。
俺と槿花の魂の間で、最近、議題になっていることは、野田優愛の霊能についてだ。空を飛べる。念動力を使える。魔法のように炎を出したり雷を出したり、テーザーガンのようなマネもできる。そのうえ、今は騙りのような事もできている。
ここまで来たら、ただの霊能じゃない。というか、霊能の体系にすら組み込まれていない――もっとずるいなにかだ。
「そっか……。それは残念。槿花ちゃんの霊能も見てみたかったんだけどなー」
野田優愛は、俺との間に座る槿花の顔を覗き込んだ。
「ね!槿花ちゃん!」
「……」
「……ね?」
槿花は答えなかった。というより、固まったまま動かなかった。その顔色は蒼白で、ぶるぶると震えているように見えた。
「……まずいな」
俺はぼそりと呟く。せっかく、あの時俺が気を遣ったのに、その効果が薄れてきたのかもしれない。
「え?なにが?」
「あまり槿花に話しかけるな、その方がお互いに有益だ」
「なんで?」
野田優愛は、未だに無自覚なようだ。蛇崎家の当主と空音は一体何をしていたのだろうか。まさか、当事者の口から言わせるつもりなのだろうか。
「今は聞かないほうがいい」
俺はそう言ってシートを倒した。セダンの重厚なエンジン音が耳に障る。
「そっか――」
シートが邪魔で見えなかったが、野田優愛の表情は曇っているような気がした。
「それでは、私はこれで」
運転をしてくれた本部の職員は、そう言ってお辞儀した。俺達も礼を言ってお辞儀する。職員が帰っていくのを見とどけ、空音から配られた航空券を確認する。
「群馬行きの5時からか……」
とりあえず俺は2人に航空券を渡す。
「チェックインしてから自由行動にしませんか?」
「わかった。私は空港初心者だし、スケジューリングは紅玉くんに任せるよ」
「任されました」
俺は2人の前に立って先導する。世にも名高い羽田空港は、東京駅よりもダンジョンだ。槿花の経験がなければ、俺も迷っただろう。
「無事、乗れてよかったね〜」
時は過ぎて飛行機の座席。窓側3席を一列に取られていた。俺達は揃って息を吐いた。
「なんで3メートルの距離で迷うのですか……?」
ド級の方向音痴を発動した野田優愛を、俺は睨みつける。野田優愛が窓側に、俺はそのすぐ隣に座っているから、すごく至近距離だ。
「なんでだろうねぇ……。方向音痴ではないはずなんだけど」
「嘘つけ。……そう言えば、あなたの悪魔も家の中でも研究所でも迷子になってたな」
「そうなの?」
悪魔は本人の潜在特性まで利用することがあるから、その流れで引き受けたのだろう。全く、旅に向いていないメンバーだ。鬼を倒せるのかすら怪しいうえに、空音には出発前に「結界を見張ってるだけでもいいから」とまで言われてしまったが、そんな軟弱なマネはしない。倒す算段をつけるために一番最初に出発した。
「大丈夫かよ」
「たぶん?」
何はともあれ、俺達最弱チームの旅は始まった。
霊能物語本編第七章「鬼たち」第六節「最弱チーム」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!




