やりたいこと
「結局、美倉家は襲撃してこなかったんだ」
人数が増えて、会議室が窮屈になってしまった――結構始めからからかなり窮屈だった記憶があるけど――ので、私達は食堂で会議を始めた。
「そうそう、鷹清くんの霊能も完璧じゃないからね。一応、保険として夜の見張りを立てたり、部外者の身元チェックの基準を厳しくしたり……みたいな、警戒はしてたんだけど」
私と向かい合う形で長テーブルに座る空音ちゃんに言われて、鷹清くんは恥ずかしそうに顔を伏せた。私がここに来てから、鷹清くんの霊能が狂ったところは見ていないが、未来なんて不確実なものを完璧に予知できるはずはない。
「ふーん」
興味がないわけじゃないが、私がいつ帰ってくるかわからない以上は、美倉家も襲撃はできないだろう。私に監視をつけようものなら、私が返り討ちにしてしまうから監視も付けられない。
「あー。気になってたんだけど……、瑠衣さん、一ついいかな?」
我慢ならないといった様子で、駿さんが手を上げた。
「なんでしょう?」
駿さんは、上にあげた手をかえして、私の右に座っている鈴音ちゃんを指した。
「その子は、誰なのかな?」
会議が始まって早1時間。鈴音ちゃんについて、私達は一切触れないまま会議を進めていた。本来なら一番早く触れるべきだが、話し合うべき――というより、報告し合うべきことが多かった。
「私の妹――腹違いだけどね」
空音ちゃんがはっきりと答えると、駿さんは申し訳なさそうに顔を伏せた。
「あ、うん。なんか……ごめん」
「いいよ。気にしてない」
実際、空音ちゃんは気にしていないだろう。腹違いなんて、時代錯誤の体制が残る霊能界じゃ珍しいことではない。
私が2人の空気感を見ていると、鈴音ちゃんが私の服の袖小さく引っ張った。口に手を当てて、その手の指先をくいと動かしている。私が耳を近づけると、小さな声で囁いた。大方、空音ちゃんの事を褒めるのだろう。
「空音お姉ちゃんに謝るなんて、すごくいい人ですね」
予想していなかった内容に私は驚いたが、駿さんがいい人なのは間違いないので、「そうだね」鈴音ちゃんにならって囁いた。
「2人とも仲いいなー。そこにお姉ちゃんも混ぜてほしいなー」
空音ちゃんから、ジェラシー成分多めの声が聞こえた。私と鈴音ちゃんは顔を見合わせて空音ちゃんを見る。
「い、いや。ソンナコトナイヨ、ねぇ?」
「う、うん。全然……そんなことないです」
「ふーん。別に?そんなことあっても、全然、いいんだけどね?」
空音ちゃんの顔はそうは言っていないようだった。石谷家の姉妹事情は複雑なようだ。私が2人を見ていると、白さんがゆったりと手を上げた。
「あのー。いちゃつくのは構わないのですが、そろそろ、本題に入りませんか?」
本題。1時間会議をしているが、ここまではただの現状確認に過ぎない。問題はここからだ。私が、透石家と石谷家の重要な書物まで探して、得たかった情報。
「そうだね。私が話すよ」
私は椅子から立ち上がった。食堂の調理師達には、今日、休暇を取ってもらっている。ここから話す内容は、国家機密になり得るからだ。歴代の最強達が、総じてぶつかったであろう課題。この国を揺るがしうるあの怪異たちをどうするか。
「言われたの?瑠衣ちゃん」
空音ちゃんが上目遣いで聞いてきた。
「うん、まあね。でも、私もそろそろ答えを出さなきゃと思ってたところ」
私は私以外のメンバーの顔を見ていく。みんな、私を見ている。
「私は、日本中に散らばっている鬼を全部倒そうと思ってる。理由は、私の世代で彼らの世界と決着をつける必要があるから。私は、私より後世の世代に任せることはできないと思ってる」
昨今の霊能力者の質は、低下の傾向が著しい。きっと、透石偉黎のような者が現れることはほぼない。
「同意、してくれるよね?」
美倉家、蛇崎家、石谷家、透石家。すべての大家の次世代が揃うここで、意思表示をすることに意味がある。おそらくだけど、所長もこれを狙っていたんじゃないだろうか。あの人は、誰よりも未来を案じていたから。
「それが瑠衣ちゃんの答えなら」
「私も賛成しますよ、瑠衣さんなら問題ないでしょうし」
石谷家姉妹は賛成してくれた。私は賛同者がいてくれることに安堵する。
「私も賛成しますわ。蛇崎家と言っても、私は異常者。私と張り合える者など、蛇崎家にはいませんから」
白さんも賛成してくれた。
「僕は戦闘に出れないから、判断は任せるよ。やるなら、できる限りのことはする」
「私も、まだ入ったばかりなので判断はおまかせします」
駿さんと優愛ちゃんは判断を保留した。
「俺と槿花は反対だ。なぜなら、戦闘を藤樹瑠衣に一任することになるから。このトピックは、穴がでかすぎる」
槿花ちゃんと紅玉君は反対した。槿花ちゃんまで反対したことは意外だが、私は2人の意思を尊重したい。
「あら、あなた達だけが戦えるわけではなくってよ?」
白さんが双子に突っかかった。
「役職というものがありますよね?」
紅玉君はドライな人間だ。あまり、他のメンバーと仲良くしているところも見たことがない。
「それは失礼」
鷹清くんが手を上げた。
「未来が見える僕から一つ、いいですか?」
「なに?」
「瑠衣さんは、どこに行こうとしているのでしょう?僕は僕以外の人の未来も見えます。その人がなにを考えるのかも、大体は。ですが、途中から、瑠衣さんの未来が見えないのです」
――こんなこと、今まではなかった。
「瑠衣さん、あなたは何を追っているのですか?」
食堂の端に座っていた井宗さんが、手を上げた。
「なんですか?」
「保護者役として、1つ言わせてもらおう……。お前らは役職に縛られすぎだ。終夜は……あいつはそれを期待していたわけじゃない。あいつはクズだが、お前らがもっとフラットに考えられる場としてここを用意している。そのうえで考えろ。世界を巻き込んだっていいんだ。俺は霊能力者として、お前らの意思と選択を尊重する。尻拭いは任せろ」
井宗さんがここまで喋るのを、私は初めて見た。スキンヘッドに黒スーツ、そして室内でもサングラスをつけている。そのうえ、無駄に筋肉マッチョだから、アングラな見た目だけど、いい人なのだろう。
「あまり期待するなよ?狐影の方が優秀だからな?」
そうでもないらしい。だけど、私達はもっと気楽に話し合っていいようだ。
「わかった。鷹清くんの質問に答えるよ。その前に1つ、語らせてほしい」
この世界のこと、私の見ている世界のこと。
霊能物語本編第七章「鬼たち」第三節「やりたいこと」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!




