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霊能物語  作者: 野沙朝臣
鬼たち
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久しぶり

 「ここが、名高い怪異研究所第34支部ですか……」

 鈴音ちゃんは、太陽に照らされて白く輝いている建物を、眩しそうに目を細めてみている。

 「そんな、名高いだなんて」

 正直、照れる。

 「悪名ですけどね」

 「そんな!」

 悪名なんて、一体いつついたんだろう。少なくとも私が関わっていないことだけは確かなはず。

 「8割瑠衣さん関連ですね。良くも悪くも有名なので」

 「悪くとは……心外だよ」

 「いろいろあるじゃないですか。美倉家の兵士を脅しただとか、戦闘で山一つ消したとか、意図的に地盤沈下させたとか、公立高校を瓦礫の山にしたとか!」

 ほとんど見に覚えしかないのが怖いのだが……。

 「まあ、噂には尾ひれはひれが就くものですから」

 「最後のやつは尾ひれとはひれが9割だよ!」

 「でも、高校を壊したのは本当なんですよね?」

 「そうだけど……」

 そこを言われると痛いものがある。井宗さんも、後ろでため息を吐いている。私だってそうしたい。

 「元気出してください!私が勝手に調べて見つけただけなので!」

 「噂を自家栽培してる?」

 「地産地消ってやつですね!」

 地域に優しいな。この場合、材料が私なので、返品に近いのだが。

 「あー!誰かと思ったら、瑠衣ちゃんじゃん!」

 ちょっと遠くから、そこはかとなくギャルを感じさせる声が聞こえた。声の主を捜すと、上から人影が降ってきた。

 「あ、ちょっと受け止めて!」

 茶色のブレザーと青のスカートを着た少女が、空から降ってきた。実際には、降ってきたのではなく、下りてきたのだろうが。私は少女の身体の向きを変えて、お姫様抱っこのような形で受け止める。

 「なんで落ちてきたの?優愛ちゃん」

 「えへへ……ちょっと空を飛ぶ練習してて」

 空を飛ぶ霊能なんて聞いたことないが、それが彼女の霊能なのか。

 「霊能に目覚めたの?」

 「うー……ん。そんな感じ」

 「……」

 歯切れの悪い返事だ。鈴音ちゃんすら黙っている。

 「そろそろ下ろしてもらってもいい?ギャラリーがうるさくてさ」

 優愛ちゃんは本当にギャラリーがいるかのように、視線をぐるりと動かした。

 「ギャラリー?」

 そんなものはここに居ない。私が霊視を使っても探知できないのだから、断言してもいい。私は不審に思いつつも、優愛ちゃんをそっと下ろした。

 「あー。こっちの話。気にしないで」

 そう言われると、もっと気になるのが人の性。

 「そっちの子は?」

 そっち、と彼女が顎で指したのは、鈴音ちゃんだった。

 「空音ちゃんに似て美人だね」

 「美人だなんてそんな……」

 そんな、と言いつつも嬉しそうに体を捻った。照れる様子は小動物が如し。晴れの日の暑さも、途端に吹き飛ぶ。

 「それで、どこの子なの?」

 改めて聞かれると、鈴音ちゃんははっきりと答えた。

 「石谷家当主の次女、石谷鈴音と申します。姉の空音がお世話になってます」

 鈴音ちゃんはそこまで言うと、少し前に寄って優愛ちゃんに顔をぐっと近づける。

 「空音のお話などあれば、ぜひ、聞かせてください」

 「あ、あ〜。うん。考えとくよ」

 「考えとく、ということは、話の引き出しはあるということですか?ぜひ、教えてください。今、教えてください」

 ぜひ、ぜひと鈴音ちゃんは優愛ちゃんにしつこく迫った。優愛ちゃんが助けてというように目を向けたので、私は鈴音ちゃんの肩を掴んでとめる。

 「鈴音ちゃん、まだお相手の自己紹介が終わってないよ」

 「そうですね。もう知ってますけど」

 「そうだろうね……」

 騙りの霊能力者なら、すでに知ってはいるのだろう。

 「こういうのは、儀式が大事なんだから」

 「そうですか?」

 現代人らしい、効率重視な進め方だ。ここに来る前の私なら、賛同していただろう。

 「そういうものだよ。鈴音ちゃんも、知らない人に顔と名前がバレていたら、怖いでしょう?」

 「そうですかね……」

 まあ、鈴音ちゃんもこの業界じゃ有名人だ。名乗ることも名乗られることも珍しいだろう。鈴音ちゃんの視線が優愛ちゃんに向いたのを見て、優愛ちゃんが声を出した。

 「第34支部で一番の新人、野田優愛です。以後お見知りおきを」

 差し出された手を、鈴音ちゃんはしげしげと見つめた。

 「お姉様の気配がします」

 「ああ、さっきまで稽古をつけてもらってたからね。私も命を狙われる身ですから」

 鈴音ちゃんの身体がふるふると小刻みに震えた。鷹清くんじゃないが、私は次に来る一言が読めた。

 「うーらーやーまーしーいー!私もお姉様に稽古をつけてもらいます!」

 鈴音ちゃんの地団駄に合わせて長いお下げ髪が揺れる。私の記憶では、鷹清くんが空音ちゃんの指導はスパルタだと言っていた気がするが、鈴音ちゃんにとっては楽しい思い出なのかもしれない。

 「あ、そろそろ戻らなきゃ……」

 優愛ちゃんが我に返ったように身体を震わせた。

 「あー、言いにくいんだけど」

 もう遅いかも、と言いかけた頃には手遅れだった。優愛ちゃんの背後に、黒い影が降ってきて、優愛ちゃんの右肩に手をかけた。

 「ゆーあーちゃーん。いつまで休んでるのかなあ?」

 「ひうっ」

 「あなたが戦えないと、迷惑なんですけど。もう一度言いますね?あなたが戦えないと……」

 「あー!わかりました!」

 空音ちゃんを指導役にしたのはいったい誰なのだろう。きっと空音ちゃんだ。

 「分かればいいのですよ。さあ、まずは遅れた秒数分、腕立て伏せをしましょうか」

 優愛ちゃんの表情が一気に強張る。いったい、何秒遅れたことやら。私のせいだが。

 「じゃあ、行きましょうか」

 空音ちゃんが優愛ちゃんを掴んだまま身体の向きを変えると、鈴音ちゃんが「あのっ」と呼びかけた。

 「空音お姉ちゃんっ」

 空音ちゃんが僅かに体をこっちに向けて、鈴音ちゃんにウインクした。

 「久しぶり、鈴音。その話はまた後で」

 それだけ言うと、優愛ちゃんの体を抱えて足早に去っていった。いったいどれだけスパルタなのだろう。

 霊能物語本編第七章「鬼たち」第二節「久しぶり」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!

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