↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊能物語  作者: 野沙朝臣
鬼たち
73/80

透石風鈴

 本部に所蔵されている本の中には、伝承価値の高い物語も数多く存在する。これらの本は、民俗学的、もしくは神学的な研究対象になることも多く、常にどこかしらに貸し出している。ただ、霊能界的に貸し出したくない本も存在する。これらの本は常に架空の学会に貸し出すことで、その本を借りれないようにする。

 「これが……」

 御三家が一家、透石家の後を継いだ石谷家もまた、そのような本を所有している。もっとも、彼らの場合は本部のような小細工は必要ないのだけど。

 「そうです。世にも名高い透石家12代当主、透石風鈴(とおいしふうれい)の日記・威風凛然と伝記・共鳴です」

 鈴音ちゃんは、当主の部屋を特に臆する様子もなく、音をたてながら漁っている。一昨日までの威勢と歯切れのいい言葉はどこへやら。綺麗に手入れをされた着物すら、その落ち込んだ背中ではくたびれて見える。

 「鈴音ちゃん、うちに来る?」

 落ち込んでしまった様子が我慢ならず、私はそう提案した。我ながら名案だと思う。空音ちゃんがいたら、きっと元気になるだろう。毒と薬は表裏一体。詐欺師も目的が違えばカウンセラーになるだろう。

 「うちって……?」

 「第34支部」

 「いいんですか?」

 「いいよ、人はいくらいてもいいからね」

 もちろん、空音ちゃんが許可を出したら、だけど。あの人は許可を出すに違いない。今は美倉家とも揉めているし、今日の朝、本部で偉黎から聞いたあの話が本当なら、蛇崎家ともいざこざがあるだろう。私がいる時に攻め込む愚か者はいない。攻め込むのなら、私がいない今。槿花ちゃんも紅玉くんも、私みたいにずっと戦えるわけじゃない。

 良くも悪くも、私は特別だ。

 空音ちゃんも白さんもいるし、すぐに落とされることはないだろうが、あの2人くらい、プロなら出し抜ける。馬鹿正直に戦う必要もない。優愛ちゃんは、まだ戦える状態じゃないだろう。

 「少し……当主と相談します」

 「うん。いい返事を待ってる」

 あの人なら、きっと許可を出すだろう。どういうわけか知らないが、あの人は鈴音ちゃんを疎ましく思っている。鈴音ちゃんも気づいているのだろう。あまり積極的に関わろうという気概は感じられない。遠ざけられるなら、遠ざける。

 さー、という音をたてて、襖が閉じられる。鈴音ちゃんが出ていった後の部屋は、すごく静かだ。私は石谷家秘蔵の本を開く。

 威風凛然と書かれたその日記は、当時最も優れた霊能力者だった透石風鈴が記したものだ。彼は生涯戦い続け、30体の鬼を討伐。12体の鬼を封印したと記録されている。その記録の裏側と彼の思想を読めるのが、この2冊。現在封印されている鬼は総じて彼が封印されているものだ。

 少し前までは、螢や桃斬童子もいたのだが。

 私がこの日記を読める感動に浸っていると、部屋の襖が勢いよく開かれた。

 「許可が下りました。行きましょう、瑠衣さん」

 鈴音ちゃんの発音は歯切れがいい。だからこそ、取り繕おうとしている努力が、機械的な印象を与える。非常に残念。

 「残念とはなんですか。ご愁傷さまの一言くらい言ってくださいよ」

 「あの一言ほど悲しいものはないでしょう?」

 「礼儀です」

 「ご愁傷さまです」

 「よろしい」

 形骸化した言葉は、悲しい。みたいな文豪的なことを言うつもりはない。形骸化した言葉も大事だ。ただ

、その言葉が今は無意味に響く気がした。鈴音ちゃんの心はわからない。

 透石偉黎が家から連れ出したのは、高い戦闘能力を持つ透石家きっての構成員だけ。彼は、自分の妻を置き去りにしている。一昨日、応声虫が殺した自身の側仕えの中に、彼の妻――つまり、鈴音ちゃんの母がいたらしい。

 「そのスーツケースってさ、鈴音ちゃんの霊能的に要らなくない?」

 私は日本屋敷におおよそ似つかわしくない大きなスーツケースを指摘する。革製の高そうなスーツケース。美しく磨き上げられている。和服に革製のスーツケースだったら、アンバランスもいいところだが、今の鈴音ちゃんは、茶色のベレー帽に軽いTシャツ、そしてチェック柄の長ズボンを着ている。いよいよ、日本屋敷から浮いている。

 ちなみに、私はお気に入りの服――軽量防弾チョッキ――が破れたので、仕方なくおしゃれ着と思っている白いワンピースを着ている。単純な服しか考えられない自分を恥ずかしく思う。

 「イメージしやすくなるんですよ。これがあると。ちなみに、出し入れも簡単になるので、早着替えもできますよ」

 ほら、というと、瞬きする間に服装がオーバーオールに変わっていた。

 「すごいでしょう?」

 もう一度瞬きすると、元のファッションに戻っている。

 「すごい」

 これがあったら、装備を入れ替えし放題だ。鷹清くんの矢もきれなくなるし、紅玉君は真剣デビューできるかも。

 「すぐに戦いのこと考えるんですから……」

 「ごめん」

 「行きましょうか」

 石谷家の外には、井宗さんが運転する防弾車が停まっている。私は、鈴音ちゃんと一緒に乗り込んだ。

霊能物語本編第七章「鬼たち」第一節「透石風鈴」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。