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霊能物語  作者: 野沙朝臣
透石偉黎
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裏側

 桂史さんの傷もそうだが、他の隊員の傷もかなり酷かった。腹は破られ、内臓は焼けている。隊員たちは自分のことを情けないと言っているが、むしろ、気を失わずにうめいているのがすごいくらいだ。隊員たちは腹を抱え、玄関と正門の間に転がっている。何人かは杉の木から落ちたのだろう。頭部からの出血が見える人もいる。

 「あいつらを先に診てやってくれないか……」

 自分とて楽ではないはずなのに、桂史は私にそう願った。私は首を横に振った。

 「大丈夫。私は誰も死なせないから」

 私は普通の医術なんて持ってない。だから、私がするのは霊能を使った治療。跡形もなく傷が治るか、跡形もなく死ぬか。どっちかだ。

 「そろそろ見てられないから、治すね」

 私は小刀を創る。桂史の顔があからさまにひきつった。

 「ちょっと待て。麻酔とかないのか?」

 「ないよ。もともと痛いんだから、関係ないでしょ?」

 「大いにあると思うんだが」

 確かに、緊張しているからか、桂史の傷口から出てくる血の量が増えている気がする。

 「まあ、死んでくれてもいいんだけど」

 「まだ死にたくないのだが」

 そろそろ限界なのだろう。桂史の顔が青くなっている。

 「すぐに治るから大丈夫だよ」

 私は桂史を押し倒す。桂史の身体には力が入っていなかったようで、抵抗なく地面に倒れた。

 「じゃ、始めるね」

 「あああああ!」

 私は、焼けて褐変した腸を小刀で切り出す。桂史の悲鳴も切り取るまでで、泡を吹いて気を失ってしまった。私は、桂史の腸を霊力包んで形取る。そのまま、細胞の形、DNAレベルでコピーする。

 「糸とかどうしよう……?」

 霊力で補修、複製した腸は、そのまま使えるが、都合よくくっつくことはない。仕方なく、私は腸の細胞で糸を創った。いい感じに曲げて、腹に詰める。私は腸を縫い付けて、腹の傷を癒した。少しの熱を持って、腹部の傷が跡形もなく癒えた。

 「あとは、血液が届くまで放置かな」

 私にできるのはこの程度だ。悔しさはない。私にとっては元々、救う予定のない命だったのだ。死のうが生きようが、私には関係ない。

 「あと――何人いるんだろう?」

 私は落ちている人間の数と、木の上に引っかかっている人間を数えた。

 「ひぃ、ふぅ、みぃ……13人か」

 それほど多くなかったことに安堵しつつ、木に引っかかっている人間を全員下ろした。私は見るからに重篤な人を優先して、手早く治療していく。何人かは喋れる状態だったが、木から落ちた人はほとんど喋れなかった。私は脳も複製できるが、それはしないことにしている。例えそれをすることで完全に回復できたとしても、それが本人だとは思えないからだ。だから、脳に障がいが残るのは、仕方のないことなのかもしれない。それでも、障がいが残らないようにできることはするが。

 私が全員を治した頃、鈴音ちゃんが戻ってきた。

 「連れてきましたよ!石谷家の人!」

 正門から、わらわらと石谷家の家紋バッジを胸に付けた人が入ってきた。

 「石谷家と透石家は血縁関係が近いので、拒絶反応も起きないと思います!」

 門の向こうには、石谷家の家紋が入った車も停められている。きっと、医療車なのだろう。車からは、白衣を着た数人が出てきて、医療器具を大量に下ろしている。私は桂史に駆け寄る鈴音ちゃんを見て、桂史の言葉を思い出した。

 ――手を緩めて俺を自由にしたら、またお前を襲っちまう。……すまねぇ、透石家にいる連中は、みんなそうなんだ。

 透(・)石(・)家(・)に(・)い(・)る(・)連(・)中(・)は(・)、み(・)ん(・)な(・)そ(・)う(・)な(・)ん(・)だ(・)。

 桂史は、なぜ私を襲った?桂史と私の力量差なんて、目に見えている。スポーツの大会で例えるなら、初戦敗退と大会100連覇の絶対王者だ。絶対に勝てない。まともな会話できるくらいの意思が残っていたなら、勝負なんて挑まない。

 もしかしたら……。私の考えは、恐ろしい方向へ向かった。

 蹴落とされた時、なぜ応声虫はすぐに上がってこなかった?すぐに上がってこれたはずだ。骨折程度の傷、私の身体にとっては大したことじゃない。きっと、あの怪異にとってもそうだったはず。私の胸の奥がざわついて、1つの考えに至った。

 「じゃあ、私は家の中も見てこようかな」

 桂史の手を握っている鈴音ちゃんにそう言って、私は屋敷の中に入った。こんどは玄関から。戸を引いて中に入ると、考えが当たっていたことを教えられた。

 見るに堪えない。凄惨な現場。私と応声虫の戦いに巻き込まれたのではない。応声虫が一方的に消費した人間の遺体が、屋敷中に散乱していた。腹を割かれ、足を切り落とされ、首が跳ねられた何十人もの遺体。戸を引いてすぐの所に転がっている髪の長い生首は、顔が恐怖で満たされている。

 私はこの人達を治すことができない。完全に生命を絶たれた生物は、霊能にとってただの有機物であり、それ以上でも以下でもない。

 ギリシャ神話には、アスクレピオスという医術の神になった半神半人がいる。彼は、死んだ人間を自由に生き返らせることができたらしい。それがより上位に位置する神の怒りに触れて、最後は落雷で死んだ。たぶん、彼は私と同じ、その世代最強の霊能力者だったのだろう。私と同じで、この世界以外の世界に行けた。

 私は俗に言われる異世界というところに行ける。それも自由に。

 でも、漫画で見るような異世界じゃない。応声虫とか鬼が生態系として存在する異世界と、この世界と鬼の世界の死者が集められる世界。そして、それらすべてを創った神の世界。すべての世界に、私は行ける。昔、所長から渡された文献に、今までの最強たちが残した資料が入っていた。その中には、これらの世界に関する記述があった。

 平たく言って、地獄であった。と。

 私はそれらの世界へ行くことを所長に禁止されている。だから、一度も行ったことはない。

 「瑠衣さん、全員の輸血終わりました――よ」

 私に明るく言ってきた鈴音ちゃんが固まった。そりゃあそうだ。かなりショッキングな光景なのだから。それでも、数秒経って笑顔を顔に貼り付けた。

 「お疲れ様でした、瑠衣さん。石谷家に戻るのは明日にして、今日は適当な場所に泊まりましょう」

 その日の夜、私は人生で初めて眠れなかった。

霊能物語本編第六章「透石偉黎」第十三節「裏側」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!

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