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霊能物語  作者: 野沙朝臣
透石偉黎
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透石家当主

 裏切り者の一族――石谷家のことか。霊能界的には対して変わらないけど、当事者同士では、確かにそうなるのかもしれない。その女性は刃物を襟にしまった。殺意はなくなったように見えるが、大きな彼女にはそれでも威圧感を感じるし、その目は私ではなく鈴音ちゃんにロックオンされたままだ。きっと、隙を見て殺すつもりなのだろう。

 「何のつもりですか?おばあちゃん」

 鈴音ちゃんは生意気な口調で言い放った。()()()()()()――と、シワ一つないその顔に言い放った。色落ち、カサつき、老化を一切感じさせない黒髪に、形の崩れていない胸、育ちの良さを感じさせる背筋――。どれを切り取っても、おばあちゃんの要素は一切ない。せいぜいおばさんくらいだろう。

 「酷いわね……。まともな教育すらされてないのかしら?目上の女性におばあちゃんは禁句よ」

 女性は眉一つ、瞬き一つせずに、さっきと変わらないトーンで返した。瞬き一つ――眉一つ、まるで機械音声のような声で、鈴音ちゃんに返した。不快な言葉に対して返す文脈で、全く声が変わらない。ずっと同じポーズで、帯の前で手を組むような居心地の悪いポーズでそのまま、一切動いていない。

 「瑠衣さん、気づきました?」

 「あー、やっぱり?」

 多分、この人が応声虫に乗っ取られた透石家の当主なのだろう。400年、透石家を支え続けている応声虫。霊能界の――生ける伝説。私が一昔前の男子小学生像の人間なら、興奮して駆け寄るところだ。生ける伝説、かっこいいじゃないか。その実、怪異がその形を使って生命活動をなぞっているだけなのだが。

 「気づくって、何のことかしら?ねえ、お姉さんにも聞かせてくれないかな?」

 水色の着物を着た怪異が、ゆっくりと単調な足並みでこちらに近寄ってくる。私は自然と刀を創った。鈴音ちゃんは、何もせず、堂々とその女性を見つめている。何もせずに、じっと。すると、怪異はピタリと、あと2メート程のところで止まった。くるりと回転すると、首だけ私達を見て、門を指して口を開いた。

 「とりあえず、中で話しませんか?ほら、昨今は物騒ですし」

 相変わらずの機械音声のような声で、不気味な笑顔の無表情のまま、私達を中へと誘った。

 「わかってるじゃないですか」

 鈴音ちゃんは、一言そう言うと、怪異のあとについて行った。私は、鈴音ちゃんに手を引かれて、同じように怪異のあとに続いた。

 「ここに段差があるので、お気をつけなさいな」

 怪異はここ、と指で示してそこをまたいだ。一瞬、ちらりと上を見て瞬きをした。見た目のせいで遊女を連想させるその動作は、端々に色気があり、教養の質の高さを感じさせる。私の性指向が女性であったら、相手が怪異だろうと襲っていたかもしれない。

 「ん。ありがとうございます、おばあちゃん」

 「おばさん、と、言ってくださいな、鈴音さん」

 おばさんはいいのか。彼女なりに、明確な何らかの基準があるのかもしれない。鈴音ちゃんにぐいぐいと引っ張られながら、私は怪異の後ろを追って入口に近づく。鈴音ちゃんが段差をまたごうとした時、私の中で何かが引っかかった。なぜ、怪異は上を見た?この入口は大きいし、私達は見た所、あの怪異よりも小さい。怪異地震ですら頭をぶつける心配もなければ、丁寧な手入れをされたこの入口は、何かが落ちてくるほど劣化している様子もない。

 「ひゃう!」

 私は鈴音ちゃんを強く引っ張って位置を入れ替わる。鈴音ちゃんは小さく可愛い悲鳴を上げて尻もちをついた。私はそこにいる誰かに、不信感を与えないように自然な足取りで段差をまたいだ。右足が向こう側の砂利を踏み、砂利が小さな音をたてた。何かが木から飛び立った音がした。僅かな羽ばたき音とともに、人並みの影が、私の影と重なった。私は両腕を頭の高さまで上げて、その一撃を受け止めた。骨が折れ、鈍い痛みが体中を駆け巡る。

 「ちっ」

 そいつは、キレの悪い舌打ちすると、飛んで引き下がろうとした。私は視界まで下がってきていたそいつの脚を掴み、地面に打ちつけた。私の骨はすでに治っていて、強い力でそいつを地面に押さえつけた。

 「誰?霊能は?」

 「「透石家警備隊隊長、透石桂史。霊能は身体強化」」

 透石桂史とは別に、もう一つ、後ろから声がした。

 「鈴音ちゃん?」

 鈴音ちゃんは、薄っすらと涙を流して、この男を見ていた。

 「だよね、先生」

 鈴音ちゃんの声には、嬉しさと尊敬が混じったような、複雑な響きがあった。私は力を弱め、その男を楽にする。すると男は、自分から私に「手を緩めるな」と言ってきた。

 「俺に根性がねぇばかりに、手を緩めて俺を自由にしたら、またお前を襲っちまう。……すまねぇ、透石家にいる連中は、みんなそうなんだ。あの女には――いや、怪異には、注意しすぎっていうもんがねぇんだ」

 どういうわけか、そういうことらしい。漠然とした最悪のイメージが、私の頭をよぎった。私は上を見上げてみる。霊力を視覚に回すと、大きな門の右に生えている杉の木に、20名ほどがしがみついているのが見えた。

 「なるほどね」

 「だろう。お前さんなら、大して警戒する必要もねえかもしれねぇが、鈴音はそうもいかねぇ。一度でも攻撃を受ければ、命に関わる。だから、あの怪異には注意しとけ」

霊能物語本編第六章「透石偉黎」第六節「透石家当主」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!

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