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霊能物語  作者: 野沙朝臣
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何もできない 語り手:陸奥守駿

 僕の霊能は何もできない。ただただ、自分が守られているだけだ。正直な所、副所長という位置でなければ、僕はここにはいられないだろう。第34支部は、研究期間という箕を被っているだけで、実のところ研究は今のところ行なっていない。白や鷹清はやっているようだけど、あの2人は性格的にそれが趣味になっているような気がする。他の面子は、空音も含めて、上からの指示でここにいるに過ぎないだろう。空音じゃないんだから、本当のことはわからないが。

 僕の霊能は霊能の無効化だ。自分の体に触れたもの、霊力で触れたものを任意で無効化できる。もともとは、強制的に霊能が常時発動していたから、これでもかなり頑張ったほうなのだが、僕のような野良の霊能力者が努力でカバーしてきた物も、家業としてやってきた大家の連中からしてみれば、大した功績ではないらしい。事実、僕は瑠衣や紅玉、槿花が使っている霊力を使って武器を生成すような事はできない。だから、能無しなんだ。


 「つまり、駿くんって戦えないんだ」

 空音は、僕の悩みを聞いて、そうまとめた。まとめられたことに多少の不快感はありつつも、騙りの霊能持ち相手にそれを感じても仕方あるまいと、僕は割り切った。

 「そうだよ。だから、戦闘の時はあまり役に立てないんだよね」

 「なるほどね〜。ふーん……」

 空音は相槌を打つと、期間限定で食後に出てくるというパフェを頬張った。ここの食堂のおばちゃんは優秀だ。機密をちゃんと守ってくれているし、ご飯は美味しい。お米1粒とっても、僕の100倍は余裕で超えてくるだろう。

 「で、なんで今、そんなことを言ってくるの?」

 空音は、僕にだけは容赦がない。当たり前のように無茶をさせてくるし、丸投げもしてくる。

 「いや。だから、蓋棺虚神の分身と瑠衣が戦った時……」

 「瑠衣ちゃん」

 空音は、ちゃんづけ、くんづけが好きだ。自分で呼ぶだけでなく、周囲にもそれを強要してくるのだから、かなりのものだろう。

 「蓋棺虚神の分身と瑠衣ちゃんが戦った時、僕は何もできなかったから……」

 「だから、自分も戦えるようになりたいってこと?」

 「うん」

 「ふーん……」

 実際のところ、空音はそれくらい聞くまでもなく知っていただろう。それでも、あえて口で言わせるということは、やはり、それが彼女にとっても、コミュニケーションということだろう。

 「このパフェを食べきるまでなら、その悩みに付き合ってあげてもいいよ」

 僕は、彼女が食べているパフェの残量を見る。もう半分もない。空音はまた、スプーンで大きくパフェを掬った。

 「短くない?」

 「当然でしょう?非戦闘員が、戦えるようになりたいだなんて、戦闘員の価値も下がるし、何より、駿くんが自分の価値を知ってないんだから」

 僕の価値?

 「駿くんの価値はね……」

 空音は、答えを言いかけて、止めた。

 「いいや。これは駿くんが見つけないとね。とりあえず、紅玉くんに聞いてみなよ」

 「紅玉に?」

 鷹清くんでも、槿花ちゃんでもなく?

 「そ、紅玉くんにね」

 なぜ、紅玉くんなのか、とかいう疑問は出てこなかった。これも、きっと騙りの霊能の効果なのだろう。

 「まあ、それで駿くんの今の悩みは、かなり消えると思うよ」

 空音は、そこまで言うとパフェの最後の一口をを大きく掬い、大口を開けて一気に口に入れた。2,3回、頬張ると飲み込み、「ごちそうさま」と言って席をたった。

 「あ、ちょっと」

 もう少し、聞いてくれと言いたかったが、空音は僕の方を向いてウインクだけして食堂のおばちゃんの方に行ってしまった。噂によると、騙りの霊能というのは、かなり頭を使うらしい。それが、ずっと続くのだから、かなりのエネルギー消費量だろう。間食が多いのに太らない理由は、霊力だけではないのかもしれない。

 「紅玉くん、ちょっといいかな?」

 正直、紅玉くんのことは苦手だ。真面目すぎる性格もそうだし、少し槿花ちゃんに傾倒しすぎているような気もする。だが、このどこからともしれない気味の悪さは、それだけではない。霊力量が、少なすぎるのだ。霊視を使えば、その気味の悪さはさらに存在感を増す。紅玉くんの霊力源や霊力回路は、実のところ、空音や白などの、霊力量のトップクラスたちと大差ない。だから、こんなに霊力量が少ないはずがないのだ。その証拠に、同じ構造をしている槿花は、かなり霊力量が多い。

 「なんですか?」

 紅玉くんは、槿花ちゃんと一緒にいた。男子寮なのに、槿花ちゃんは当然のようにいつも一緒にいる。まあ、槿花ちゃんほど強ければ、僕や鷹清くんが勝てるはずもない。

 「ちょっと、戦い方を教えてほしくて……」

 「はぁ」

 気の抜けた返事をして、紅玉くんは立ち上がった。あまりにも静かな立ち上がりと移動は、戦い慣れした戦士のそれだ。一歩、近づいてくるだけで、本能的なセンサーが警告音を鳴らす。

 「戦い方っていうのは、殴り合いのことですか?」

 槿花ちゃんが、僕に聞いてきた。

 「ううん。どっちかっていうと、護身できればいいから、柔術みたいなやつがいいかな」

 僕がそう言うと、槿花ちゃんは「うーん」と、首を傾げた。

 「アニメとか、映画とかの影響でしょうか、柔術が空手や合気よりも護身に優れているって、感覚が広がってますけど、それは、対人での話ですよ?」

 「そうなんだ」

 「対人なら……それも、1対1の状況であれば、確かに掴めさえすれば、柔道のほうが圧倒的に勝率は高いんですけど、一体多それも、対人でなければ、空手やボクシング、剣術やナイフを使った格闘術のほうが、まだ勝率は高くなります。合気は、一対多の対人戦向きですね。感覚が達人よりな分、少し勝率は下がりますが」

 槿花ちゃんが、いきなり饒舌に喋りだしたので、僕は少し面食らってしまった。大人しいイメージがあったせいか、僕は不快さを感じた。

 「それと、意識が1つにしか向かない人には、格闘技は難しいです」

 槿花ちゃんがそう言ったのと同時に、僕の鳩尾に衝撃と痛みが走った。

 「うぅ……」

 あまりの痛みに、僕は床にしゃがみ込んだ。呼吸ができなくなった。苦しい、痛い。循環器の活動が止まったかのようだった。

 「大げさですね、ちゃんと手加減しましたよ」

 紅玉くんがそう言った頃に、痛みが引き、呼吸ができるようになった。

 「俺、戦うことだけが得意なんで」

 下から見る紅玉くんの顔は、阿修羅のようだった。

 「戦闘の訓練がしたいんでしたっけ?いいですよ、駿さんになら、教えても」

 紅玉くんは、しゃがんで僕に視線を合わせてきた。

 「でも、俺、一度始めたら止まれないんで、死んでもその死体に教えますよ?」

 まずい人に頼んだかもしれない。そう思ったのは、かなり遅かった。紅玉くんは、僕の沈黙を校庭と受け止めたのか、槿花ちゃんに訓練場を開けるように言うと、僕を担いで訓練場まで歩いていった。道中、鷹清くんにあったが、鷹清くんは、面白いものでもみたかのように、スマホで写真を撮っていた。


 「まず、基本中の基本なんですけどね」

 訓練場の床に僕を放り投げると、僕が起き上がるのも待たずに、紅玉くんは喋り始めた。

 「霊力で武器、作れます?」

 紅玉くんは、例を示すように、彼の武器である双剣を出した。僕は首を横に振り、ノーを示した。

 「私、野良の霊能力者だから、そういうの、習ったことないんだよね」

 「そうですか。では、実物の武器を使いましょうか」

 紅玉くんはそう言うと、訓練場の倉庫をあさり、一振りのナイフを取り出し、僕に投げた。回転するナイフは、僕の前の床に刺さった。どうやら、ものすごい切れ味のようだ。

 「それはね、タクティカルナイフって言うんですけど、戦闘に適したナイフですね。警察とか、軍人がよく使ってます」

 僕は、目の前の床に刺さったナイフを抜き、グリップを握って振ってみる。すごく軽い。恐らく、訓練用のものだろう。

 「これを、どうやって使うんだい?」

 僕は、これを使って戦う自分を想像できなかった。

 「本当に素人なんですね」

 紅玉くんは、呆れたようにそう言うと、霊力で自分もナイフを装備した。全く同じ形状のナイフだった。

 「ナイフっていうのは、切るよりも刺すことに特化した武器なんです」

 ――まあ、切るのも得意なんですけどね。

 そう言うと、紅玉くんは、何回もナイフで空を突いた。綺麗に、真っ直ぐなフォームで繰り出される突きは、正確に一点をつき続けた。1、2、3、4……10、20……30回を過ぎた当たりで、彼の右手に握られたナイフが、正確に彼の心臓の位置を突いていることに気がついた。40回ほど突いた時、彼の態勢がおもむろに前屈し、見えない敵を追うようにして、上に下にとナイフが空を切った。

 「こんな感じですかね。まあ、俺も守備担当が戦えるようになったら、これからの戦闘もかなり楽だと思うんで、教えるのはやぶさかじゃないんですけど、駿さんは、まず霊能を勉強したほうが良いと思いますよ?」

 霊能を?何を言っているのだろうか。僕の霊能は無効化だ。コントロールができるようになったら、それがゴールじゃないのか。

 「ああ、わからない感じですか」

 「……」

 「霊能には、2種類あるんですよ」

 「2種類?」

 「個人が使える固有霊能と、霊力さえ持っていれば、誰でも使える一般霊能。駿さんの無効化は、駿さん以外に確認されてないんで、固有霊能ですね」

 そうだったのか。僕は、無効化以外の霊能も使えるのか。

 「訓練したら、一般霊能も使えますよ。例えば、この武器の生成とか」

 紅玉くんは、ナイフを消して、もう一度取り出すと同時に、僕に縮地的に近づき、ナイフを突き出してきた。額に刺さる直前でピタリと寸止したが、風が額をかすめた。僕の髪がナイフからの風でふわりと揺らいだのを見て、紅玉くんはにやりと笑った。

 「どっちをとります?」

 霊能物語本編第六篇第三話「何もできない」を語り陸奥守駿でお送りしました。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!

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