表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊能物語  作者: 野沙朝臣
48/57

2026年エイプリルフール特別編 石谷空音の嘘話

 石谷空音は、幼い頃に夢を見ていた。普通の女の子として、普通の人生を歩みたいと。しかし、それと同時にこの異端な人生を心の底から楽しんでもいた。自分は特別なのだと、普通の人とは違うのだと。テレビに出ている有名人とも、ネットにいるインフルエンサーとも。自分の特別さは、それを遥かに凌駕するものであると、信じて疑わなかった。たとえ、それが嘘に塗り固められた、誰もが決して、自分の姿を捉えることができないものであったとしても。


 「ねー、空音〜」

 「なに?」

 「空音達が持ってる霊能ってやつ、なんか便利なところとかあるの?」

 公園で偶然であった可愛らしい見た目をした高校生の鳥水は、突然そう切り出してきた。答えに困った空音は、「うーん」と会話を先延ばしにして答えを探ったすえ、口を開いた。

 「私の霊能は、何か特別便利なことがあるわけじゃないけど、持ってない人よりは便利だと思うよ?特に、対人だとね」

 空音は、出会ったばかりの少女相手に、うっかり口を割ってしまったことを後悔しつつも、当たり障りのない答えを出した。

 「対人だと?どういうこと?」

 鳥水は煙に巻かれたような答えに納得せず、さらに食い下がった。

 「私の霊能だと、人の心が読めるから、対人だとかなり有利だと思うな」

 人の心が読める、という言葉に、鳥水は水をかけられたような気分になった。

 「人の心が読めるって……、有利どころの話じゃないよ。神様と同じレベルじゃないの?」

 常日頃、人間関係で巧くやれていない鳥水からしてみれば、それは願ってやまない能力だった。

 「まあ、知りたくないことも、それだけ知っちゃうんだけどね」

 「それは……きついかも」

 口ではそう言いつつも、頭ではその事はとっくにわかっていた。好きな人の好きな人が自分ではないと知ってしまうとか、漫画やアニメに、腐るほどそういうキャラクターはいる。しかし、それすらも、鳥水には霞んで見えるほどのメリットだった。

 「でも、その副作用だって、利用できるんでしょう?」

 「まあ、利用できないことはないけど、利用したってしょうもないことしか解決できないんだよね」

 「例えば?」

 「例えば……」

 空音は食い下がる鳥水に少しの抵抗感を抱きつつも、例えを探した。その視線は、さっきから道路の向こう側で、こちらをチラチラと伺っている壮年の男性に行き着いた。その視線は、間違いなく空音自身と鳥水を捉えていた。無理もない、と空音は思った。空音自身は、霊能でその人にとって最も美しい姿を映しているし、鳥水も、どういうわけか、撒けず劣らずのすごく可愛らしい見た目をしている。少なくとも、空音には勝てないわけだが。

 「例えば、道路の向こうにいるあのおじさん」

 「はいはい」

 鳥水の眼は、返事とともに道路のを挟んだ反対側の男性に向いた。

 「さっきから私達を見ているけど、考えていることは、私達で妄想しているんじゃなくて、私達を値踏みしているみたい」

 「値踏み?」

 「裏社会で、私達にどれくらいの価値があるのか、仲間に相談しているみたいだね」

 東京の街は、人口が多いだけに、こういう反社の集団も多い。難癖をつけて空音と鳥水の2人を連れて行くくらい、彼らにとっては難なくできることだろう。普通の高校生が相手なら、だが。

 「そんなところまでわかるんだ」

 人は文字を読むときにも、音声を聞くときにも、脳で処理をしているわけだから、注意深く見ていれば空音の霊能にとって、何も難しい話ではなかった。

 「話がまとまったみたいだね」

 空音は、男が動き出したのを見て鳥水の方を見た。

 「どうする?」

 きょとんとした顔で、鳥水は「どうするって?」と聞き返した。

 「迎え撃つか、逃げるか。鳥水はどうしたい?」

 空音は、正直なところ、どちらでも良かった。戦ったところで空音が勝つし、逃げても逃げ切れる自信があった。難しいことはなにもない。男が道路を渡って空音たちの所に来るまで、30秒はあるだろう。

 「迎え撃つって言いたいところだけど、さすがに怖いから逃げる、で」

 「うん、わかった」

 空音は、鳥水の腰に手を回して、霊力を注ぎ込んだ。霊能が霊力をなぞって鳥水に影響を与え始める。鳥水の姿が変わり、可愛らしい見た目から一変、背が高く、美しいという言葉が似合う青年に変化した。

 「よし、腕くも」

 空音は返事を待たずに鳥水の腕をとった。

 「ちょっ」

 鳥水は少し抵抗したが、空音が腕をとって歩くほうが速かった。空音は少し後ろを振り返ると、男の頭が公園の生垣から見えていた。

 「行くよ」

 空音にはこの辺の土地勘はなかったが、とりあえず人の多い所に行けばいいだろうと、軽く考えていた。人の多い所に行けば、男の仲間だって、簡単に手出しはできなくなるはずだ、と。空音は、適当に道を進み、角を3回ほどランダムに曲がった。男はねちっこく、2人を付かず離れずの距離でずっと着いてきていた。

 「ちょっと、空音!そっちは……」

 男のあまりの気持ち悪さに、空音はいつの間にか早足になり、走っていた。空音の軽い走りは、鳥水にとって、全力疾走に等しく、鳥水はいつの間にかついていくので精一杯になっていた。鳥水が空音に忠告したのは、あまりにも遅かった。

 「おっと、姉ちゃん。危ないじゃないの」

 路地に入った空音たちの前に、巨漢が3人、空音と鳥水の前に立ちはだかっていた。後ろを、追いついてきた男が塞いでいた。空音は、腕を鳥水から離し、鳥水と巨漢の間に立った。

 「何か用?急いでるんだけど」

 鳥水に合図して、空音は鳥水を後ろの男に向けた。

 「いいや、急ぐ必要はないぜ。だって姉ちゃん達は、これから一生、同じところで働くんだからよ」

 もはや男たちにとって、建前などどうでもよかった。美味しい獲物が、自ら防犯カメラのない路地に入ってきたのだから。

 「ふーん……。なるほどね。()()()()後ろの男をお願いね」

 「え!?気づいて――」

 空音は、鳥水の返事を聞かずに、三角に並んだ巨漢の右奥の巨漢の腹に蹴りをいれた。巨漢の背骨が、嫌な音をたて、巨漢は気を失った。次に、すぐに左にいた巨漢の後頭部に、飛んで蹴りをいれると、巨漢は白目をむいて倒れた。鳥水は、男をあっさりと制圧していた。

 「鳥水くん、霊能が見たいんだっけ?」

 空音がそう聞くと、鳥水は「いいんですか!?」と、目を輝かせた。

 「いいよ。ただし、誰にも言わないでね」

 空音は、今の状況が理解できずに立ち尽くした、リーダー格の巨漢に近づき、巨漢の腹に触れた。

 「一番地味なやつだけど」

 空音は男の腹に触れた手に、寸勁のように力を込める。けれども、込める力は筋肉由来のものだけではない。筋肉由来の力を、霊力で倍増する。

 「何をして――」

 巨漢は、今更のように空音に掴みかかったが、時は既に遅く、力の塊を直に受け取った巨漢は、すぐに気絶した。鳥水から見れば、それは触れただけで倒したように映った。


 「いやあ、すごい力ですね、霊力」

 ヒーローを見た子供のようにはしゃぐ鳥水に、空音は適当な相槌をうつ。せっかく仲良くなった鳥水に、今からすることを考えたら、心はそこからいなくなった。

 「ねえ、鳥水くん――」

 「なんですか?空音さん」

 すこし、距離のある言葉に、空音は困惑したが、言葉を繋いだ。

 「楽しかったよ。ありがとね」

 「はい、僕もです」

 美しく、女の子のように可愛らしい少年の笑顔で、鳥水は答えた。

 「ばいばいです」

 空音は、少年の額をつつき、記憶を奪った。

霊能物語2026年エイプリールフール特別編「石谷空音の嘘話」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ