↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラスの覚醒者トラブル、全部裏で揉み消してます  作者: 津山直太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/6

第4話 日常を脅かす不自然な暴風

 金曜日の放課後、終礼のベルが鳴った瞬間、自分は胸の中で小さく勝利のポーズを決めた。


 今週も何事もなく切り抜けた。あとは速やかに下校するだけだ。


 普段の自分なら、放課後は静かに帰宅して、日課のゲームを少し触る程度だ。だが今夜ばかりは、わけが違う。


 今夜二十四時。大人気スマホゲーム『アルカナ・レジェンズ』の二周年超大型アップデートが解禁される。


 自分は一周年を過ぎた頃にこのゲームを始め、それから三百六十五日、一日もログインを欠かしていない。定期テストの前日も、四十度の熱にうなされた夜も、指だけは動かし続けた。貯め込んだ無料ガチャ石は、ちょうど九万個。天井分の三百連だ。

 さらに二十四時からは、一時間限定の全ユーザー協力型レイド『終焉の巨神』が開催される。討伐すれば、限定称号『開拓者』が手に入る。


 完璧なスケジュールだ。帰って夕飯を食べ、仮眠を取り、二十四時に備える。……はずだった。


 鞄に教科書を詰めかけたところで、視界の端に違和感が引っかかった。

 教室の最奥、窓際の席。普段は誰とも目を合わせない男子生徒、小林健太が、画面に吸い付くような必死さでスマホを操作している。


 親指のスワイプが異様に速い。背筋は不自然に伸び、口元には下卑た笑みが張り付いていた。視線の揺れ、浅い呼吸、張った胸。何かを手に入れて、誰かに見せつけたくてたまらない顔だ。


 予測できたのは、そこまでだった。直後、最悪のトラブルが幕を開ける。


「おい小林ー。今日の掃除、代わってくんね? これからカラオケ行くからさ」


 サッカー部の派手な男子グループのリーダー格が、いつものノリで小林の肩を叩く。普段の小林なら、「あ、うん、いいよ……」と弱々しく頷く場面だ。

 だが今日は違った。


「……触るなよ、ゴミどもが」


 教室の空気が凍りつく。


「あ? なんだお前、今なんか言ったか?」


「触るなと言ったんだよ、ゴミ屑どもがぁッ!」


 小林が右手を一閃させた。

 ズドン、と鼓膜を殴る破裂音。目に見えるほどの空気の歪みが、教室を駆け抜ける。


「きゃあああっ!?」


「な、なんだこれ!? 机が!」


 窓ガラスがビリビリと震え、机が薙ぎ払われ、教科書やプリントが吹雪のように舞い上がった。クラスメイトたちがパニックを起こし、悲鳴とともに教室を逃げ惑う。


 自分は倒れた机の影で目を見開いた。

 間違いなく異能だ。しかも、中学生の初期覚醒としては高ランク相当の衝撃波。


 まずい。冗談ではない。


 頭の中で、超高速の計算が回り始める。


 教室での異能暴走。通報は免れない。警察と異能対策班が到着すれば、クラス全員が重要参考人だ。端末は証拠品として一時提出、事情聴取は深夜まで続く。……二十四時に、間に合わない。


 一年かけて積み上げた九万個のガチャ石が。限定称号『開拓者』が。


 小林くんのイキり暴走ごときに、台無しにされてたまるか。


 ——カチリ。


 頭の中でスイッチが切り替わり、思考から雑音が消えた。


 廊下側に目をやる。騒ぎを聞きつけた生徒会役員、天宮凛が戸口に立っていた。パニックの渦の中で、凛だけが冷静に室内を見渡し、自分と視線を合わせる。


 真っ直ぐな視線が、無言で問いかけてくる。指示を、と。


 自分は周囲に気づかれない程度に、顎を数ミリ引いた。生徒を廊下へ。誰も近づけるな。そして、あなたはそこで待機を。


 それだけで、凛は完璧に意図を察した。


「生徒会です! 落ち着いて、廊下の奥へ避難してください!」


 通る声で逃げ惑う生徒たちを廊下へ誘導し、野次馬を押し戻す。最後に凛自身が戸口を塞ぐように立ち、いつでも異能を放てる位置で静かに構えた。


 よし。前衛は配置についた。


 自分は腰を抜かした気弱な生徒のふりのまま、小林のほうへじりじりと這い寄る。左手はポケットの中、ブラインドタッチで端末を叩いた。


 教室の防犯カメラを、過去の映像に差し替え。廊下の窓越しに撮影している生徒のスマホ録画を、一時フリーズ。


 イヤホンから、無機質な合成音が返る。


『——了解。三秒でジャック完了』


 その間も、自分は小林の観察を続けていた。


 おかしい。衝撃波は小林の指の動きに合わせて飛んでいる。机は倒れたが、人には一人も当たっていない。発現直後の中学生が、そこまで正確に制御できるはずがない。


 そして、小林が握るスマホの画面。濁った蛍光グリーンの光が明滅し、隅に渦を巻く目玉のようなアイコンが見える。凛の端末に入っていた、あの出所不明のアプリと同じ紋様だ。


 なるほど。自力の覚醒ではない。外部のアプリで、異能を不自然に押し上げられているな。


 自分は怯えたふりで声を震わせ、机の陰から呼びかけた。


「こ、小林くん……っ! す、すみません、頼むから落ち着いてください……! 自分、話を聞きますから……!」


 情けない命乞いの低姿勢。小林は衝撃波を纏った手をこちらに向け、恍惚の笑みを浮かべた。


「……影原、だっけ。お前も、俺と同じ教室の端っこ側だったよな。ハハッ、そんなお前が俺にビビってんのか。いい気味だ! もう俺は違う。このアプリで、『選ばれた人間』になったんだよ!」


 やはりアプリか。収穫だ。


 自分は伏せた顔の下で、温度のない笑みを浮かべた。


 外堀は埋まった。防犯カメラは改ざん済み、録画は無力化済み、廊下は凛が押さえている。


 さあ、小林くん。自分には、今夜二十四時という絶対に譲れない締め切りがあるんだ。手短に終わらせてもらうぞ。


 自分はゆっくりと顔を上げた。声から怯えが消える。


「……小林くん。本当に、それは『あなたの力』なんですか?」


 静かな一言が、荒れた教室の空気を切り裂いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。