閑話休題3 第一話 反省会
「で」
俺は、作業台の前に集まった三人を見た。
「何で集まった。此処に何の用だ」
いるのは、ハリエット、ハリス、ウォール。
ローティがいねぇな。あの白い坊主が一人いないだけで、用務員室はやけに静かになりやがる。
その代わり、奥の部屋。子供達が秘密基地と呼ぶ倉庫の方は、扉は閉まっているにも関わらず、少し騒がしい。中から、紙を擦る音と、話し声が聞こえる。何をやってんだか。
「ミコトさん、そこ押さえてほしいのよぅ」
「はい。ここですか?」
オーレリアとミコトだ。何を作っているのかは知らねぇ。知らねぇが、わざわざ扉を閉めているものを、こっちから開けるほど野暮でもねぇ。
それに扉の前に椅子を置いて、ヴァンのやつが腕組みして座ってやがる。あれは番犬だ。大人であれ誰であれ、絶対に入れない気だ。あんなもの、手を出すだけ、口を出すだけ面倒だ。仕事の邪魔にならねぇ間は、放置に限る。
それより今の問題はこっちだ。
「前回の件を踏まえて、反省会をします」
は?
「反省会だと?」
「はい」
「他所でやれ」
「あちらは立ち入り禁止なので」
真面目な顔で言いやがる。
「なら教室でも、食堂でも、カフェでも構わねぇだろ」
「次も、秘密の作戦なので」
このガキ共、また何か企んでやがるな。
「今度は何だ?」
「私からのお願いなんです」
ハリエット?
この子が言い出したなんて珍しいぞ。どうなってやがる。
「ロイ君の体験入学が、もうすぐ終わるんです」
あの赤坊主か。
「だから、その前に、ありがとうを言える場所を作りたくて」
「本人に言えばいいだろ」
「それは言います。でも、ちゃんと、皆で」
なるほど、見えてきたぞ。
赤坊主の送別会。これは嘘じゃねぇ。だが、それだけでもねぇ。奥で紙と格闘している記録好きの嬢ちゃんを、一人で寂しがらせたくない。そういう話だ。
それに嬢ちゃんの許嫁が赤坊主だったな。それで自分じゃ言い出し難ぇ友達に代わって、この子が言い出し役になったって話か。優しいねぇ。
「で、どの辺が秘密なんだ?」
「サプライズを仕掛けたいので」
ハリスは、姉ちゃんの為なら何でもする男だ。今回もやると言ったらやるだろうな。
「それで、なんでぼくまで呼ばれたの?」
茶色い坊主は、もう嫌そうな顔をしてやがる。
「ウォール。君は野営地で、見つかりそうなところを助けた」
「助けたというか、巻き込まれたんだけど」
「だから、今回は先に言っておく」
「今回は、って言ったね」
ハリスのやつ、聞こえてねぇフリをしてやがる。聞いてるくせに、都合の悪い言葉だけ拾わない。いい性格だぜまったく。
「ガキ共、確認だ。今回は危なくねぇな?」
「はい。それはもう絶対的に」
こいつが絶対的なんて言うからには、かなり信用できる。それに読めたぞ。
今朝、ローティのやつが「皇國将棋で、勝てなくても構わないから、とにかく戦いを長引かせる方法」なんてものを尋ねてきやがった。
つまり今、秘密保持の為に、ロイを足止めしているのはローティだ。それも皇國将棋を利用してやがる。まったくご苦労なこった。
やれやれ。
仕方ねぇ。単なるサプライズ・パーティーなら協力してやるか。
俺は作業台を引っ張り出して、棚から使いかけの紙と短い鉛筆を出して、その上に置いた。
「使え」
三人の目が、こっちを向く。
「火は使うな。釘箱には触るな。俺の名前を勝手に出すな」
「協力してくださるんですか?」
「場所を貸すだけだ」
ハリエットが、少しだけ笑ってやがる。
「ありがとうございます」
「礼は、赤坊主にバレなかったら言え」
紙の上で、鉛筆が走り始めた。
「それじゃ、ウォール。これが買い出しリスト」
「予算は?」
「お小遣いを出し合った」
小さな袋が、作業台の上に置かれた。茶色い坊主は、その中を覗き込んで、すぐに顔をしかめやがった。
「少ない」
「足りないか?」
「足りるようにはする。でも少ないよね。見た目を取るなら中央通り、量を取るなら市場。ロイが喜ぶのはどっち?」
あのガタイだ。量に決まっている。
「量だろう」
ハリスも同意見らしい。
「なら、量。高い菓子を少し買うより、安くて数があるものを選ぶ。飲み物まで買うと足りないから、お茶は食堂で出せるものを使う」
「おまえら、キャサリンに迷惑だけは掛けるんじゃねぇぞ」
食堂の話が出たので、思わず言ってしまった。
「大丈夫です。鉄のポットで貰って来ます。割れるカップは使いません。後は紙皿と紙コップで、洗い物も頼みません」
「まぁ、それならいい」
ウォールのやつ、どんな迷惑が考えられるか、先回りして潰しに来てやがる。こいつ、皇國将棋は弱っちいが、対戦相手のいる盤上で駒を動かすより、こういう一人で段取りを考えるような、詰め問題の方が向いているのかもしれねぇ。
「それと、ローティには買い出しを任せない方がいいと思うよ」
「なぜだ?」
「途中で食べちゃうかもしれない」
「同意する」
ハリスが迷わず頷いた。ハリエットも、否定しなかった。おいおい、ローティ、おまえの評価どうなってんだ。
「では、前回の反省を、今回に生かそう」
ハリスが真面目な顔で言った。
「うん。ばれないようにしないとね」
ウォールも、もう完全に乗ってやがる。ハリエットは、奥の扉を一度だけ見て、それから小さく頷いた。
「うん、内緒で」
まったく。
作業台の前で頭を寄せる三人を見ながら、俺は鼻で息を吐く。
こいつら、反省してねぇ。




