閑話休題1 第二話 逢瀬
オーレリアが、花壇に隠れていた。
裏庭の端。
背の低い花が並ぶ花壇の陰にしゃがみ込み、手帳を胸元に抱えて、じっと湖の方を見ている。
ミコトは少し迷ってから近付いた。
「オーレリアさん、何してるんですか?」
「観察なのよぅ」
オーレリアは、湖から目を離さずに答えた。
「観察」
ミコトも同じ方を見る。
湖には、小さなボートが浮かんでいた。
乗っているのは、ハリエットと、見知らぬ男の人だった。
男の人は大人に見えた。
落ち着いた姿勢で櫂を持ち、ゆっくりとボートを進めている。
ハリエットは向かいに座り、少し頬を赤くして、けれど嬉しそうに笑っていた。
水面がきらきらしている。
風が吹くたび、ハリエットの髪のリボンが小さく揺れた。
「……覗いてます?」
「観察なのよぅ」
オーレリアは訂正した。
手帳は開いていない。
ただ、目だけはしっかり湖の方を向いている。
「あの人が、エドワード様?」
「そうなのよぅ」
オーレリアの声が、少し得意げになる。
「ハリエットの許嫁なのよぅ」
ミコトはもう一度、湖を見た。
ハリエットは、いつもより少し背筋を伸ばしている。
けれど緊張しているだけではなかった。
嬉しそうだった。
困っている人を心配する時の顔とも、授業で慌てる時の顔とも違う。
大事な人の前にいる顔だった。
「あの二人は、政略結婚ですよね?」
「そういう側面もあるわね」
オーレリアは頷いた。
「家と家のこともあるし、立場のこともあるのよぅ」
「そっか」
ミコトは少し考えた。
「でも、ハリエットちゃん、嬉しそう」
「そうなのよぅ」
オーレリアの声が柔らかくなった。
「エドワード様は、ハリエットを大事にしているのよぅ。ハリエットも、エドワード様が好きなのよぅ」
湖の上で、エドワードが何か言った。
ハリエットが少し慌てて、それから笑った。
遠くて声は聞こえない。
でも、嫌がっていないことは分かった。
「年齢差、ありますよね?」
ミコトが言うと、オーレリアは不思議そうに瞬きをした。
「たった十六年なのよぅ」
「たった」
「そうなのよぅ」
オーレリアは当然のように頷いた。
「エドワード様は立派な方だもの。ハリエットが困った時も、ちゃんと待ってくれるのよぅ」
待ってくれる。
ミコトは、その言葉を小さく胸の中で繰り返した。
湖の上では、ボートがゆっくり進んでいる。
急がない速さだった。
ハリエットは、まだ嬉しそうに笑っている。
「そっか」




