閑話休題1 第一話 オハヨー・ゴザイマス。
「オハヨー・ゴザイマス。ヴァン=サン」
ミコトが、外国人になった。
違う。
最初から和之国人だと分かっている。
今まで、公用語を使っていなかったに過ぎない。それが今日は、様子が違った。
ヴァンは礼拝堂の入口で止まった。
手には、小さな箱の包みが一つ。
兄貴に頼まれたものだ。
エイデン神父へ持って行け、と言われた。中身は知らない。聞いても、知らんでえい、と返される。
だから持って来た。
礼拝堂には、エイデン神父とつばめがいた。
ミコトもいた。
長椅子の前に立ち、両手を胸の前で握っている。
顔は真剣だった。
ただし、言葉が変だった。
「オハヨー・ゴザイマス」
ミコトはもう一度言った。
つばめが軽く手を叩く。
「うんうん。さっきよりいいよ。けど、ちょっと固いね。もっと普通に」
「普通に」
「そう。朝に会ったら言うだけ。剣を抜くみたいに構えなくていい」
ミコトは頷いた。
そして、こちらを見た。
「オハヨー・ゴザイマス。ヴァン=サン」
「……おはよう」
返すしかなかった。
ミコトの顔が少し明るくなる。
通じた、という顔だった。
ヴァンは包みを持ち直した。
「エイデン神父」
「はい」
「兄貴から」
「ヴァルクさんからですか」
「ん」
ヴァンは包みを差し出した。
エイデン神父は、ごく自然に受け取った。
「確かに受け取りました。ありがとうございます」
神父なのに、隙がない。
「……別に」
あの兄貴の友達なら、そんなものか。
つばめが横から言った。
「せっかくだし、ヴァン君も練習に付き合ってあげなよ」
「なんで」
「相手がいた方が覚えるでしょ」
「おれは届け物に来ただけだ」
「うん。だから、ついで」
ついで。
便利な言葉だった。
ミコトは、少し緊張した顔でこちらを見ている。
ヴァンは帰っていいか考えた。
だが、包みはもう渡した。
「……何をすればいい」
つばめが笑った。
「朝の挨拶。もう一回」
ミコトが背筋を伸ばす。
「オハヨー・ゴザイマス。ヴァン=サン」
「おはよう、ミコト」
ミコトは一拍置いて、今度は少しだけ滑らかに言った。
「キョー、モ、ヨロシク、オネガイシマス」
「長い」
「長い、ですか」
「朝から言うには」
ミコトはつばめを見る。
つばめは笑っていた。
「まあ、丁寧ではあるね」
「丁寧」
「悪くはないよ。でも、相手がヴァン君なら、もうちょっと短くていい」
「短く」
ミコトは考え込んだ。
「オッス」
真面目だった。
「そうか、頑張ってるな」
「ドーモ、アリガト」




