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第9話:この世界にないもの

森の外れで、俺はスライム娘に向かって腕を組んでいた。


「エリーゼ、もう一回だ」

「は、はい……!」


傍から見れば、夜の森で少女に無理難題を押しつける不審な中年男性だ。


「じゃあ、いきます……」


エリーゼの体がぷるんと震えると、半透明の輪郭が少しずつ形を変える。

形作られる細い腕、丸い肩、柔らかな髪のようなもの。


おお、これはいけるのではないか?

と思ったの束の間、そこにはヒト型の何かが立っていた。


「……」

「……」

「たぶん違いますよね?」

「そうだな…なんか違うな」


目鼻立ちや体つきは悪くないのだが、どうにも不格好だ。


挿絵(By みてみん)


「す、すみません……」


エリーゼがしゅんとする。

俺は慌てて手を振った。


「いや、違う!悪くない!悪くはないぞ!」

「本当ですか……?」

「本当だ。方向性は合っている。非常に惜しい。あと少しだ」


これは嘘ではない。

少なくとも昨日よりは良くなっている。


「いいか、エリーゼ」

「君には才能がある」

「……才能」

「そうだ。まだ形になっていないだけだ」


これは思いつきではない。

スライム娘は形を変えられるのだ。

つまり、客の好みに合わせて体質や感触も変えられる。


まさに無限のカスタマイズ性である。

なんということだろう。


ここの連中は、この宝石を泥の中に放置していたのだ。

見る目がないにも程がある。


「一緒にやろう、二人で」

「由太さん…」

「俺が君の良さを見つける。君はそれを形にする」

「……はい」


エリーゼは少しだけ笑った。

その笑顔を見て、俺は思う。


- やはり、間違っていない。この子は売れる。いや、売ってみせる。


もっと正確に言えば、売るとか売らないとかいう話ではない。

この世界が見落としている価値を、俺が証明するのだ。


ーー


とはいえ、現実は待ってくれない。

翌日も俺は、ベルズの紹介先で下働きをしていた。


「おい新人!そこの桶、奥に運べ!」

「はいはい!」

「"はい"は一回!」

「はい!」


何だその小学校みたいな指導は…

俺は桶を抱えながら、店の奥へ向かう。


「ちょっと、由太ちゃん」


桶を運び終えたところで、背後から声をかけられた。

振り返ると、ナディアがいた。


「……なんすか」

「実は…ちょっと困ってることがあってね」

「ん?客と揉めたのか?」

「違うよ。そういうんじゃなくて……」


ナディアは少し言いづらそうに目を逸らす。

あの豪胆そうな女が、珍しく歯切れ悪い。


「最近、きついんだよ」

「何が」

「だから……その、仕事の時にさ」

「仕事の時?」

「痛いんだよ」


俺は一瞬だけ黙った。

なるほど。なるほどなるほど。

俺の中で、世界中の風俗体験が棚卸しされる。


東南アジアの安宿。南米の怪しい路地。ヨーロッパの妙に事務的な店舗。歌舞伎町のホテルで聞いた嬢の愚痴。


そうか、この世界には…ないのか、"あれ"が。


いや、もしかしたら一部にはあるのかもしれない。

だが、少なくともこの辺境の置屋には流通していない。


俺の頭の中で鐘が鳴った。

村の鐘ではない。商機の鐘である。


「少し待ってろ」

「は?」

「俺が何とかする」

「アンタが?」


訝しむのは当然、俺はただの下働きである。

桶を運び、シーツを替え、親方の顔色をうかがうだけの存在だ。


だが、彼女は知らない。

この男が、世界中の風俗を開拓してきた気高きレビュワーであることを。


そして何より。俺にはーー


ーー


その夜、俺は森の外れに走った。


「エリーゼ!」

「は、はい!?」


エリーゼは驚いて、ぴょんと跳ねた。

スライム娘が跳ねると、本当に跳ねる。可愛い。


いや、今はそれどころではない。


「液体を作れるか?」

「え?」

「君の体から、少し粘り気のある液体を出せるか?」


言ってから気付いたが、ものすごく最低な質問である。


夜の森で少女に向かって、体から粘液を出せるかと詰め寄る男。

常識の範囲では完全に通報案件だが、俺は常識を超えるのだ。


「えっと……できます」

「本当か!」

「はい。スライムなので……」


なんてことだ。この子は、自分の価値に気付いていない。


「粘り気を変えられるか?」

「少しなら」

「乾きにくくできるか?」

「やってみます」

「匂いは?」

「たぶん……抑えられます」

「…天才かよ」


エリーゼは、相変わらずきょとんとしている。

俺だけが見つけてしまったのだ、この世界の金脈を。


「エリーゼ」

「はい」

「作ろう」

「何をですか?」

「この世界にないものだ」


夜空を見上げれば星が瞬いている。

その点と点を結べば、相変わらずおっぱいの形に見えた。


挿絵(By みてみん)


だが今夜は、少し違う。

これは発明の夜だ。

第9話を読んでいただき、ありがとうございます。

リアクションあると頑張れるので、1ポチでもメッチャ喜びます!


引き続き、応援よろしくお願いします。


2026年5月10日 堀辺由太

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