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第10話:きたれよ確変

俺たちは、意気揚々と"あれ"の開発に取りかかった。

エリーゼの粘液を商品化するという、一攫千金の大型プロジェクトである。


しかし、試作は想像よりも難航した。

最初にできたものはサラサラすぎて、ただの水だった。

次にできたものはネトネトすぎて、もはや飴である。


「これ、どうですか?」

「これじゃ……武器だな」

「武器?」

「投げたら敵の動きを止められる」

「だめですよね……」

「だめではないが…今は必要ないな」


三つ目は匂いが強すぎた。

四つ目はなぜか光った。

五つ目は俺の手から離れなくなった。

それを十分ほど二人で笑いながら引っ張った。


エリーゼが笑う。俺も笑う。

その笑い声が夜の森に溶けていく。


貧乏で、情けなくて、明日も下働きで、ライツは戻らない。

それでも、この時間は悪くなかった。


「もう一回やってみます」

「おう」


何度も試す。

粘度を変え、量を変え、匂いを抑え、持続を試す。

そして夜の空が白み始めたその頃。


「……これだ」


ようやく指先に残る滑らかな感触の"あれ"ができあがった。

水でも油でもない。重すぎず、軽すぎず、乾きすぎない。


「できたんですか?」

「ああ」


俺は近くの竹を切り、筒にしてそれを詰める。

これで完成だ。


挿絵(By みてみん)


その商品を前に俺は興奮していた。


「エリーゼ」

「はい」

「これは売れるぞ」

「で、なにを作ってたんですか」


何の説明もなく手伝わせていたことに今更になって気が付いた。

本当に、この子は…。


俺はわざとらしく咳ばらいをして、決め顔でこう言った。


「ローションさ」


ーー


明くる日、俺はナディアに竹筒を渡した。


「なんだい、これ」

「試してみろ」

「変なものじゃないだろうね」

「変ではあるが、悪いものじゃない」

「ふーん。まあ、由太ちゃんが言うなら」


そう言って、ナディアは竹筒を受け取った。


数時間後、俺が床を拭いていると彼女が奥から出てきた。


「アンタ」

「なんだ」

「これ、もっとあるかい?」


この瞬間、俺は心の中で小さく拳を握った。


「あるよ」

「いくらだい?」

「……」


値段を考えていなかった。

商品の価値に酔いしれ、金額という現実を後回してしまった。

だが、ここで動揺してはいけない。


「初回は試供品。値付けはこれからだ」

「ふーん。由太ちゃん、商売する気だね」


ナディアはニヤリと笑う。

その目は既に、昨日までの下働きに向けられていたものではない。


ーー


その日の夜、俺は例の立ちんぼゴブリン娘たちにも竹筒を渡した。


「あ、お兄さんだ!」

「この前戻ってこなかった人だ!」

「本当はお金なかったんでしょ〜」


やめろ。無邪気な刃物で刺すな。


「今日は客じゃない。これを試してほしい」

「なにこれ?」

「仕事に使える道具だ」

「どういうこと?」


三人娘は顔を見合わせる。

疑い半分、好奇心半分。

俺は簡単に使い方をレクチャーした。

そして数時間後、彼女たちから反応が返ってくる。


「これすごい!」

「ぬるぬるだった!」

「もっと欲しい!」


三人が揃って詰め寄ってきた。

俺は腕を組み、できるだけ冷静な顔を作る。


「だろう」

「売ってくれるの?」

「もちろんだ」

「いくら?」


値段はまだ決めていない。

けれど、少しだけ考えていた。


「価格は、これから決める!」

「えー!」

「実は、まだ何個用意できるか分からないんだ」

「確かに、見たこともない品だもんね」

「そう、作るのが凄く難しいんだ」


どうかね、これが希少性の演出なのだよ。


ーー


その夜、俺はエリーゼの元へ戻った。


「どうでしたか?」


不安そうに訊ねるエリーゼに向けて、俺は竹筒を掲げた。


「大好評だ!」


エリーゼの顔がぱっと明るくなる。


「本当ですか……?」

「ああ。本当だ」

「私、役に立ちましたか?」

「立ったどころじゃない」


俺は言った。


「君がいなきゃ作れなかった」


エリーゼは目を伏せる。

泣きそうなのか、笑いそうなのか分からない顔だった。


「私の粘液…気持ち悪くないですかね?」


その小さかな声に、俺は一瞬だけ黙った。

そして、できるだけまっすぐ答える。


「気持ち悪いわけないだろ」

「……」

「君の粘液は、女性たちの体を守れる」


エリーゼが俺を見る。


「それは、すごいことだ」


夜の森に、沈黙が落ちた。

俺は少し照れ臭くなって、頭をかいた。


「まあ、あれだ」


格好つけすぎた気がする。

こういう時の俺は、だいたい余計なことを言う。


「エリーゼを見出した俺もすごいんだけどな」


エリーゼが小さく笑う。


「由太さんらしいです」


そうか?俺らしいのか?

よく分からないが、悪い気はしなかった。


その夜、俺たちは二人で竹筒に液体を詰め続けた。


月明かりの下、スライム娘が生み出した透明な液体を、無職同然の中年男がせっせと容器に移す。


この光景を美しいと言うには、多少の勇気がいるだろう。

だが、そんなことは関係ない。


-さあ、確変の時だ!

第10話を読んでいただき、ありがとうございます。

平日は20時頃の1投稿の予定です。


引き続き、応援よろしくお願いします。


2026年5月10日 堀辺由太

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