第5話:戻ってきた天国の門
天国の門の前で寝ていると気が付けば明け方だった。
「起きましたか?」
「ふぇ?」
俺はまだ上手に開かない眼を擦る。
少しずつ視界が晴れて、記憶が戻ってきた。
俺の目の前には、赤い制服に身を包んだ男が立っている。
どうやら衛兵のようだ。
「なんでこんなところで寝ているんですか?」
「いや、行くところもなくて」
「あなた死んで下界から来たんですよね?」
「そうですけど」
「なら、門の中に入ればいいでしょ?」
は?こいつ、今なんて言った?
「え、どうやって入るんですか?」
「いや、普通に入れるでしょ」
「こんなバカデカい門をどうやって...」
「これは大型種用の門ですよ」
「え?」
「人間はこっち」
衛兵に導かれて20メートルほど行く。
そこには小さな門があった。
「いや、トリックアートかよ!」
ツッコミには目もくれず、衛兵は去っていく。
去り際に衛兵が一言だけ注意を添えてくれた。
「変な人に声掛けられても無視してくださいね」
注意看板でも出しときやがれ、クソが。
小さい方の門の前には文章が書かれていた。
何の文字かは分からないが、天才の俺には自然と理解できた。
『死んで下界から来た者は門をくぐり宮殿へ向かえ』
まったく、スポーン地点の座標くらい調整しろってんだ。
この世界の設計者はエンジニアリング技術に乏しいとみえる。
木製の門をくぐると、そこは庭園のようになっていた。
その中心には宮殿が見える。
宮殿の入り口には、既に5人ほどが並んでいた。
ちっこいオッサンやエイリアンみたいな奴らだ。
「次、どうぞー」
5分くらいの間隔で次々に呼ばれていく。
「次、どうぞー」
「お、やっと俺の順番か」
宮殿に入ると、だだっ広い空間に豪華絢爛な装飾がずらりと並ぶ。
そして、その中央に構えられた玉座には人が座っていた。
「ようこそ、天国の門へ」
「な...」
俺は息をのんだ。
玉座の主に、完全に目を奪われてしまった。
玉座には女が座っていた。
実は、それは外にいた時から声で分かっていたことだった。
なのに、俺の目が釘付けにされたのはなぜか?
理由は簡単だ。
そこにいたのは正真正銘の女神だったからだ。
しかも、おっぱいバインバインのドチャクソしこい姉ちゃんだ。
「あなた、人間よね?」
「え、あ、はい」
「そしたら天国に行けるけど、行く?」
「え!?いけるんすか」
「ええ、いけるわよ?」
ちょっと待て、急展開が過ぎる。
そんな上手い話があってたまるか。
いいか、必ず上手い話には裏があるもんだ。
ソースは俺。
「ちなみに、天国ってどんなところですか?」
「どんな望みでも叶うところよ」
「あの、それは...エ...エロいことでも?」
「エロいことでもよ」
なんてこった。
そこは天国か?
ん?というか。
今までいたのはどこだったんだ?
「ここは天国じゃなんですか?」
「ええ、天国じゃないわよ」
「...」
「ここは"天中界"。天国は"天上界"だもの」
「...」
「当り前じゃない?ここは"天国の門"なのよ?」
「...」
俺は、ベルズとの会話を思い出していた。
『お兄さん天国初めてでしょ?遊んでいきましょうよ?』
『そりゃ人間以外もいますよ。天国ですから』
あの野郎!前提から騙してやがったのか!!!
エリーゼに癒してもらった怒りが再燃してきやがった。
「で、どうする?行くの?天国?」
「もう一つだけ質問しても?」
「いいわよ。いくつでも。どうせ暇だし」
暇なのかよ...。
「天国に行ったら、もう戻ってこれないんですか?」
俺はエリーゼとの約束を思い出していた。
そして、ベルズへの復讐の誓いも。
「いつでも戻れるわよ。往来は自由だもの」
「マジっすか?」
「マジっすよ」
デメリットはなしか...。
そしたら、天国行ってから考えればいいか。
「決まった?」
「じゃあ、天国行きます」
「じゃあ、ライツ出して」
「ライツ?」
「手出して」
「はい」
ベルズに言われた時と同じように手を出す。
女神は空中を指でなぞると、あの時と同じように手が光った。
しかし、女神は何やら首をかしげる。
「ん?ライツはどうしたの?」
「え?ライツって?」
「天国行きのチケットよ」
「...」
「人間として一生を終えると天国へ行く権利が貰えるのよ」
「...」
「もしかして、誰かにライツあげちゃったの?」
「...」
「もしかして、キャッチに騙し取られたの?」
「...」
「もしかして、あなたってバカなの?」
「...」
女神はゲラゲラ笑った。
腹を抱えたまま、追い打ちの煽りを浴びせる。
「どうする?下界に新しい命として転生できるけど?まあ、そしたらミジンコから徳を積み直すことになるけどね。また人間に生まれるまでには何周かかるのかしら」
このクソアマ...子宮に44口径マグナムでもぶち込んでやろうか。
「あー、久しぶりに笑ったわ。とりあえず、この天中界で暮らしてみたら?ライツを買い戻せるかもしれないし。もし気が変わったら下界にはいつでも転生させてあげるから」
「...わかった。そうするよ」
「天中界に残る人の出口はあっちよ」
俺は無言で頷いて、女神に背中を向けた。
とぼとぼと歩く俺の背中に女神が嘲笑混じりのエールを送っているが、もう耳には届かなかった。
門の外に出た俺は日の登った空に誓いを立てる。
「あのクソ女神、いつか絶対に孕ませてやる」
第5話を読んでいただき、ありがとうございます。
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2026年5月8日 堀辺由太




