第6話:ソコから始める風俗雑用
この世界に残った俺は、3つの"大きな目標"を立てることにした。
①全ての種族の女の子と"ムフフ"をすること
②コケにした連中に対して復讐をすること
③ライツを買い戻して天国に行くこと
しかし、それらを成す前に避けては通れぬ話がある。
人とはかくも悲しきかな。
こんな状況でも腹は減る。
死んでも、騙されても、発情しても、絶望しても。
- 当座の生活基盤を確保する
そんな"小さな目標"が立ち上がった。
ここまでの人生を総括してみても、これほどまでに地に足のついた目標はなかった気がする。
世界を股にかけた風俗レビュワー。
異世界での華麗なるデビュー。
そして、ゴブリンとの死闘、女神との邂逅。
それら全てを経て辿り着いた結論が「金がない」だ。
あまりにも人間らしい。あまりにも情けない。
「...で、どうするか」
天国の門の外。
朝の光に照らされた雲海の上で、俺は腕を組む。
こうなると"労働"という選択肢が、いよいよ現実味を帯びてくる。
だが、この世界における労働とは何だ?
右も左も分からぬ異世界人が、いきなり就職などできるものか。
履歴書は?職歴は?志望動機は?
「御社の風俗に感銘を受けまして――」
落ちるに決まっている。
というか、こんな状況を作ったのは"あいつ"だ。
なら、"あいつ"に落とし前をつけさせるのが通りである。
「...探すか」
俺は門の周囲を歩き回った。
どうやら城壁は円の形をしており、宮殿をぐるっと一周しているらしい。
外周を歩き続けて8時間。
泣きの3周目を終えようとしたその時である。
「……いた」
俺の天国行きのライツを騙し取り、メスゴブリンの生け簀に叩き落とした張本人。
悪虐非道の鬼畜キャッチ野郎。
ピポラス・ベルズガッド。
相変わらず初見の死人に声をかけてやがるな。
「お兄さん、今日はどんな遊びを――」
俺は無言でベルズの前に立つ。
ベルズの目が、わずかに細まる。
「...おや、これはこれは」
営業スマイルが剥がれ、薄く笑う。
「兄さん、生きて――いや、死んでましたね。ご無事で何よりで」
「ふざけんなよ」
一歩、詰め寄る。
怒りはある。殺意もある。
だが、それ以上に――
「俺のライツはどうした」
「さて、なんのことやら」
とぼけた態度に今にも拳が出そうだった。
しかし、ここで殴りかかるのは三流だ。
俺は一流のレビュワー、経験値が違う。
一拍置いて、ゆっくりと息を吸った。
そして――
俺は膝を折って、深々と頭を下げる。
自分でも驚くほど、スッと体が折れていく。
額が地面にめり込むほど、美しい土下座だった。
一連の所作は、舞い散る桜のように優美で儚かったに違いない。
「.......頼む」
身体からも精神からも抵抗は一切なかった。
人間、プライドで飯は食えないのだ。
「...仕事をくれ」
ベルズはしばらく何も言わなかった。
やがて、くくっと喉の奥で笑う。
「いやぁ...これは驚いた」
「......」
「兄さん、本気ですかい?」
「笑いたきゃ笑えよ」
ベルズはしばらく俺を眺めていたが、やがて肩をすくめた。
「これはあっぱれ!やはり旦那は一味違う!」
「......!」
「ただし、条件がありますぜ」
「なんだ」
「下働きから」
俺は首だけで頭を起こして、ベルズを見上げる。
「掃除、雑用、使い走り。客の案内、嬢の管理、トラブル処理。まあ、要するに何でも屋ですな」
「......」
「当然、給料は雀の涙。自ら望んで働くような場所じゃあねぇー。それでもやりやすかい?」
なるほど、地獄だな。だが迷いはない。
「やらせてくれ」
ベルズは俺の顔を覗き込んでニヤリと笑う。
その瞳には俺の情けない顔が映っていた。
「いい顔になりましたね、兄さん」
「うるせえ」
「じゃあ、契約成立ということで」
ベルズが指を鳴らすと、どこからともなく小柄な男が現れる。
「こいつが現場の責任者です。今日から兄さんの上司になります」
「よろしくお願いします」
機械のような無表情からは、嫌な予感しかしない。
「じゃあ兄さん」
ベルズが俺の肩を叩く。
「地獄へようこそ」
「......ああ」
俺は小さく笑った。
地獄、上等じゃねえか。
「見てろよ、ベルズ。ここからだ。ここから俺は必ず成りあがるぞ」
「期待してますよ、兄さん」
ベルズは一瞬だけ目を細め、すぐに笑顔に戻る。
意気揚々だったが、その時の俺ははまだ風俗を"客側から"しか見たことがない。
それ故に、ベルズの笑顔の意味を理解できていなかったのである。
読者諸君よ、君たちに分かるだろうか?
ー 底辺風俗店の下っ端は"ナニ"をさせられるのか
第6話まで読んでいただき、ありがとうございます。
人生初投稿から2日目、100人近い人に見ていただき感激しています。
先まで書き溜めているので、ブックマークして続きも楽しんでもらえると嬉しいです。
2026年5月9日 堀辺由太




