第4話:震える君の
夜の森、俺の方をそっと覗く不気味な影。
本来は恐怖心を抱くべきでだろう。
しかし、今は醜態を覗かれた羞恥心が勝っていた。
「誰だ!?」
「ひゃう!」
またしても、それは女性の声だった。
しかし、先ほどのゴブリン娘と比べると幼さの残る声色だ。
振り返った先に、その声の主が立っていた。
そして、少し怯えた表情でこちらを伺っている。
「スライム...娘...だと?」
俺の心のキャンドルに小さな火が灯った。
そんな気がした。
「あの...大丈夫ですか?」
「いや...その...」
「どうされました?お話聞きましょうか?」
彼女の優しさが染みる。
なるほど、これが噂に聞く最強の口説き文句か。
「実は...」
俺はこれまでの事の顛末をスライム娘に打ち明けた。
きっと心が弱っていたのだろう。
気が付くと俺は泣いていた。
若いデリヘル嬢の顔面騎乗で窒息死して
天国の門の前で悪徳キャッチに騙され
メスゴブリンに強姦されて
メスゴブリンを超絶技巧で絶頂させ
ゴブリン娘に誘惑されて
去り際におっぱいを触らせてもらった
あれ、別に何も泣くようなことないんじゃね?
しかし、スライム娘は俺の話を真剣に聞いてくれた。
時には頭を撫で、胸に顔を埋めさせてくれたのだ。
ひとしきり泣きはらした後に、ふと俺は思い至る。
さすがに自分の話ばかりしては申し訳ないのでは?
明々白々に今更ながらも、俺はスライム娘に訊ねる。
「君の名前は?」
「私はエリーゼです」
「エリーゼは、ここで何をしてるの?」
「一応...客引きです...」
なんということだろう。
彼女も売春婦だったのだ。
「あ、でも、今は金がないんだ...」
「はい、先ほど聞きました」
「ごめん...」
「いえ、全然、気にしないでください」
エリーゼは下を向く。
その表情は暗く、何か事情がありそうだ
「実は私…まだ一人もお客さんを取れたことなくて…」
「え、そうなの?」
「スライム娘なんて、買ってくれる人いませんから」
「そうなの?」
「そうですよ?だって気持ち悪いですし」
気持ち悪い?
誰が?
俺はIQ69億の頭脳をフル回転させた。
そして、一つの残酷な結論に至る。
スライム娘は、この世界では嫌悪される対象なのだ。
こんな夜の森の中で彼女は一人。
きっと人前に出ていくことも憚られるのだろう。
それならば、俺が彼女にかける言葉は一つだ。
「そんなことない。エリーゼは素敵だよ」
「ふふ、ありがとうございます」
彼女はぎこちなく笑った。
きっと、俺の言葉を社交辞令として受け取ったのだろう。
- 俺に金があれば、この子を買って本気だと伝えられるのに
「必ず…必ず君を買いにくるよ」
「えへへ、楽しみに待ってますね」
彼女は、先ほどより少しだけ自然に笑った。
その表情が胸をギュッと締め付ける。
そして...
-エリーゼの心からの笑顔が見たい
俺は、そう思ったんだ。
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その後、エリーゼに帰り道を教えてもらい、俺は天国の門に帰ってきた。
夜の闇の中で見ると、城壁の灯籠の明かりでより一層の荘厳さである。
俺は"卑劣キャッチ野郎"のベルズに落とし前つけさせようと辺りを探した。
しかし、当然ながら俺が戻ってくる可能性が高いのに居続けるわけがない。
歩き疲れた俺は門の壁に座って寄りかかり、星空を見上げた。
あの点と点を繋ぐと、おっぱいの形になるな。
そんな下らないことを考えているうちに、静かに眠りに落ちていく。
しかし、その安らかな眠りを遮る輩がいた。
「ちょっと、起きてください」
第4話を読んでいただき、ありがとうございます。
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2026年5月8日 堀辺由太




