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38話:ご唱和ください

俺たちは、3日間の臨時休業をした。

事前通告なしのオマケ付きである。


その間、ローション提供と湯屋の営業は完全ストップ。

湯屋は無料だからいいとしても、ローション提供は予約制だ。

しかも、提供せずに沙汰もなしである。


- さあ、ここからが大変だ


ーー


3日休んで全回復した俺とエリーゼは、ゴブリン三人娘の元へやってきた。

エリーゼは完全人型擬態に戻っている。


「あ、エリーゼさん!」

「エリーゼさん!大丈夫?」

「元気に…なった…?」


俺のことは完全無視であるが、まあ彼女たちは仕方ないだろう。


三人は、倒れたエリーゼを家まで連れ帰ってくれた。

ラトリアは看病をして、デヴィとチェルシーは俺を探し回った。

感謝のしようもない。


エリーゼは、申し訳ないような、照れたような。

そんな笑顔を見せた。


「その節は、ご迷惑をおかけしました」

「いいのよ。働かせすぎた由太さんが悪いんだから」

「そうそう!お兄さんが悪い」

「うん。堀辺の頭が悪い」


俺が悪者にされているが、反論の余地もない。

てか、デヴィが毒舌になっていないか?

まあ、友好の裏返しとしておこう。


それよりも、俺たちにはやるべきことがある。


「エリーゼ」

「はい」


俺とエリーゼは目を合わせて頷く。

そして、3人に向かって大きな声で一言。


「「申し訳ございませんでした!!!」」


村はずれの大通り。二人の声が響く。

そこには、二つの綺麗な曲がった直角の最敬礼があった。


当然、三人娘は驚いていた。

その反応は三者三様であった。


「ちょ、え?なんですか?」


ラトリアは、こういうのには結構弱いらしい。

ダークグレイの髪を手櫛で耳にかけ、視線を泳がせる。


「いいよいいよ!気にしないで!」


チェルシーは、白いパッツン前髪の下で、真ん丸の目を細くさせる。

彼女の溌剌さには、救われるものがある。


「堀辺、うるさい」


デヴィは、先ほどから変わらず、最短最速の鋭利な切り返しをみせる。

紫の長い髪が揺れる。切れ長な目は涼しげだが、いつもより楽しそうだ。


俺とエリーゼは顔を上げる。

そして、全員が大きな声で笑った。


そこにいたのは、"売春婦"と"ローション売り"ではなかった。


笑って許されることもあるだろう。

ただ、許されないこともある。

けじめは付けなければならない。


「前金で貰っていた金は上乗せして返すよ。すまなかった」


その言葉を聞きき、今度は三人が顔を見合わせて頷く。

最初に口を開くのは、いつもラトリアだ。


「お金はいらないので、ヌルヌルを持ってきてください」

「いいのか?」

「もちろん!埋め合わせはしてもらうけどね!」

「埋め合わせ?」

「ヌルヌル三日分だ。無料にしろ。堀辺」


3日分だと100万ポニカ。

なるほど。返金よりもいい値段だ。


これを考えたのはラトリアだな?

まあ、これが俺たちへの気遣いなのは言うまでもない。


その返答はエリーゼに任せよう。

この3日で営業トークも教えたからな。


エリーゼは満面の笑みで一言。


「今後とも、ご贔屓に!」


ーー


俺たちはゴブリン三人娘と別れて、ナディアの元へ向かった。

三人娘、特にデヴィは別れ際にニヤニヤしていた。


- はて?なにが面白かったのだろうか?


元職場の前でナディアを待つ。

暫くして出勤してきた彼女は、俺を見つけるなり駆け寄ってきた。


「大丈夫かい?倒れたんだって?」

「迷惑かけた。申し訳ない」

「いや、由太ちゃんじゃないよ。エリーゼちゃん」


ナディアも俺の扱いが雑になってはいないか?

女の子に無理をさせると、風当たりが厳しくなるらしい。


- はて?なぜナディアはエリーゼが倒れたことを知っているのだろうか?


「ナディアに伝えてないよな?」

「聞いてないのかい?三人のゴブリン娘が、わざわざ私の所に来たんだよ」


三人のゴブリン娘…


「あの子たち、由太ちゃんのヌルヌルを買っている人を探し回ってたんだよ」

「それで、私の所にもやってきて。って、どうしたんだい?」


俺の手を誰かが軽く握る。

スライムではなくなった、温かい手だった。


挿絵(By みてみん)


「由太さん」

「ああ、ごめん。そうだったのか、知らなかったよ」

「お礼言っときなよ」

「ありがとう。そうするよ」


握られた手の力が少し強くなる。

その手の主の方を見ると、彼女は笑いながら頷く。


そして、今回も同じように大きな声で一言。


「「申し訳ございませんでした!!!」」


ナディアは一瞬驚いて、呆れたように笑う。


「仲がよろしいことで」


ーー


最後はトロイカに会いにタリアンまでやってきた。


トロイカを待っていると、別の知っている顔の亜人がやってくる。

この村で一番の高級店でNo.1の座に着く、リギリトゥだ。


「あんたたち、もういいの」


相変わらずの無表情だが、確かな配慮のある言葉だった。


「ああ、迷惑をかけた」

「私はかかってない」

「それでもだ」

「馬鹿だね」


それだけ言い残し、リギリトゥは店の中に消えていく。


「リギリトゥさん。不思議な方ですよね。格好いい」

「そうだな」

「私も真似したら売れるようになりますかね」

「は?」


いや、この子は何を言ってるんだ!?


「エリーゼには向いてない!リギリトゥの真似なんかするな!」

「ふふふ」

「え?」

「冗談です」


エリーゼはニヤッと笑う。

その子供っぽい笑いは、デヴィから学んだのかもしれない。


というか…


- 俺、からかわれてる!?


「エリーゼ。そういう悪いところは真似するな!」

「悪いところって、どこですか?」

「俺で遊ぶことだ!」

「別に遊んでないですよ~」


エリーゼは楽しそうだった。

他の子たちを見て、堀辺由太の扱いは雑で良いと知ったのかもな。


「ねえ、お店の前でなにイチャイチャしてんのよ?」


振返ると、そこには不機嫌なトロイカがいた。

あ、やばい、詰んだ。


「や、やあ。トロイカ」

「なに?元気になったわけ?」

「ああ、おかげさまで」

「あっそ。まあ間に合ってよかったわ」


間に合う?何か期限でもあるのだろうか?


「今日は持ってきてるのよね?」

「あ、ごめん、今日はない」

「は?じゃあ、なにしに来たの?」

「いや、謝りにだな」

「謝罪はいらないの。商売なんだから」


トロイカはぴしゃっと言う。

それは優しさでもあり、ビジネスの厳しさでもあった。


「まあ、少し休んで元気になったし、今日はなしでも大丈夫か」

「トロイカも体調を壊していたのか?」

「は?あんたたちが3日休むっていうから、私たちも休んだのよ」

「な、なんで?」

「ラトリアがそう言ったのよ。別に、あんたたちに気を遣ったわけじゃないんだからね。ちょうど良いし、みんなで休もうって話になっただけ」


なんということだろう。

トロイカが、急にツンデレを発動してきたのだ。


いや、そこではない。

俺たちのローションがないことで、みんなが休むという選択をしたのだ。


「悪かった」

「だから、謝罪はいらない。他に何かあるでしょ?」


トロイカは、美しい決め顔で見くだすように笑う。

この子は振り幅がデカすぎるんだよ。


「10本分を無料にする。それでいいか?」

「3日だから30本」

「ふざけるな。10本無料。そうじゃないなら、お前には売らん」

「ちぇっ。10本で手を売って上げる」


思いのほか、あっさりと引き下がる。


もしかして...。

卸値を決めるときも、無茶承知の吹っ掛けだったのではないか?!

やはり、侮ってはいけない相手。異世界要注意リストに追加だ。


一方のエリーゼは、始終黙って聞いていた。

話がまとまると、やっとその口を開く。


「由太さん」

「分かってる」


トロイカは、謝罪はいらないと言った。

相手が要らないというのだから、不要なのだろう。


それでも、俺とエリーゼは"今日の約束"を果たす。

本日最後の大きな声。


賢明な読者諸君は、もうお気付きだろう。

では、皆様もご唱和ください!


「「「申し訳ございませんでした!!!」」」


トロイカは、ピンクの星空のような目をギュッと細める。


「だから、謝罪はいらないって」


その言い草は、とっても不満足そうだった。


ーー


ローション関係の謝罪が終わる。

エリーゼが謝るべき相手はもういない。


次は、俺の無料湯屋のお客さんだ。

さてさて。あのワガママ獣人娘たちには何を言われることやら。

38話で2章の「創業編」は完結です。


3章の「経営編」が最終章となります。

今しばらく、二人の経営譚にお付き合いください。

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