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37話:あの日の約束

俺は、このスライム娘のことを殆ど知らない。


挿絵(By みてみん)


いや、本当はエリーゼに限っての話じゃない。

ヒトは誰のことも殆ど知らないのだ。


だから、相手を知る努力が必要なのである。

知った気にならず、相手を決めつけることなく。


だから、俺は今できる精一杯で君に向き合おうと思う。


「エリーゼは、どうしたい?」


相手に委ねるのはズルいのかもしれない。

けれど、分からないなら聞くしかない。

これが俺にできる最大限の向き合いだった。


「私は…たくさんの人を喜ばせたいです」

「なんで、そうしたいんだ?」


俺は、真っ直ぐに青い瞳を見つめる。

彼女は、やはり目を反らさずに答えるのだ。


「私のためです」


- そうか、君は"それ"を分かっているんだな


「分かった。それなら今日もやろうか」

「はい、そうですね」


俺とエリーゼは顔を合わせる。


「始めよう」

「始めましょう」


そして、最後はいつものように笑った。


「「経営会議を」」


ーー


経営会議を始めると、エリーゼは半ヒト型になっていた。

なんだかんだ、仕事をするときはヒト型が便利らしい。


ローションの大量生産における問題は、前から変わらない。


1.生成速度

2.品質劣化


「原液の大量生成が難しいのは分かった」

「エルダー・スライムが手伝ってくれれば、可能性はあるかもですが」

「それは重要だが、優先度は下げよう」


・重要性:決定的な因子になる要素

・優先性:状況的に急務となる要素


「由太さんは、働いてくるヒトは見つかりそうですか?」

「知り合いに頼んでいるが、まだ見つかってはいない」

「他に見つかりそうな方法はありますか?」

「基本的にはリファラル採用だろうな」

「リファ…ラ?」


この世界では、カタカナ言葉があまり通じないのだった。


「紹介してもらう方法だ」

「私も由太さんも知り合い少ないですからね」


エリーゼは自嘲気味に笑う。

しかし、もうそこに卑屈さはない。


「ローションや湯屋の客にも聞いてみるよ」

「そうですね、お願いします」


行動の方針は決まった。

後、俺が言わないといけないことは…


「ローション量産化の研究は、一度止めよう」

「え…?」


エリーゼに一瞬で悲壮感が漂う。

その顔は、捨てられる直前の小動物のようだ。


「安心しろ。一時的な措置だ」

「でも…」

「代わりに、一日の製造量を増やそう」

「製造量ですか?」

「そうだ。今は半日で20本だよな?」

「はい、そうです」


およそ8時間の作業である。


「筒詰めを他の人に任せれば、何本作れる?」

「30…いえ、40本作れます」

「ばか、無理はするな。30本だな」

「…はい」


まったく、頑張り過ぎるのも考えものだ。

- まあ、俺も昔はそうやって体を壊したっけな


「まずは人を雇って毎日30本作る。いいな?」

「分かりました…」

「焦るな。元々ローションなんてなかったんだから」

「そうですが…」


彼女は不安なのだ。それだけが自分の価値なのだから。

なら、新しい価値を提示しよう。


「まあ、安心しろ。ローションを作る必要がなくなったら、そのときは俺が…」


どうしようもなく下らない、たった一つの価値提案。

そう、いつもの"おふざけ"だ。


俺は、白み始めた東雲の空を眺めて言った。


「嫁にもらってやる」


もし、これが本当のプロポーズなら、世界で一番最低な提案だ。

まあ、これくらい馬鹿げている方が、彼女も笑ってくれるだろう。


「…」


- あれ?もしかして、メッチャ滑った!?


てか、"プロポーズ"なんて、女の子の憧れだぞ?

それをネタにしたら、普通に怒られるのでは…。


恐る恐る、エリーゼの方に目を向けた。

地面には、ちょこんと座ったスライム娘。


怒るでも、笑うでもなく。

彼女は、穏やかな表情でこう言ったーー


挿絵(By みてみん)


「"今度こそ"約束ですよ?」


俺は、初めて君とあった日を思い出す。


『必ず…必ず君を買いにくる』


まったく、いつの間にか俺はフラグを建ててしまったらしい。

一級建築士も腰を抜かすことだろう。


しかし、立てたフラグは回収せねばなるまい。

だから、きっと俺の返答はこれしかない。


「ああ、楽しみに待っててくれ」


ーー


それから、俺たちは計3日間の臨時休業をした。

その間、エリーゼから色々な話を聞いた。


エリーゼも俺にたくさん質問をした。


歌舞伎町で死ぬまでに何をしていたのか。

いつ生まれ、何を食べ、どこで働き、誰と恋をし、どうやって生きたのか。


3日間あっても、お互いの全てを知るには時間は全然足りなかった。

この足りない分は、これから埋めていけばいい。


永遠に埋まることがないのだとしても、埋め続ける努力が必要なのだ。

それが、誰かと一緒に生きるということだから。


そして、臨時休業は開ける。

さあ、始めよう。


- 迷惑をかけた人たちへの、謝罪まわりだ!

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― 新着の感想 ―
由太さんよくぞ言った!これでエリーゼちゃんの幸せも確定したようなもんやな。
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