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32話:量産化への道

俺が家に帰ると、今日もエリーゼはローション量産化の実験をしていた。


「由太さん!おかえりなさい!」


挿絵(By みてみん)


本日も変わりなく、エリーゼはスライム娘ではなく天使だった。

しかし、お花畑な妄想は広がっていかない。


「エリーゼ、少しいいか?」

「ん?何かありましたか?」


俺の様子から、エリーゼは重要な話であると察した。

実験の手を止め、真っ直ぐこちらを見る。


「競合のローションが5,000ポニカになった」

「また…値下げ…」

「いや、それは問題ないんだ」

「どういうことですか?」


俺はエリーゼに事情を説明した。

値下げ、品質低下、売れ残り。

そして、風俗嬢が残ったローションを強制的に買わされていること。


「そんなの…酷すぎます…」

「ああ」

「由太さん。私、許せません」

「そうだな」

「でも、すみません。なかなか大量生産…できなくて…」


エリーゼは寝る間も惜しみ、毎日実験をしてくれていた。

それでも、量産化の目途は立っていない。


「一度、課題を整理しよう」

「課題ですか?」

「そうだ。量産化をエリーゼに任せきりにし過ぎた。一緒に考えよう」

「いえ…私も相談せず、すみませんでした」

「いや、俺の方こそ、すまなかった」


一人の人間と、ほとんど人間の容姿になったスライム。

二人で頭を下げ合った。


二人は顔上げる。あの日のように、やっぱり照れ臭くなって笑った。


- さあ、経営会議を始めよう


ーー


「まず、量産化の課題を教えて欲しい」

「分かりました」


エリーゼは地面に図を書きながら説明を始めた。


挿絵(By みてみん)


「量産化の課題は、二つあります」

「二つ?」

「はい、生成速度と品質劣化です」


1.生成速度:単位時間あたりの生産量

2.品質劣化:生成してからの品質低下


「生成では、何に時間がかかる?」

「元になる液体の生成、水分量の調整、性質の調整、筒詰めです」


生成工程

1.原液生成

2.水分量調整

3.性質調整

4.竹筒詰め


「今は原液まで作って、水分量は"お客さんが調整する方法"を考えています」

「それが、前に見た飴状のやつか?」

「はい。これで筒詰めの量も減らせます」


なるほど。非常に効率的な改善だ。


「これは既に、上手くいっているように思えるが」

「いえ、原液で性質を調整するのは難しいんです」

「そうなのか?」

「はい。原液で性質を変えると、少しの変化が大きな影響になるんです」


方位が1℃ズレると、到着地点が大きくズレるようなイメージだろうか。


「それは、どうすれば改善する」

「私が技術を高めるしかありません」

「そうか…」


完全にエリーゼ頼みとは…何かいい方法はないのか?

ダメだ。簡単に思いつくならエリーゼはやっているはずだ。


「品質劣化はどうだ?」

「品質劣化は、より水分を減らすことで可能だと思います」

「なんでそう思う?」

「実際、飴状のものは劣化が遅いんです」

「食べ物が乾燥した方が保存性が高くなるのに近いのか…」

「どうなんでしょう。それは分かりません」


乾燥によって保存性があがるのは、基本的には細菌の繁殖を防ぐからだ。

粘液にも水分によって増殖するものがあるか…


「水分をより少なくする方法は?」

「これも、私の技術次第です…」

「…」


俺は何も言えなくなってしまった。


これまでの会話から分かったこと。

それは、こういうことだった。


- 俺には何もできない。だから、エリーゼは相談しなかった


判断としては正しい。至極真っ当だ。

エリーゼは、俺のプライドまで見越して相談をしなかったのだ。


「由太さん…」


エリーゼが申し訳なさそうな顔で、こちらを覗いている。

何が"二人で"だ。この役立たずめ。


エリーゼが頑張っている間、俺は何をしていた?

無料の湯浴み場を作っていただけだ。


無料なのだからヒトが来るのは当たり前だ。

挙句の果てにはどうだ?湯浴みをする女の子達は、それに慣れて文句ばかり。


金にならないことをやって、何かをやったつもりになっていた。

不甲斐ない。なんてピエロ野郎なんだ。


そもそもの話だ。

俺はなんで湯浴み場なんてやろうとした?

投資のためではなかったのか?


「え…?投資のため?」


その言葉は思いがけず口から零れ出た。


「由太さん、大丈夫ですか?」


心配そうなエリーゼを俺は明るく見つめ返す。

そして、がっと彼女の肩を掴む。


「エリーゼ!人を雇おう!」

「え?でも、人を雇うのはリスクなんじゃ?」


そうだ。確かに俺は言った。


『エリーゼ。人を雇うのはリスクがあるんだ』


それを言った時、まだリスクを取れる根拠がなかった。


けれど今は?製造量を増やせば、必ず売れる状態だ。

それなら、人を雇って製造量を増やすことはリスクにならない。


「竹筒に詰める作業だ」

「たしかに…それは私以外でもできますね」

「ああ、できた時間でエリーゼは量産化の実験をしてほしい」

「なるほど!分かりました!」


大丈夫。俺は価値を発揮できている。

役立たずなんかじゃない。


「あと、一つ頼みがあるんだけが、いいか?

「なんでしょう?」

「ラトリアたちへの配達、エリーゼに任せたいんだ」

「いいんですか?」

「もちろん」


これは前から考えていたことだ。

エリーゼが、俺以外のヒトと関われる機会を増やしたかった。


ゴブリン三人娘は近場だから負担にならない。

なにより、彼女たちならエリーゼを邪険にはしないだろう。


「ありがとうございます!私、頑張って配達します!」


想像以上にエリーゼは嬉しそうだった。


自分で作ったものを誰かに手渡す。

そんな些細なすら、彼女には大きな意味を持つのだろう。


「エリーゼに配達を任せる分、俺は働いてくれる人を頑張って探すよ!」

「分かりました!二人で頑張りましょう!」


『二人で』


そうだ!二人でだ!

俺もエリーゼも、ちゃんと役割を果たしているんだ!


- 大丈夫!俺たちなら、きっとできるはずだ!

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