28話:量産化への一歩
エリーゼからのローションの製造量を増やす提案は想定外だった。
「いや、エリーゼ。人を雇うのはリスクがあるんだ」
「違います!私がたくさん作ります」
たしかに、それなら人件費はかからない。
しかし…。
「これ以上は仕事の時間は増やせないぞ?」
「大丈夫です!私にいい考えがあります」
そういうと、エリーゼは竹筒に入ったローションを持ってきた。
それは普段から作っているローションだった。
「これは?」
「触ってみてください」
「あれ?いつもより粘度が高くないか?」
「はい!そうです」
エリーゼは自信満々だが、こんな水飴状では使えない。
俺の表情を察したようにエリーゼは説明を加える。
「水を入れるんです」
その一言で俺は理解した。
- 原液希釈か!?
「これ一本で、何本になる?」
「10本です!」
「マジかよ…」
「マジです!」
アンビリバボー!
信じられない!
「これなら容器に詰める手間が減るし、運ぶのも楽になるな」
「ただ、あくまでも実験品なので」
「量産は難しいのか?」
「もっと作る練習をすれば、なんとか」
イッツアビューティフルデイ!
なんて素晴らしい日だ!
「いつ頃までに量産化ができる?」
「まだまだ課題が多いので、30日ほどはかかります」
「わかった。それまでは20本を安定供給しよう」
「了解です!」
エリーゼは、どこまでも前向きだった。
自分が作ったものを誰かが喜んでくれること。
それは大きな自己肯定感を与える。
特にヒトとの関りを持てなかったエリーゼである。
直接褒められることも増え、その喜びは一入だろう。
しかし、俺は自分の見込みの甘さを知らなかった。
相変わらず馬鹿な俺がそれ痛感するのは、まだ少し先のことである。
ーー
場所は移って湯浴み場である。
今日も湯屋は満員御礼だった。
豚娘のアニア、狼娘のランダール。
それ以外にもネコ娘やウサギ娘が来てくれている。
今は獣人が多いがゴブリン娘のときや亜人のときもある。
なんなら、仕事終わりにグループでやってきたりもする。
読者諸君は「女の子達の風呂を覗き放題とか良い身分だ」とでも思うだろうか?
経験者から言わせれば、番頭などはやるのものではない。
悲しいかな。人は少しずつ女性の裸にも慣れてしまうのだ。
そのせいだろう。
俺の一日3回だった自家発電は、今や12回になってしまった。
- あれ?算数ってどうやるんだっけ?
そんな阿呆なことを考えていると、また客がやってくる。
ゴブリン三人娘だ。
「由太さん、今日もお疲れ様です」
「おつかれ!お兄さん!」
「おつおつ」
相変わらず三人は仲良しだ。
「あー、満員ですね」
獣人たちでいっぱいの浴場を見て、ラトリアが零す。
「すまない、少し待ってくれるか?」
「あ、デヴィが早く流したいみたいなので」
「ごめん。ちょっと待ってくれ」
「ううん。大丈夫」
デヴィは浴槽からお湯をすくって股にかけ出した。
もとは行為後の洗浄が目的であり、これで十分なはずだった。
気が付けば浴場は銭湯状態になり、本来の役割からズレていた。
これはこれで良いことだが...抜本的な見直しが必要かもな。
「なあ、湯浴み場で改善して欲しいことはあるか?」
俺はみんなに訊ねた。
「もっと広いと嬉しいかな」
「体を拭く布が欲しいです」
「着替える場所ってないの?」
「外から丸見えなのどうにかしてよ」
噴き出す不満。
聞いたのは俺だけどさ…
客から要望を直接聞けるのはありがたい。
だが、これは無料でやっていることだ。
改善コストが回収できない。
「みんながお金払ってくれるなら、設備を良くできるけど」
「…」
一斉に目を反らす女の子達。
おい、こいつら。急に静かになりやがったぞ。
「あ、でも雨季が来たら困りますね」
そう言ったのはラトリアだった。
「雨季?」
「はい、今は乾季なのでこの水量ですが、雨季には水嵩が増えるので」
「そうなのか?」
「はい。だからどのお店も、川から少し遠いんですよ」
そういうことだったのか。
毎回毎回、川に水汲みに行くのは大変だった。
もっと川の近くに村を作らないのかと思っていたが、雨季を想定した距離だったのだ。
「雨季はいつくる?」
「後、月が4回欠けたらですかね?」
「1回欠けるのは何日だ?」
「15日とかですかね?」
- 2ヶ月後か
「水嵩はどれくらい増える?」
「あそこの林が見えますか?」
「ああ、土手の上だな?」
「そこ、色が変わってますよね」
たしかに岩肌の色が少し違う。
「あそこまで上がります」
「結構な高さだな」
約6mくらいか?かなりの差だ。
地理だけじゃない。気候も分からないことだらけだ。
「というか、雨季はみんな仕事はどうするんだ?」
「普通にやりますけど、お客さんは減りますよ」
「私たちは、雨季はお休みー」
そう言ったのは豚娘のアニアだった。
獣人たちは雨季には仕事をしないらしい。
旧正月には華系の女の子が店にいないみたいだな。
マレーシアとかの風俗がそうだったっけ。
ここで一つ、俺は兼ねて考えていた案を彼女たちにぶつけることにした。
「お客さんを呼べる部屋を作ろうと思うんだが、どうだろう?」




