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27話:疑念の答え

それから数日で、俺の始めた無料の湯浴み場は大盛況になった。


挿絵(By みてみん)


あの日の翌日、ランダールは友達を連れてきてくれた。

その中には豚娘のアニアもいた。


彼女たちは知り合いだったのだ。

ランダールは"人間"を見て"堀辺由太"と予想がついていたのである。


もしかしたら、アニアが俺のことを良く話してくれたのかもな。


「由太さーん!」

「あたしたちが来たよ!!」

「うい」


ゴブリン三人娘も毎日のように来てくれている。


デヴィは冷たい水で体を洗わなくて済むようになった。

それが良かったのか、少しだけ俺に対してフランクになってきている。


もちろん、湯浴み場を維持するのは大変だ。


お湯を沸かし続けるためには、薪を用意して火を管理する必要がある。


湯浴み場の隣に作った小さな石窯で火を沸かす。

大きな石のドテを棒で押しのけて、湯浴み場に新しいお湯を流すのだ。


獣人たちが入った後は浴槽が毛まみれになった。

想像以上に細やかな掃除が必要なのである。


それでも少しずつ、ここは彼女たちの憩いの場になっていた。


ちなみに、彼女たちは服のまま湯に入った。

出た後は服を脱いで絞ったりする。


絞るのが面倒になった子は裸で入りだす。

そこからは、裸で入る子も増えていった。


「なるほど、これが番頭の仕事かー」


なんて言っていると、三人娘に怒られる。


「こっちを見るな!」


おいおい、そこは役得じゃないのかよ。


こうやって、俺が無料で湯屋ができるのには理由がある。

エリーゼが生活費を稼いでくれているからだ。

彼女は毎日欠かさず、20本のローションを製造してくれた。


ローション製造とは粘液を出すだけではない。

竹筒の用意や内容詰め、笹の葉で蓋をする所までだ。


その運営も少しずつ楽になっていた。

エリーゼの発案で、竹筒を回収するようにしたのだ。


これで竹を伐採して筒を作る労働時間も削減できた。

その余った時間で、エリーゼは更なる品質向上を目指していた。


全てが順調に見える時、必ず何か問題が起きる。

今回も例に漏れずそうだった。


その知らせは、湯浴みに来た女性たちの会話から届いた。


「安い方のヌルヌル、1万ポニカになったね」


ーー


これはアニアやランダールたちの会話で分かったことだ。

彼女たちは安いローションを使っているらしい。


- 競合は5万ポニカだった…それが1万ポニカだって?


俺は動揺していた。

またしても親方が俺たちを狙い打ちしているのだ。


しかし、なぜ俺たちの値下げ知れたのだろう?

値下げで卸しているのは三人娘とナディア、それに…。


- トロイカ


断定はできない。

けれど、他の4人とは築いてきた信頼関係がある。


そうは言っても分からないことが多い。


なにより、情報を漏らしてトロイカに何のメリットがある?

彼女は、うちの品質を気に入ってくれているのでなかったのか?


結局のところ、疑念は推測の域をでない。

ならば、直接確かめるしかないだろう。


ーー


その晩、俺はタリアンで出勤前のトロイカを捕まえた。

捕まえたと言っても、ローションを渡しに来たのだが。


挿絵(By みてみん)


「堀辺さん、今日もありがとう!はい50万ポニカ!」

「おう」


トロイカは普段と変わらず、気さくだが掴みどころに欠ける。

彼女は何を企んでいるのだろうか?


「堀辺さん、何かあった?怖い顔してる」

「いや、別に…」

「あ、もしかして、安いヌルヌルが更に値下げしたから?」

「え?」


まさか、トロイカから話を振ってくるとは。

俺は感情を悟られないように少し目を伏せた。


「まあ、そうだ…」

「えー?そんなの全然気にしなくていいじゃん」

「…?どうして?」

「だって、全然質も違うし、これは別物だもん」


またしても俺は困惑していた。

彼女が裏で何かをしているのではないのか?


「このお店ではトロイカ以外には、使ってもらえてないけどな」

「え?何言ってるの?」

「いや、トロイカにしか売ってないから」

「はは、もうやだ~。私だけで10本も使い切れるわけないでしょ?」


そうだ、普通に使えば10本も使い切るわけがない。

トロイカの言いたいことはーー


「自分が使わない分は、他の子に売ってるのか?」

「ピンポーン!大正解!」


そういうことか。

彼女は俺から安く買い付けて、他の嬢に高く売っていたのだ。


「トロイカ、他の子にはいくらで売っているんだ?」

「決まってるじゃない!ひ・み・つ♪」

「ぐぬぬ」

「それに、ここでは私を通して売る方が楽だと思うよ」

「なんで?」

「だって、私はNo.2だもん」


それはどういう意味なのか?

当然、気にはなった。


ただ、この自信に満ち溢れたトロイカの表情。

それを見るに、こういうことなのだろう。

ー 俺が聞いても何もできることはない


「分かった。そしたら引き続きトロイカに卸すよ」

「理解が良くて助かるわ!好きよ、賢い人」


嘘つけやい。可愛げもない。


「じゃあ、明日もよろしくねー」


そう言い残すと、トロイカは店に入っていった。

彼女は店に入る姿も威風堂々だ。


だが、そうなると疑問は堂々巡りである。

競合が値下げした理由が分からない。


俺は頭の中で整理を始めた。


ーー


価格、正確には利益を決める要素は5つだ。


1.新規参入の脅威

俺たち以外に、新たなローション製造業者が誕生した。


2.代替品の脅威

ローション以外に、摩擦から保護する方法が発明された。


3.業界内の競争

これは現状、俺たちと親方の2社しか存在しない。

恐らく、今回の値下げには関係がない。


4.売り手の交渉力

生産元のスライム娘たちによる影響の可能性。

より安く大量に生産できる手段が見つかったのか?

だからと言って、親方たちが安く売る理由がないか。


5.買い手の交渉力

女の子側が5万ポニカでは買わなくなっている?

現状この線が濃い。なぜなら、ローションは元は存在しなかった商品だ。

つまり、5万ポニカ分の効用を認められなければ、購買する理由がない。


これらのことから、立てられる推論はこうだ。


- 親方のローションに不満を抱いている嬢が増えている?


ーー


考えがまとまったとき、そこはちょうど元職場の前だった。

そして、まさに完璧なタイミングで彼女はやってきた。


「あら!由太ちゃん!」

「おう!ナディア!」


あの頃は憎悪とトラウマの対象だったが、すっかりナディアとは打ち解けていた。


ナディア自身、実質的な詐偽に加担していることを後ろめたく思っているのではなかろうか?

だからきっと、彼女は下働きの俺のことをずっと気遣ってくれていた。


それは変わらずに今でも。


「約束のヌルヌル、持ってきたよ」

「悪いな!助かるよ!」

「これも、相当売れ行きがマズいみたいだけどね」

「1万ポニカになったらしいな?」

「仕方ないさ、日に日に品質が落ちてるからね」

「そうなのか?」

「店の他の子も極力、使わなくなり出している」


やはり、品質に問題があったのだ。

これは本当に勝機が巡ってきたんじゃないないか?


「由太ちゃん。もっとヌルヌルを卸してもらえなかい?」

「そんなに必要なのか?」

「他の子に分けてるんだよ。親方のヌルヌルと割って、やっと使ってるのさ」


ナディアもラトリアと同じ使い方をしていたのか。

それに、自分のためではなく、他の女の子のために…。


「すまない、今は20本しか作れないんだ」

「うちには4本だろ?」

「他で16本、完売してるんだ」

「そうか、それは仕方ないね」

「ごめん」

「いいんだよ。むしろ感謝しているくらいさ」


ナディアはからっと笑った。

嬉しいことのはずなのに、胸にざわつきが残った。


事業は順調だ。新しく初めた湯浴み場も好評。

更には競合の製品の質が悪化。

おかげで俺たちのローションの人気が戻っている。

今なら元値の10万ポニカでも売れるはずだ。


でも、なんなのだろう?この感覚は?


その答えは出せないままだった。

俺は少しだけ重くなった足取りで帰路についた。


けれど、いつだって俺には"君"がいる

こんな俺に前を向かせてくれる"君"が。


家に帰ると"彼女"は今日も俺の帰りを待っていた。

すっかり人型になったスライム娘だ。


半透明な空色の髪が月明かりで光っている。

そして、彼女は嬉しそうに告げるのだ。


挿絵(By みてみん)


「由太さん、ローションの製造量を増やしましょう!」

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