第24話:掴んだ糸口
俺たちはナディアと別れ、タリアンに向かっていた。
行く途中で、何人かの立ちんぼを見かけたので声をかけた。
ー 昨日の轍は踏まないぞ!
と、思っていたが今日は本当に楽勝だった。
というのも、エリーゼが一緒だからである。
男はつらいよ。
5人のゴブリンと亜人にヒアリングをすると、皆が安いローションを使っていた。
しかし、痒みを訴えるヒトは誰もいなかった。
ありゃ?勝機かと思ったんだんが…。
ーー
聞き込みをする間にすっかり夜になり、俺たちは本命のタリアンにやってきた。
「お、いたいた」
「由太さん、あの方たちですか?」
「そうなんだけど、なんか少し多いな」
待ち合わせ場所には、背の高い黒緑の髪の亜人がいる。
とても目立つ容姿。見間違うはずもない、リギリトゥだ。
しかし、それ以外にも亜人がいた。
いや、亜人だけじゃない。ゴブリンや獣人までいるではないか。
俺たちが近付くと、リギリトゥがこちらに気が付く。
「やあ、リギリトゥ」
「うん」
淡々とした挨拶である。
リギリトゥがこんなに集めてれたのか?
そんな中、派手なピンク色の亜人の女の子が声を上げる。
「あなた、昨日もここにいた人間でしょ!?」
「おっ、え、はい」
「なんだ~、てっきり私の"追っかけ"かと思ったじゃない!」
思い出した!
昨日の聞き込みで最初に話しかけた子だ!
そして、フルシカトした子だ!
「てか、リギリトゥに声かけるとか恐いもの知らず!?」
「おい、トロイカ」
リギリトゥに"トロイカ"と呼ばれた女性は、大袈裟に怖がってみせた。
「でも、リギリトゥが"皆を集めてほしい"なんて、びっくりしたよ」
「君はリギリトゥと仲が良いの?」
「まあ、私は一応?彼女は孤高のNo.1だから」
「トロイカ、無駄なことは言わなくていい」
「はいはい」
え、リギリトゥって何者なんだ…
そういえばラトリアもリギリトゥのことを言っていてたな。
女性たちの中で特別な存在なのかもしれない。
リギリトゥは、相変わらず表情を変えないまま告げる。
「聞きたいことがあるんだろ」
「お、おう」
「なら、聞け」
「うん」
そういうと、リギリトゥは店の端にある少し大きな椅子に座った。
そして、ポケットから何かを取り出す。
すると、すかさず別の亜人がかけよった。
少し遠いので手元が見えないが、火をつけたようだ。
どうも、この世界にもマッチ的なものがあるらしい。
口から紫煙を吐き、今日も彼女の真っ白な瞳が美しい夜空を映す。
残された俺たちは、さっそく聞き取りを行った。
俺とエリーゼは別々に分かれて、2人で合計10名以上の女の子から話を聞くことができた。
また、彼女たちに試供用ローションを配ることにも成功した。
30分ほどで話を聞き終わり、リギリトゥに御礼を言おうとした。
しかし、そこにもう彼女の姿はなかった。
代わりに、トロイカから一言。
「彼女がいるのに、女の子を口説くなんて悪い人ね」
ーー
帰り道、タリアンを北に上ると、俺の元職場の付近に戻ってくる。
ちなみに、"元職場"と呼ぶのは、あそこには名前すらないからだ。
キャッチだけで成立するサギ置屋。
それでも固定客がいるのだから不思議なものだ。
「エリーゼはどうだった?」
「概ね、由太さんから聞いた通りでした」
「俺の方もだ。あまり新しい収穫はなかったな」
「あ、でもトロイカさんは"安いローションは痒いから嫌"って言っていましたよ?」
また"痒み"か。
いったいこれは何なのだろう。
種族…ではないな。ゴブリンも亜人もなんだ。
相手は大量生産…一本一本の質が安定してないのか?
「でも、リギリトゥさん。綺麗な亜人さんでしたね」
「エリーゼから見てもそうなのか?」
「誰から見てもそうじゃないんですか?」
「綺麗だが…一般ウケはトロイカじゃないのか?」
「たしかに、トロイカさんはNo.2って言ってましたし」
なるほど、そういうことか。
No.1はリギリトゥ、No.2はトロイカ。
他の子達はカースト的に話しかけられないのだ。
「あ、でも"ラトリアが在籍ならNo.2は怪しいかも"って」
リギリトゥ、トロイカ、ラトリアの3トップ。
いや、ちょっと待てよ?
"痒い"と言っているのは全員がトップランカー?
だが、ナディアもいるしな…。
そこにIQ69億の超越的な頭脳が、綜合的で演繹的な帰結を導出する。
「なあ、エリーゼ」
「なんでしょう?」
まったく、なんで俺は、いつも変な頼みをしないといけないのだろう?
だがしかし、これは必要なことなのだ。
「ローションは作れるか?毒入りのやつ」
ーー
俺たちは、家と呼んでいる"ほぼゴミ置き場"に帰宅して、早速実験に取り掛かった。
エリーゼのローション製造技術は格段に上がっており、瞬く間に毒入りローションが完成する。
「これをどうするんですか?」
「塗る」
「え?やめた方がいいですよ?」
「大丈夫だ!」
「いや、大丈夫じゃないですよ?!」
「止めないでくれ!」
「いやいや、止めますよ?!」
この意固地スライム娘め。
ちょっと痒くなる可能性があるだけだろ?
「由太さん」
「ん?」
「ちょっーと、失礼しますねー」
そう言って、エリーゼは俺の頭を触る。
その距離にドキッとしてしまうが…
「イテっ!」
エリーゼは、俺の髪の毛をブチッと引き抜いた。
ー おいおい!30代は毛髪に敏感なんだぞ!
そんな糾弾もさせぬ間に、エリーゼは俺の髪を毒入りローションに浸ける。
その瞬間。
シュワっと弾けるスパークリング♪
髪の毛は一瞬で溶けてしまった。
俺の顔は凍り付く。蛇に睨まれた蛙だった。
そんな井の中の蛙を、エリーゼが笑顔で見つめている。
「塗ります?」
「いや、ごめんなさい」
「ケガじゃ、すまないですよ?」
「はい、申し訳ございませんでした」
というか、こんなに毒って強いのか!?
簡単に人を殺せるぞ!?
エリーゼを怒らせるのは止めよう…
「その毒、強すぎないか?」
「もっと抑えた方がよかったですか?」
「当り前だろ?」
「え?あ…なるほど。そうですよね…?」
エリーゼは目を泳がせていた。
この子、何かとんでもない用途を考えていたのでは?
やはり、エリーゼを怒らせるのは止めよう…
ただ、髪の毛の溶解で分かったことがある。
これは、恐らく超強アルカリだ。
実際は分からないが、タンパク質を分解してしまうのではないだろうか?
これを薄めれば、皮膚刺激になるかもしれない。
やはり、俺の仮説は正しいのだろう。
「エリーゼ。痒みの原因は、やっぱり毒だ」
「でも、使っている方が全員言っているわけじゃないですよね?」
そう、それが分からなかった。
だから、毒の性質が知りたかったのだ。
「一日の使用時間だ」
「時間ですか?」
「人気で何度も客を相手にする子は、毒の影響が出やすいんだ」
ここで、昨日のできごとが繋がる。
デヴィは行為の後に川に直行した。
恐らく前に使った時に、少し放置してしまって、肌に違和感がでたのだろう。
「エリーゼ、やるぞ」
「何をですか?」
今の俺は冴えている。
だから、久々に格好つけて、自信満々に言わせてもらおう!
「第二回経営会議だ」




