第22話:初めまして!
俺とエリーゼは二人で、道の真ん中を歩いていた。
別に何もない、ただの田舎の村はずれ。
まともな舗装もない土の道である。
それでも、この人型になったスライム娘は、一歩一歩を踏みしめていた。
「ふっふふ、ふーん♪」
「ちゃんと前見て歩けよ。転ぶぞ」
エリーゼは上機嫌だった。
しかし、それもそのはずだろう。
彼女とっては人生初。
お天道様の下で歩く道なのだから。
「うわあ!」
エリーゼは、まだ慣れない人間の体で、足がもつれて転んでしまう。
ほら、言わんこっちゃない。
「いたた…」
「大丈夫か?」
俺はエリーゼに手を差し出す。
「ありがとうございます!」
すっかり人間と同じになった手は、やはり少し柔らかい。
グッと力を込めて引き寄せる。
「よっと」
しかし、勢い余ってエリーゼは俺の腕の中に…
「えへへ」
「ん…」
エリーゼは、無邪気に見上げてほほ笑む。
しかし、俺は少し目を反らしてしまう。
いやいやいやいや!
俺は百戦錬磨の風俗レビュワーだぞ!?
こんな小娘相手に?
照れたりするわけないじゃないか?
そんな道のど真ん中で抱き合う二人に、後ろから声がかかる。
「あら?由太さんじゃないですか?」
振返ると、そこにいたのはゴブリン三人娘の義長女、ラトリアだった。
「いつも遊んでくれないと思ったら、こんな素敵な彼女がいたんですね~」
「いや、彼女では…」
「初めまして!エリーゼです!」
小学生みたいに、元気いっぱいの声である。
うむ、大いに結構!
「エリーゼさんね。私はラトリアです」
「はい、知ってます!」
「あれ?どこかで、お会いしましたっけ?」
「あ、いや…」
エリーゼはゴブリン娘たちを、いつも遠くから見ていた。
だから、ラトリアのことをよく知っているのだが…。
当然ながら、ラトリアからすれば初対面である。
「俺がいつも話しているんだ」
「えー、彼女さんに他の女の話しちゃダメですよ~」
「そうですよ!ダメですよ!」
いや、なんでエリーゼが乗っかるんだよ…。
「エリーゼは一緒にヌルヌルを作ってるんだ」
「え?…ふーん」
ラトリアは、エリーを上から下まで観察するように見た。
彼女にしては珍しく、ヤケに真剣な眼差しだ。
「エリーゼさんって、人間?」
「え?えっと…」
「そう!人間!」
俺はとっさに、エリーゼが人間だと言ってしまった。
これは、どうだ?
マズかっただろうか…
「やっぱり、そうですよね!」
「それ以外の何に見えるんだよ~」
「いや、人間の女性なんて滅多に見かけないので」
なに?そうなのか?
ここは、カマをかけてみるか。(懲りない)
「逆にどこで見たんだ?」
「前に"パルア"の街に行った時に一度だけ」
「パルア?」
「はい。正確にはパルアはこの東エリアの総称ですが、中心地をパルアと呼ぶことが多いですね。ロタの村はパルアの西の端っこにありますから」
ロタの村は、東のエリアでも辺境の地だったのか。
南には海があるって言ってたし、この世界の地理の把握も課題だな。
「パルアは結構栄えているのか?」
「"タリアン"くらい綺麗な施設がチラホラありますね」
それは凄い。
やはり、東南アジアのようなイメージなのかもしれない。
「ロタからはどれくらいの距離なんだ?」
「歩いて行くと、朝に出たら日暮れ頃に着くくらいですかね?」
道の険しさにもよるが、20kmほどか?
甲州街道なら、日本橋-府中くらいの距離になるな。
「あの、由太さん、そろそろ行かないと」
「あ、そうだったな」
ローションを売ったら、エリーゼと村を散策してタリアンに行くのだ。
「どこかに行くんですか?」
「村で買い物をして、そのあとタリアンにいく」
「あれ?昨日も行きましたよね?」
「ああ、そこで知り合った子が、他の子も紹介してくれるって」
「へー、誰ですか?」
「リギリトゥって子」
「リギリトゥ!?」
ラトリアは、なぜそんなに驚いているのか?
「リギリトゥさんって、亜人の方ですよね?」
「そうそう。目の白い」
「えー、やっぱり由太さんは凄いですね…」
なんだ、なんだ?
どういう反応なんだ?
「由太さん、お話はまたにしましょう」
「いや、エリーゼ。ちょっと待って」
「ふふ、女の子を待たせちゃダメですよ~」
ラトリアは、いつものように柔らかくニコニコ笑う。
「そんな気になる言い方するなら教えてくれても」
「えー、秘密ですー。それに、私もお客さんのとこ行かないとなので~」
「そんな~」
すっかりラトリアは俺をからかうようになった。
まあ、良い関係ができているのかもしれない。
「あ、あと今日はヌルヌルを二つもらってもいいですか?」
「もちろんだが、どうして?」
「んー、やっぱり由太さんのやつの方が良いかなって!」
「ラトリアさん!本当ですか!?」
エリーゼは、自分の作ったローションを褒められて、目をキラキラさせている。
「あ、でも、安くするの考えておいてくださいね」
「ラトリアさんなら良いです!安くします!」
- おい!エリーゼ!勝手に安くするな!
そう言おうかと思ったが、止めることにした。
なぜなら、エリーゼにとって今日が、初めてヒトと関わった日だからだ。
そして、初めて自分の作ったものを直接褒められた日でもあった。
だから、これは安売りではない。
エリーゼなりの、感謝の気持ちなのだ。
俺は、苦し紛れにこういった。
「2本買ってくれたから、特別価格だ」
この一言が、後の販売戦略に革命を起こすことになるとは...




